eラーニングが企業や教育分野で進展を続けている。しかし,アメリカと日本ではその様子が少し異なる。ここではメディア教育開発センターの吉田文教授の講演から,大学や短大など高等教育に焦点をあててeラーニングの動向を紹介する。
第2の要因は高等教育人口が増大したことである。アメリカの高等教育の人口は、今後も増加することが見込まれており、それが高卒者だけでなく、25歳以上の成人学生でも増加することに特徴がある。既に、高等教育人口は半数が25歳以上の有職者である。この層は、キャンパスに通うよりは遠隔教育を利用することにメリットがあると考える人が多い。
第3の要因には、遠隔教育履修者の増大があげられる。2002年は1998年と比べて約3倍の220万人くらいの履修者がいると予測されている。
第4の要因はテクノロジーの利便性である。インターネットの廉価で非同期双方向のコミュニケーションが取れるというメリットは大きい。
アメリカには企業が経営する営利大学と一般の大学機関である非営利大学が存在する。約4000ある高等教育機関の4分の1は営利大学である。近年、営利大学のeラーニングビジネスが成長している。
その一方で、非営利大学のeラーニングは厳しい。営利大学は先行投資を受けて、それによって利潤を生み出す仕組みを作ることができるが、非営利大学は独自で予算を用意しなければならない。そこで、投資を受けられるように外部にeラーニングを行う部門を設置して、営利目的にサービスを提供したり、複数の大学が集まってコンソーシアムをつくるなどしてeラーニングを実施している。しかし、利益を生み出せなかったためこの2年間で次々に活動を停止している。eラーニングの急成長が期待されながら、一般の大学のeラーニングは失敗したということで、教育業界は大きなショックを受けた。
非営利の大学はコンソーシアムを組んで相互にコースを作りあう仕組みをとるケースが多い。例えば、ウエスタン・ガバナーズ大学は西部18州にある高等教育機関がコンソーシアムに参加してコースをつくり、学位はウエスタン・ガバナーズ大学から出している。しかし、あまり学生が集まっていない。
eラーニングのコースで最も多いものは修士課程の31.9%で、その中でもMBAが3分の1を占めている。短期集中型の職業資格に結びつくようなCertificateといわれるものは29.3%ある。
eラーニングはいつでもどこでも学習できるというのが売り物だが、裏を返せばいつでもどこでもやらないということに容易に陥ってしまう。このため、継続・達成するための学習支援体制として、メンターやチューターなど質問に答えたり、励ましたりするサポート体制を確立しておくことが重要である。
eラーニングにいち早く乗り出したのが、信州大学の大学院修士課程情報工学科である。他にも佐賀大学や会津大学,東京大学の「iii Online」などがあるが,まだごく一部の単位にとどまっている。
メディア教育開発センターの調査では、すでに実施しているとする機関と数年のうちにeラーニングを実施する計画があると答えている高等教育機関は約3割である。しかし、現状ではWeb上で映像を配信して授業をしているところはまだ4.4%程度である。日本の高等教育は、eラーニングに興味関心はあるものの、そこへ乗り出すまでに至っていない。
日本はアメリカと異なり、高等教育人口が急激に減少している。特に18歳人口は1992年の200万人から4分の1減り、現在では150万人である。社会人学生は増えているものの、18歳人口の大きな減少をカバーするほどまでは増加していない。
また、日本では資格取得型の教育プログラムがほとんどない、営利大学は認められていないということなどを考えると、 eラーニングの厳しい市場競争に一般の大学が参入するのは難しい。
このようにアメリカ的な遠隔教育という点で考えると、日本のeラーニングの未来にあまり可能性はないように思える。しかし、異なる使い方ならば日本の高等教育の中におけるeラーニングもありうるのではないかと吉田教授は語る。
メディア教育開発センターの調査では、電子メールによる事務連絡や、Webを利用した資料収集、授業内容のWeb掲載、学生間で討議するためのメーリングリストなども増えているという結果が得られている。
日本の場合は、社会人が学生で高等教育機関に入ってくる傾向が弱いため,遠隔で教育を行うということのメリットはあまりない。しかし、従来の教室型の授業を補完するような形で、授業の周辺での利用ということに可能性があるのかもしれない。(通信&メディア研究会)
(JAGAT info 2002年10月号より)
2002/10/12 00:00:00