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印刷業はクロスメディアにどう取り組むか

〜JAGAT通信&メディア研究会 インタビュー〜


質問:JAGAT Webmaster
回答:JAGAT 通信&メディア研究会 小林利恵子

印刷会社のITソリューションとは

質問:印刷とマルチメディアは近いような遠いような感じで,関係がつかみにくいように思います。

回答:印刷業のマルチメディアの取り組みは1980年代初めごろからありましたが,今日の電子メディアの取り組みは当時は想定していなかった。例えば,紙媒体の制作作業になぞらえて,マルチメディアを考えるというもので,画面に表示するための編集(CD-ROMの辞書など)は,その後,紙の上に出すのではなく,HTMLでコーディングするようになった。今までの印刷の延長上に考えていた時代があった。
ワンソース・マルチユースという考え方があるように,印刷物用に作ったコンテンツを流用するビジネスができないかというとらえかたでした。

質問:非常に身近なわかりやすい話ですが,世の中はそういうふうにはいっていないですよね。

4 回答:確かにそうです。紙媒体の文脈で電子メディアを作るというのは一回破綻したともいえる。今日のIT環境の中の電子メディアは,むしろ,ビジネスや生活の場で印刷物を使って何かの目的を達成するということ。平たく言えば情報伝達やコミュニケーションなどのことです。このやり方をIT化するというのが,第1の使命になっていて,その中で電子メディアが必要となるのです。
 Webで通信販売をするというのは,単にカタログをみせているのではなく,取引というものの無人化の中に電子カタログが組み込まれているという,ビジネスのソリューションが先に求められるようになったのです。

質問:ITのソリューションというのは,印刷の人の出番はなくなるのではないかといわれますが?

回答:まったく従来の印刷物制作の視点から抜け出さないならば,ITソリューション関係のビジネスの輪の中には入っていけません。
ただ,現場的に言えば,写植のコーディングもXMLの習得も技術教育といえばそう変わるものではないので,潜在的にサービスの供給力はあります。これは今後のリテラシーの再教育をすれば,社会に役立てられると思います。

質問:XMLの人材がどこでも足りないといわれていますが,なぜですか。

回答:テキスト情報であっても,XMLは加工に手間隙がかかるので,通常のビジネスの場では必要ない。コンテンツに集中している一般の人は,属性付けやコーディングなどの作業は慣れていないからです。
一方,写植でもDTPでも,文章の中身はみていません。属性や構造に特化した作業をしています。そういう特性が印刷業界にはあるということです。

質問:HTMLでもコーディングでは儲けられないように,XMLができたとしても,それだけではなかなかビジネスにならないのでは。

回答:今の話はあくまでも技術と技能の共通性を言っただけで,ビジネスにするには,どのような戦略を持つかということが一番の問題です。それについては,10年前のマルチメディアが破綻したまま,業界で共通認識となるような戦略がありません。個々の会社で模索しているという状況です。


メディア戦略と人材

質問:先日,電子メディアに関するアンケートをしたところ,制作側から情報処理的サービスにシフトしようという傾向があります。

 ●デジタルコンテンツビジネス動向アンケート
 ●売上のわりには電子メディアに積極的な印刷業

世の中にはIT専門の会社がしのぎを削っている中で,印刷会社が競争に勝てるのでしょうか?

回答:印刷会社が行おうとしている電子メディアビジネスは,印刷とは全く関係ないデジタルの音楽や映像というよりはむしろ,今まで紙媒体を使っていた分野を電子化していこう,電子カタログ・電子マニュアルなどに重心があります。
 紙メディアと電子メディアをあわせて効率的にできないか,というのが印刷会社の戦略だと読み取れます。

質問:今日,DTPという面でデジタル化は進んでいますが,ITスタッフはDTPのスタッフとは資質が異なるのでは?

回答:DTPのスタッフに比べると少ないが,別にWebや電子メディアの専門スタッフを抱えているところが多くあることがわかりました。今後,DTPのスタッフを電子メディアのほうのスタッフに転換していくことが業界のひとつの大きな課題となるでしょう。

質問:IT化が進めば,印刷から電子メディアの置き換えが進んで,DTPの仕事も減るのでは?

回答:ですから,DTPのスタッフの中から電子メディアにふさわしい人を再教育していくことが,急いで行わなければなりません。

質問:印刷会社といっても様々な規模や業務があるが,実際に電子メディアをてがけることができる会社はどの程度あるのでしょうか。

回答:大手印刷会社では,何百人単位の人が電子メディア関連で働いています。コンテンツに関する作業は印刷業の占める割合は今日でも大きいでしょう。
先日のアンケートは,大企業を除く数10名の中小印刷業が中心だったが,その中には主たる業務が電子メディアになっているという会社がちらほらあった。規模の小さい会社のほうが,劇的に戦略を変えて進んでいく傾向もある。印刷会社の数%くらいはかなり本格的に電子メディアの業務にシフトを考えていると思います。

質問:たった数%ですか。

回答:統計的に言えば,何万社ある印刷業なので,数%でも全部あわせれば数百社になり,デジタルメディア制作に関わる他の産業から比べても決して小さい規模ではないと思います。
印刷業にもいくつもの顔があり,顔のひとつとしてコンテンツ関連の制作を担う時代が遠からずくるでしょう。

Webmaster:ありがとうございました。

●通信&メディア研究会:
ブロードバンドで変わるWeb制作 9月18日開催

2002/09/04 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会