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認知が広がる共用品

共用品・共用サービス推進のためのアプローチ〜より多くの人が使いやすい製品・サービス〜(その2)(その1はここ)
(財)共用品推進機構 専務理事 星川安之 氏

トランプを最初につくった人は右利きだったかと思います。といいますのは通常のトランプは,左上と右下に数字とスートが書かれています。これを左利きの人が何の意図もなく持ちやすいように複数のカードを持ちますと,おそらく数字が消えてしまいます。
私は元々おもちゃ屋なので欧米に行ってもおもちゃ屋さんにはよく行くのですが,欧米では4スミに数字とスートがあるトランプが同じ値段で売られています。そうすると右利きの人でも左利きの人でも何気なくトランプを持った時に数字が消えないというからくりがあります。これがコスト的にすごく変わるかというと,全くといっていいほど変わらないのです。
苦肉の策というか偶然,企業が厳しい時にでもやっていける方法が共用品かと思われますが,ユニバーサルデザイン,共用品というものはなかなか難しいです。そこまでにたどり着く過程において,様々なアイデアや知恵が出てくるのではないかなと思っております。福祉用具と一般製品が離れているのではなくて,ちょうど真ん中で一緒に使えるというようなものもあるのではないかというのが,おもちゃ屋の私としては出発点でありました。

整理しますと,のように1つは福祉用具として,障害者,高齢者専用のものがT番としてあり,共用品はU,V,Wを指すのかなと考えます。U番のところは福祉用具から一緒に使えるようになったもの,例えば温水洗浄便座のように最初は障害者用につくられたものが今では一般製品というようにいわれているもの。
ご存じかと思いますが,ライターは戦争で片手を失った人のために,片手でもタバコに火がつけられるようにつくられたとか,古くはタイプライターや電話も障害がある人たちのためにつくられたものといわれています。
今いわれている中で一番多いのはWのところで,一般製品の不便さを解決しながら,より多くの人たちに使えるようになったものがあるかと思います。
V番は今日議論していただいているユニバーサルデザイン,みんなが最初から使いやすいように,というようなものと思います。まとめますと共用品の定義は「身体的な特性や障害にかかわりなく,より多くの人々が共に利用しやすい製品・施設・サービス」となります。

経済産業省さんからの委託もありまして,1995年度からこの共用品の市場出荷額,工場の出荷額を調べ始めています。1995年度が4,800億円だったのが2000年度には22,549億円で,毎年20%ずつ増えております。
家電製品,包装容器のビール,シャンプー・リンス,住宅設備機器,大きなものに関してはノンステップバス,自動販売機,ホームエレベータ,ふつうのエレベータを含めていますが,まだここでも捉えきれていないのは例えば電話,携帯電話とかプリペイドカード,キャッシュカードなどなかなか市場規模にはなじみにくいものが入っておりません。家電製品にしても6,454億円という数字はまだ全体の10%にも満たない数字かと思います。将来は共用品が20兆円になるというのはそれほど大きな夢ではないかな,と思っています。

日本でこのようなことが先行するわけはないと思いまして,10年ほど前,国際的にどこが進んでいるか2年間かけて調べたのです。専用の福祉用具というのはかなり立派なものは欧米にありますが,シャンプー・リンスとかプリペイドカードのようなものが業界横断的にほとんどない。電話の「5」番のポッチぐらいしか見あたりません。
それならば日本で自分たちだけでするのではなく,日本から海外に国際標準として提案しようじゃないかということになり,経済産業省の標準化推進の部署から1998年に提案をされました。結果的には全員賛成をいただいて非常に珍しい状態かと思いますが,1998年から3年間かけて日本が議長国となり,ISOのガイド71「高齢者,障害者配慮の設計指針」というものが完成いたしました。

私も会議に参加させていただき,各国で会議が終わると町に出て調べました。イタリアは1996年に交通バリアフリー法ができ,そこで触る地図がきれいに表現されています。鉄道の駅の手摺りにはコントラストのはっきりした,しかも出っぱった文字で「ここを降りて行くとどこ行きの電車が来るよ」というのが大きな活字と点字で表現されていました。点字ブロックもありました。
エレベータの表示の部分は三角の凸表示だったり,数字も凸表示の点字がついていました。公衆電話はほとんどの国が「5」番にところにポッチがついているようであります。高齢者,障害者配慮関係の中では一番デファクトとしては表現されているものではないかと思います。

包装容器の識別のJISができた関係で,きちんとした文書が渡って行って,韓国のシャンプーにつけていただくという嬉しいことがありました。その流れかと思いますが,韓国では缶ビールの上にも点字で「ビール」と書いてあります。日本は「おさけ」とビールに書いてあり,酒好きの視覚障害者から,あれは「おさけ」じゃなくて「ビール」と書いてほしいと言われます。
各国どこの国でもお札は触って識別ができるようになっています。ご存じの「障害を持つアメリカ人法」ができて,公共の交通機関等々に関しては障害がある人たちでも使えるような形になっていて,ホテルのルームナンバーのところにも,数字の他に凸で数字が触って分かるものがあります。

点字はとてもシステマティックで6点を組み合わせてほとんどのものが表現できるのですが,30万人の盲人のうち,点字が読める人たちは1〜1.5割ぐらいしかいません。高齢者になってから見えなくなった人や,突然目が見えなくなった人は明日から点字を読めるわけではなく,最低限約1年間かかります。そうすると今まで見えていて記憶にある数字が凸表示になっていた方がまだ分かるということもあるかと思います。

アメリカのテレビは字幕付きの機構がついているものでないと国は買わないと思います。日本の場合は字幕付きテレビは,そのような法律にはなっていません。我々ネィティブではない人間がテレビの早口の英語を聞くのはなかなかつらいけれども,字幕で出てくると外国人にとっては非常に便利で,まして聞こえない人にとってはこれがあるとないとでは大違いです。
それぞれの国がそれぞれ独自の配慮を時にルール化しているけれども,ただそれが国際的な統一した規格にはなっていなかったのです。

2002/8/22 シンポジウム「迫り来る超高齢化社会とユニバーサルデザイン」より
「共用品・共用サービス推進のためのアプローチ〜より多くの人が使いやすい製品・サービス〜 」(財)共用品推進機構 専務理事 星川安之 氏 から要約。(文責編集)

2002/09/23 00:00:00


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