さる8月22日に、シンポジウム「迫り来る超高齢社会とユニバーサルデザイン」〜商品企画・デザイン・表現において問い直すべきこと〜を開催した。このサイトでは、このシンポジウム関連記事を、以下のようにくどいほど何度も紹介してきた。
印刷産業はUDにどう取組むべきかユニバーサルデザイン(UD)をくどく採り上げている理由は、上記を読んでいただければわかるだろう。シンポジウムの内容紹介は、紙媒体ではJAGATinfo、プリンターズサークルや、またこのWEBで順次お伝えする予定であるが、最初にザクッと総括をしておきたい。
企画デザインの要件としてのUD
標準化が進むユニバーサルデザイン
まだ離陸していない印刷のユニバーサルデザイン
ひとつの糸口としてのユニバーサルデザイン
すべての人が使用可能な設計・デザイン「UD」
印刷ビジネスにUDの視点を
ユニバーサルデザインに,なぜ取り組むのか
要するにこれからの印刷物の顧客満足は、生産合理化によるコストダウンや時間短縮、IT化による伝達効率・処理効率の向上などの物理的な努力だけでは限界がある。かといって主観的な品質向上を目指すことも、ゼロエミッションを目指している時代への逆行である。では、良い印刷物作りの指標をどこに求めるかを考えた時に、UDというデザインのアプローチ方法は非常に参考になるのではないか、というのが取り上げる理由である。
今回のパネラーは、経済産業省の渡邊武夫氏、凸版印刷(株)の山下和幸氏、味の素(株)の島崎紘而氏、(社)人間生活工学研究センターの畠中順子氏、(財)共用品推進機構の星川安之氏の5名で、それぞれUDに近い分野で活躍してこられた方々である。
経済産業省の渡邊武夫氏は、JISという工業規格の中に消費生活の観点を取り入れて、標準化活動をマーケットインにしていく流れを、JISおよびISOの両面で説明した。既に牛乳などのパック、缶飲料の識別その他、高齢者・障害者配慮のJISは商品開発に採用されていて、UD関連は日本が先行していることと、特に日本からISOに提案しているという話があった。規格としてはUDは細かい規則の羅列のようにみえるが、評価方法・モニターテスト方法・適合表示・ユーザビリティ認証など、今後の展開も垣間見られた話であった。
凸版印刷(株)の山下和幸氏は、同社がUDに対する戦略的アプローチを構築し、各事業でUDに取り組むなど全社的な対応になっていることと、すでにパッケージに関してUD診断システムのパテントを申請中で、扱っている印刷物の診断データの蓄積も行っていること、またUDに沿った印刷物作りのための内規があることなどを話し、参加者は同社でUDのノウハウ化が進んでいることに驚いていた様子だった。
味の素(株)の島崎紘而氏は、今あるものを改良しながらUD化していく様子を事例を豊富に挙げながら語った。事の発端は「ほんだし」のキャップが変更されて視覚障害者からクレームがきたことで、調味料がどのような消費者にどのように使われているか知らなかったことに気づいた。消費者から教えてもらう格好で商品のUD性を点検し、商品デザインをUDの視点で行うように変えてきている事例である。
(社)人間生活工学研究センターの畠中順子氏は、年齢・ライフスタイル・住居など生活の特性を考える「生活工学」と人間工学を合わせた視点から、製品開発のプロセスである企画・概念設計・詳細設計・評価のサイクルをどのようにまわすかについて、ISO13407「インタラクティブシステム」を例に説明した。要するに工学の方法論をUDに使うと近道であることと、人間工学の人間の特性に関する基礎データの活用を説いた。
(財)共用品推進機構の星川安之氏は、玩具のトミーでUDが提唱される何年も前から、障害のある子もない子も遊べる玩具作りに携わってこられ、その考え方はトミーのみならず日本の玩具業界に広まり、さらに世界の玩具業界に波及し、その「共用品」という視点は一般の商品開発に組み込まれて、さまざまな業界が取組むに至った経緯を話した。高齢者・障害者に不便さ調査をしてデータベース化をしている。また以上の経験をもとにJISやISOの規格化に積極的に関与されている。
以上、大変広範囲な話であったが、最初に印刷業界にとってあまり関心が持ち難いテーマかと心配していたにもかかわらず、シンポジウムを聞いてみるとUDは意外に身近なものであると感じた。もうすぐ日本は人口の半分以上が老眼の社会になろうとしている。印刷物の見え方も、文字の大きさだけではなく、色の見え方、配色など含めて総合的に問い直しが必要になる。
さらに認識能力が鈍ることに関しては、凸版印刷の山下さんが「五感に訴えるデザイン」を強調されておられたが、中でも触覚による識別が先行していることがいろいろな話の中から浮き彫りになった。点字は読める人があまりいないが、健常者でもシャンプー容器にポツポツがついていれば、洗髪中に目を開けなくても判別できる。JISにも凸記号表示があるが、印刷加工分野の仕事に直結する課題は非常に多くあるといえよう。
UDは憲法のようなものといい、やはりUDの定義は難しい印象はあるが、一方何にをすべきかは明確であるので、時間のかかる立法・行政の摺り合わせが必要なトップダウンでUDは行われるのではなく、個別の法律などに抵触して法の改正が必要になるようなところは後回しにして、むしろ民間主導で動く可能性が強いように思える。
機能性を追及する印刷物からスタートするのであろうが、ちょうどQCと同じようにボトムアップの流れで、現状の改良を手法化して、デザインもガイドに沿って行い、モニタ評価を受け、またガイドのブラシアップをするというサイクルをまわしながら、改善を積み重ねることと、そのような設計をしていることを示す適合表示とか認証がされるような姿が思い浮かんだ。
2002/08/27 00:00:00