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リーダーシップの欠如は企業を滅ぼす

小泉首相は日産のカルロス・ゴーン氏のように活躍したいのかもしれない。ゴーン氏の英断とリーダーシップは、なかなか問題を解決できないでいた日本の官民に大きなショックを与えた。「旧態依然」の代名詞のような日産を180度転換させたゴーン氏の力の集中をうらやましく思う人も多くいるだろう。

ゴーン氏のとった方法はいわゆるやり手のワンマン経営者とは一線を画するものである。組織の改革は痛みを伴うことは官民同じであり、日本では躊躇が先に立ってしまいがちであった。ゴーン氏のやり方は、改革の犠牲と成果のバランスを論理的に説明して、社内外に決断を迫るやり方である。イエスとノーの中間を答えさせないような「押し」もあったのだろうが、その「押し」が経営者個人の「我」ではないように捉えられたのであろう。

改革の犠牲が大きくとも、改革を進めるだけの社内の信頼が得られた理由は、ゴーン氏が強い責任感を表していたからだろう。改革の成果として目標達成の公約を掲げて、それが達成しなければ退陣するというのは、ミッションマネジメントの一面ともいえる。過去にも「会社再建請負人」はこのような姿勢をとって、社内のモチベーションを向上させてきた。トップ自身が事業計画達成に自信を示さなければ、社員にもやりぬく自信を植え付けることはできない。

このようにしてお互いの信頼関係を作り出すことで、力が結束して全社的な機能の向上が見られるようになるのだろう。いくらITで社内の管理システムを構築しても、そこで出てくるデータに対してそれぞれ役割分担ごとに機敏にアクションをしなければ成果はでない。日産では管理者と担当者が達成度合いについて同じ情報を共有して同時進行的に対応していくほど上下の関係も緊密になったようで、それで短期に成果を出せたのだろう。

最初から目標を明確にするとともに、成果に対しても貢献度に応じて昇進とか報酬を決定するなど、上から下まですぐに結果に現れる一貫した成果主義をゴーン氏は採用した。要するに経営理念から業務目標、成果配分まで一貫性を持たせることで、従業員との一体化、企業の一丸化を成し遂げた。このような方法は日本の習慣に馴染まないのかというと、逆にもともと個人より組織を優先する日本人の気質や、納得したら協力しあう日本人の勤勉さがプラスに出たのが今回の日産のV字回復といえるだろう。

以上から逆算すると、過去の日産はどのような企業であったのかもわかる。ブランド意識はあったが、自社の存在理由・顧客第一主義が欠如していた。収益管理があいまいで、コストのかかり方がよく捉えられていなかった。組織としての一体感・体系が弱かった。下り坂の業績に対して切迫感が欠けていた。企業全体に共通のビジョンが掲げられていなかった。事業計画があいまいだった。というように考えると、他人事でないと思う方も多いだろう。

ゴーン氏の一番の強みは、公約を掲げて実現するミッションマネジメント的なところだが、社内外に一貫した理屈の通るビジョンを掲げて人々の意識を合わせ、その中で公約を明らかにすること自体がまず難しい会社が多いだろう。特に印刷業界は過去の物的生産性中心の経営理念が通用しなくなってきて、将来の自分の方向を見つけること自体が競争の第一歩になっている。JAGATでは印刷新世紀宣言として、今後印刷業界側から切り開いて価値を産むことが出来る領域を、クロスメディアと、eビジネスと、デジタルプリンティングに集約した。こういった中で各社がそれぞれ踏み出して行くべき領域とスケジュールを自分で決めなければならない。

それと合わせて社会的な責任を果たすために、ISO取得や経営基盤の整備などを位置付けられなければならない。理屈の通るビジョンにするには、企業経営を短期的な利益だけを志向するものとするのではなく、長期的利益基盤や社会貢献・存在意義を明確にしていくことが重要である。社会的使命だけ考えてもビジネスにならないのはいうまでもないが、自分のビジョンに反社会的な要素があると伸びないとか、躓きの要因になる。これら全体を統括するのがミッションマネジメントである。

企業リーダーの資質として今どのような思考を身に付けるべきなのか?
来る10月23日(水)のJAGAT経営シンポジウムでは、JAGAT会員企業の活動報告とともに、基調講演として三宅隆之先生からミッションマネジメントの実践についてお話を伺う予定である。経営者・幹部社員の方に参加されることをお勧めします。

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2002/10/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会