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ユニバーサルデザインは企業文化とともに

「よいものを作る」指針を今日流に問い直して、8月22日にユニバーサルデザイン(UD)のシンポジウムを行った。概要は前回の報告記事「作りっぱなしから,検証へ。UDという方法論」で述べたが、ここではシンポジウム企画時点で想い浮かんだ問題に、どのような答えが得られらのかをまとめてみた。内容は今までのUDの記事と重複する部分があるが、それらのまとめなおしという意味もあるのでご容赦願いたい。

まず最初に「UDは今後ISO'sのように取り組まれていくのか?」については、結論としては、それを議論するほど各分野の足元は揃っていない現状では、判断し難いようであった。今回発表のあったパッケージとか、共用品の発端である玩具は多くの商品例があるが、だいたいUDの起源でもある建築物とりわけ公共性のあるものでもバリアフリーはまだそれほど浸透はしていない。これらは都市デザインと合わせた基準作りが、しかもその地域だけでなく旅行しても矛盾がないように国際的な基準がまだできていない。その動きがおこる時に社会的な大きなうねりも起こるのかもしれない。

今「UD」のイベントがあると、日本では障害者も使える「共用品」、障害者のための「バリアフリー」、汎用品からバリアフリーに近づけたISO/IEC Guide 71の「アクセシブルデザイン」、ISO/WD20282の日用品の「ユーザビリティ」など、UDと重なるところがある類語がいくつも出てくる。これらは少しづつニュアンスが異なっている。「UD全体を貫くものは何か」というのも大きすぎる問いであって、今回はそこまでは議論できなかった。それぞれの活動が進んでいるので、当面UDという漠然とした呼び名を使わなくとも差し支えはなさそうだが、「UDの全体像とは何か?」は確認しておきたかった。それはひとつの糸口としてのユニバーサルデザインの図で間違いないようである。

ただし「公」の立場は標準化以外はまだ動きはあまり見えず、高齢者が自転車で坂を登れるようにと電動アシスト自転車の規格作りをしても、道路交通法の対応がまだされていないような話があった。また図の下の人間工学については過去からのデータがあるものの、それほど参考にはされていないようだし、共用品推進機構でもいろいろな障害者団体と共に日常生活における不便さ調査のデータベース化を始めたばかりである。
視覚・触覚の人間工学的なことについて、もっと印刷に近いところの研究を公なところでしてもらいたいという意見もあった。確かに具体的に使おうとするとまだ足りない部分があるが、今日UDで先行しているところは、自分達がUDを速やかに展開できるように、情報を公開しあい、情報を共有しようという機運もあった。やはり先行者はノウハウも先に貯まることになりそうだ。

UDはやはり図の中央の企業の日常の商品開発と共に進むといえる。今回登場いただいた企業でもUDへの取り組みが最初は「点」であったのが、UDを進めるうちに社内の意識が変わるという「線・面」への展開を経験されるなり気づき始めている。そのように意識改革が広まってコーポレートカルチャーを変える力をUDは持っているようだ。
先に「信頼とか満足度の基準が変わってきた」「モノの飽和、モノ離れの中で質的な充実」を目指すようになったことを書いた。一般にPL法などへの対応などでは企業防衛的な姿勢もあるかと思うが、それを超えて「社会と調和する方向で商品開発などの企業間競争を行う」というのは、UDでは現実のものとなっている。UDの先行きは、このカルチャーが広がるとともに浸透するだろうという、いささか曖昧で頼りない予測ならできる。なにしろ企業活動の中でのUDなので強制力をもたない点が弱い。

今はまだビジネスに結びつかないが、「水面下でくすぶっている問題は多いのでは」という点では、「主観的な印刷物企画」ではなく、「生活者の視点まで行って印刷企画を考える」ことをすれば見えてくることが多いはずだ。先の共用品推進機構の調査のように、印刷産業がまとまって印刷物に関わる不便さ調査というのをする必要があるだろう。それと合わせて既に手に入る見易さに関する人間工学的データの洗い出しも必要である。これらを元に、それぞれの会社や分野での取組みテーマを考えるようにできることが望ましい。

最初は、「ユニバーサルはとっても強力な語」だと考えたが、UDという強い運動が起こるというよりも、いろいろな運動の総称がUDであると考えた方が現状にあっている。だからUDとはいっても、現行のモノの改良型で、やり易い限定的なところから始まる段階はしばらく続くだろう。「そのうち似た理念の運動と結びついて、大きな尺度になる」とすると、やはり法令が整備される時だろう。
日本では世界に例をみない少子高齢化が始まるが、「そこで経験したことは他の先進国でも通用するビジネスノウハウになる」のは確実だ。共用品推進機構の星川氏は、欧州では介護用品は充実しているのに、「共用品」の規格が探してもなかったとおっしゃっていた。日本からISOへ提案のguide71の例のように、日本は利用者相手のきめ細かい配慮は得意な国かもしれない。guide71のISO化を契機に国際的に認められたなら、国内のUDの推進も進むだろうという見方があった。少子高齢化という日本の弱みが強みになるというのも夢ではないように思える。

2002/09/06 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会