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不便さを知ることが共用品の原点

共用品・共用サービス推進のためのアプローチ〜より多くの人が使いやすい製品・サービス〜(その3)

(その1)(その2)
(財)共用品推進機構 専務理事 星川安之 氏

日本点字図書館という,点字の図書を貸し出す図書館が東京の高田馬場にあります。ボランティアの人たちが,トランプ1枚1枚に点字の数字をつける作業を60年ぐらい続けておられます。点字を打つことによって,このカードを一緒に使える人たちが増えてくるわけです。
私がこの仕事を始めて,まだ障害がある人たちとのつきあいがそれほどなかった時,目の見えない人の家庭に招かれ一緒にトランプをさせていただいたことがあります。お昼ごろから始めて3,4時間と大騒ぎをしながらトランプをしていました。夕方になると,私のトランプを持つ手がだんだん目の前に近づいてきましたが,なかなか「電気をつけて良いですか」と切り出せませんでした。
凸点はついているけれど,私は点字が読めない。私はまるで,点字がついていないトランプで目の不自由な人が遊んでいるような状態に近づき,ゲームが続かなくなり,やっと「電気をつけても良いですか」と聞きました。返ってきた答えは「なんで早く言わないのか」というような答えで,凄く肩の力が抜けた瞬間だったように思います。本心としてどういうふうに付き合っていくのかというようなことを,そこで学んだと思っています。

日本の中で共用品をつくったらどう受け入れられるのかというような課題に,昨年挑戦してみました。小学校から高校生まで,それから学校の先生,盲学校,ろう学校,養護学校の先生,一般校の先生と特殊教育の先生たち3万5千人にアンケートを行いました。障害がある子と高齢者に対し,どう接しているか聞いたところ,ほとんど交流がないのでどう接して良いか分からないという状況でした。
ある女子大の助教授の方がユニバーサルデザインの教育を学生にしているのだが,障害者の施設に連れて行くと,「可哀想で見ていられないから,もう帰らせてくれ」という生徒が何人かいたということです。シャンプー容器のギザギザの理由を知って,ある生徒は,「今まで知らないで障害者用の物を使っていたのかと思ったらとてもいやになった」という答えがあったそうです。これは逆に,とても良い問いかけと思いました。その子達が変わるのはきっと凄く簡単なことで,私が「電気をつけてもいいですか」と言えるか言えないか程度のことなのではないかと思います。まず,どういう人たちがどういう不便を感じているのかを知ることが原点だと思っています。

玩具協会として,一緒に使えるものを作ろうとした時に,いろいろな問い合わせをいただきました。会社の中で,障害児,高齢者の玩具づくりを一人でするのはなかなか難しい。会社の中で何人か仲間を集めるのもなかなか難しい。そこで,いろいろな業界の中で悶々としている人たち16人で「E&Cプロジェクト」という勉強会をはじめました。
最初に,目の見えない誰々さんの不便さは知っているけれども,それを元に製品やサービスにしてしまって良いのかという疑問から,もう一回不便さの定量調査を行う事を最初の作業としました。同じような容器の中身が分からない,同じような形のカードの識別ができない,ポストの中に入っているものが至急の有無,重要の有無が分からないなどです。この調査がきっけでJIS化された第1号はプリペイドカードの切り欠きです。

耳の不自由な人では,目の不自由な人とは全く違う不便さが出てきました。家の中でもいろいろな音が出ています。目の不自由な人から,不便が山積みだとて言われたのとは逆に,耳の聞こえない人は,「あまり不便はない」と言われました。それは,いろいろな音が出ていることを知らない,その音にどういう役目があるか,聞こえる人たちは何気なく便利だと思っている各種の音も聞こえないが故に,何が不便か,逆に何が便利かが分からないからだと言われました。
次に,車いす使用の方々にとっての不便さも調べました。上の物が取りづらい,上に何があるか分からない,下の物が取りづらいなどです。
最後には高齢者の不便さ調査を行いました。身体能力,趣味,嗜好も違ってくる人たちを一つの高齢者という形で括るのが非常に難しいと思っています。調査をしてみると,聞こえない人,見えない人,見えづらい人,聞こえづらい人,車いすを使用している人の不便さとかなりダブるところがあります。

不便さ調査を,各企業や各業界団体でするのはなかなか大変なので,調査自体を一つにまとめて,製品に関しては510項目,施設・設備に関しては530項目の質問を行い,そのデータベース化をしながら,誰でも見れるようにしようと考えています。今までの12種類の障害種別の調査に関しては,障害別不便さ,場所別などにまとめ直しながらデータベースを共用品のホームページに公開しております。
製品をつくる際に,もう一回実際の障害者,高齢者を含めた消費者とコミュニケーションをする仕組みも考えております。一つの製品をつくる時に,障害の種類のちがう何人かが一つのテーマで話し合うことによって,例えば段差の問題だとか,そのボタンの高さの問題などでも,解決案が出たりすることも多々あります。でもその会議をするのは結構大変なので,いろいろな形で企業と消費者が出会えるような仕組み作りが必要だと思っております。

2002/8/22 シンポジウム「迫り来る超高齢化社会とユニバーサルデザイン」
「共用品・共用サービス推進のためのアプローチ〜より多くの人が使いやすい製品・サービス〜」 (財)共用品推進機構 専務理事 星川安之 氏 から要約。(文責編集)

2002/09/29 00:00:00


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