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紆余曲折の末に文字規格が辿りつくところ

JISの漢字コードであるC6226が1978年に制定された当時は、だいたい漢和辞典に相当する1万字を扱う活字の世界の人々はJISを無視していたと思う。その頃は、活字を使う事務用の和文タイプの字種はそれほど多くなくて、印刷文字一般の字種が決まっていたわけでもなく、用途ごとに文字セットが独立的にあったような状態だった。

1980年代に入っての日本語ワードプロセッサの普及は、印刷業界にとって思いがけない課題を突きつけた。それはJISコードのファイルでの文字原稿の入稿である。当時は印刷会社も文字の入力・校正にワードプロセッサを利用していたが、それは活字のセット(あるいはそれをデジタイズした電算写植のフォント)での出力を前提にしたもので、活字のセットに無い文字を入力することはあり得なかった。ところが著者や編集者からJISコードで勝手に入力された原稿は、印刷会社の解釈で活字にマッピングしても、それは著者の意向とは異なることがあった。

それでも当時のJIS C6226の漢字表の印刷は写研の明朝体で行われたので、JISにあって活字には無い一部の特異な字以外はあまり問題は起こさなかった。JISにないが活字にある文字は外字コードで処理をしていた。しかしC6226-1983で突然にJISの漢字表の印刷字形が大きく変わり、それを取り入れた電子機器で作成された電子原稿が入稿されるとか、パソコン画面とプリンタで字形が一致しないとかで、ワープロ・写植コンバートの信頼性は一気に下がり、かつてのような印刷用の活字体のゲラを著者が校正する時代に戻った。

この頃から、コンピュータに必要な漢字の字種とか文字コードの関心が高まって、いろいろな立場の人の意見を吸い上げながらJISの漢字は整備された。またかつては通産省・文部省・法務省が個別に文字行政をしていた段階から、お互いにリエゾンをとるように変化してきて、常用漢字以外の字体に関する指針にしようとした「表外漢字字体表」の答申や、それに対するJIS側の検討などが調和的に行われるようになった。

「表外漢字」は、83JISのような「常用漢字の字体に準じた略体化を及ぼすことで新たな異体字を作り出すこと」に歯止めをかけようという趣旨で、「印刷標準字体を優先的に用いることを原則とする」というように、この間の字体議論については保守的な姿勢を貫いてきた出版印刷界には好ましい方向になろうとしている。

文字の規格としては「表外漢字」を立てれば、常用から派生した字体の包摂の再調整が必要になるので課題は残る。当用漢字・常用漢字を今更否定できないので、完全な字形の整合はありえない。そのために、草冠の3-4画、食・シンニョウ・示ネの3部首許容と同類の漢字のエレメントの形状差の包摂にはまだ異論が続くだろうが、基本的には1万活字の互換性が異機種環境であっても相当確保できるようになるだろう。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 191号より

2002/11/03 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会