DTPは習得が早いのが大きな特徴であった。ではその代償として失ったものはないのか。どうもそれは割付の訓練がなくなったことのように思える。DTP以前は制作を始めた後でのレイアウトの変更は非常に困難なので、事前に割付のスキルが必要であった。レイアウトもいろいろな方法論が考えられて、グリッドという概念もよく取り入れられていた。
今のDTPにはせっかくグリッドという機能が備わっているが、オペレータには意外と知らない人が多い。ではどのようなレイアウトをしているのか? 欧米流のDTPは何字何行で版面を決める流儀でもなかった。何が何でもグリッドが最高の方法とはいわないが、グリッドを越えることを目標にするにくらいならともかく、グリッドを知らないというのも問題だ。
JAGATのDTPエキスパート認証試験の課題制作では、印刷物としての適正なものができるか、逆にいえば適正上に問題があることをチェックする能力があるか、を見るのが主目的で、グラフィックデザインは問わないことにしているが、あまりにも読みにくいとか、判りにくくなっているものは減点される。組版は減点されるところで、その要因のひとつにデザインはなっている。A4の印刷物で9ポイント文字を1段組にすると、組版の設定上の無理が生ずる。不自然な文字領域の取り方をしているのを見ると、この人はレイアウトをどう考えているのかと不思議に思う。
デザインやレイアウトという作業は,どのようなことを伝えなければならないのか、そのためにどのような効果を出そうとしているのかなど、最初から意図をもって行わなければならない。それに沿って図や文字を配置して組み合わせることで,ある印象を演出するものだろう。
出来の悪い提出物には、レイアウトの方針が皆無と思われるものがあり、制作に手数をかけていても、成り行きで放置したような部分は無秩序になり、曖昧さとか散漫な感じは印象としてマイナスになるばかりか、組版も、配色も、品質の一貫性も、作業性も損なってしまう。デザインのクリエイティビティという面では、その人個人のユニークさを出すことは重要が、それと別にデザインの役割として品質や作業の設計という面もあることを学ばなくなった傾向はある。
DTPでクリエイティビティを追求することが第一の仕事もあるだろうが、今後の印刷物制作のIT化は、人手がかかっているDTP工程の圧縮に向かうことは必須であり、コンピュータを使ったレイアウトのインテリジェント化のためにはグリッドは良い方法として見直されるかもしれない。その頃には、DTPの流し込みの作業をすることよりも、グリッドによるデザインをすることの方が重要になるであろう。
テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 188号より
2002/09/18 00:00:00