エクスクルーシブフォントの考え方とAXIS Type Projectの経緯についてタイプデザイナー鈴木功氏のお話をお伝えする(2002年6月T&Gミーティングより)。
日本では大手新聞社が専用書体を開発して使用する例があり,また,三省堂の辞書用書体や精興社の本文用明朝体がある。DTPでも,たとえば画面表示用のOsakaフォントはMac OSに限定されるという意味でエクスクルーシブフォントといえるだろう。海外では,たとえばグーテンベルグの「42行聖書」の書体,ウイリアム・モリスが「チョーサー著作集」のために制作した「チョーサータイプ」や,「Golden Legend」のための「ゴールデンタイプ」などがある。DTP以降では,ジョナサン・ホフラーがファッション雑誌「Harper's Bazaar」誌用のHTFディドー書体を開発した例,マシュー・カーターがAT&Tの百周年にあたってベル・センテニアル書体を開発した例などがある。
そもそも明確な目的をもって制作された活字書体はみんな専用書体として開発されたといえるのではないか。とすれば,エクスクルーシブフォントというアプローチは,書体制作の原点に近い作り方だと考えてよいのではないだろうか。
2. アプローチ
1998年10月に書体のプロトタイプの制作を始め,1999年3月には短い組版サンプルを作ってアクシス社を訪問した。このときは雑誌1冊丸ごと組むことなど考えず,書体を共同開発できないかという持ちかけ方をしたが,アクシス社も強い関心を持ってくれた。
アクシス社は1981年,設立と同時にAXIS誌を創刊し,2001年9月に20周年を迎えるため,20周年のリニューアルに新書体を使うというプレゼンテーション資料を作った。「AXIS Type Project」というプロジェクト名を付け,組版サンプルを数ページ付けた。当時,AXIS誌は本文に新ゴシックを使用しており,それとの比較によるプレゼンテーションを行なった。アクシス社側も「雑誌リニューアルのために書体を開発する」という試みに共感してくれ,プロジェクトが動き出した。
3. 開発
AXIS誌は英語と日本語の2か国語表記という特徴があり,欧文書体にも高い品質が要求される。そこで欧文については欧文タイプデザイナーの小林章氏にデザインを依頼することにした。小林氏には欧文デザインに対する要望と,和文AXISフォントのプロトタイプのデータを渡して,具体的なデザインを一任した。
組版テストは,実際にAXIS誌で使用したテキストを用いて同じサイズで組んでプリントアウトし,新ゴシックと比較検討した。たとえば本文・キャプション用のAXIS Lightは,従来の本誌の印象とあまり大きく変わらないように,それまで使用していた新ゴシックのウェイトとほぼ同じにした。雑誌一冊をひとつのファミリーで組むために7つのウェイトのAXISフォントを制作し,2001年9月にAXIS誌20周年リニューアル号でデビューした。それまでのAXIS誌はPageMakerで制作していたが,AXISフォントをOpenTypeで制作することにした結果,制作環境も変更することになった。OpenTypeをサポートするアプリケーションがInDesignだけだったからである。
エクスクルーシブフォントの第一のデメリットはコストの問題である。フォント制作には多くの開発費と開発時間がかかるが,一般市場向けのフォントなら,たとえば1本1万円で年間に千本販売できれば年間1,000万円になるという開発計画が立てられるが,エクスクルーシブフォントは誰が開発費を準備してどう回収するかが大きな問題である。第二に,使用範囲が限定される点は,私はデメリットとは思っていないが,オープンに使用できるのがメリットだと考える立場からすればデメリットになるだろう。また,アップデートがしやすいということは,逆にいつまでも直し続けるという手離れの悪さにつながる。アップデートのしやすさというメリットか,手離れが悪いというデメリットのどちらを優先するかである。私はアップデートによる品質の向上にかけたいのでアップデートのしやすさを評価したい。
DTPの黎明期には,メーカーごとに明朝体・ゴシック体・教科書体・楷書体・隷書体など一通りの書体のラインナップを揃えることに意味があった。しかし企業や個人が多くの書体ラインナップを提供するようになると,ユーザはどの書体をどう使ったらよいのか分からない。制作側も,とりえあず明朝体やゴシック体を制作して提供するということになって,非常に曖昧な状況で制作してきた。それが1990年代の日本語フォントの状況だったと思っている。
タイプデザイン,とくに本文用明朝体というとありきたりのものだと思う人が多いかもしれないが,そこには書体制作側のいろいろな試みや新しいアイデアが存在し,使う人の意図が存在する。これからは書体制作側もひとつひとつのタイプデザインを独立したプロジェクトとしてとらえ,書体に込めた試み,アイデア,使用側の意図などを語りかけること,説明することが重要だと思う。
(テキスト&グラフィックス研究会)
2002/09/03 00:00:00