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平成フォント誕生物語(2)─フォント千夜一夜物語(13)

  「角ゴシック体」については、デザインコンペの選考会が1989年4月25日に行われた。1位入選の「平成明朝体W3」に整合性のある「角ゴシック体」という条件で、しかも過去の角ゴシックに類似性のない、オリジナルなフォントというのが応募基準で公募された。

平成明朝体のときと同じように開発会員のもとに選考され、日本タイプライタ鰍ェ応募した「角ゴシック体」が最多得票を得て1位になった。そして名称は「平成ゴシック体W5」と名づけられた。

●平成明朝体のデザイン・コンセプト
文字フォント開発・普及センター(以下フォントセンターという)のデザインコンペの仕様書は、次のような条件が要求された。

1.オリジナルな明朝体であること。
2.本文使用を主体とし横組みに適したもので、なおかつ縦組みにも併用できるもの。
3.拡大縮小に耐えられるもの。
4.電子機器に使われることを考慮する。
5.高品位なアウトラインフォント化が可能なもの。
などである。

これらの条件に対して、リョービマジクスの新明朝体のデザイン・コンセプトは次の通りである(図1.参照)。

1.伝統的な明朝体に対して、各エレメントに斬新的なデザインを試みた。
2.横組み適性を考慮し、「ふところ」を広めにとり文字を大きく見せること、視覚的重心をやや低くして、横の並びをよく見せる配慮を施した。
3.横線の太さをやや太めにし、横線と縦線の比率は、平均字画において約1:2.3にデザインした。
4.「ひらかな・カタカナ」は近代的な明朝体に整合性をもたせ、オーソドックスな「明朝体かな」に捉われない斬新なデザインを試みた。「カタカナ」は硬筆的に、「ひらかな」は軟筆的な表現とした。
5.低解像度の出力機器にも使われることを前提として、つまりジャギーの問題を重視して、縦線と横線は直線処理とし、また各エレメントの部分的処理も直線処理とした。

これらが主なデザイン・コンセプトの特徴である。デザイン・コンペの結果、リョービマジクスの「新明朝体」のデザインが採用されたが、フォントセンター側の「平成明朝体W3」の明確な制作仕様書はできていなかった。

そこでリョービマジクスは、制作期間が約1年と決められているため、仕様書完成前にアナログ原字デザインを先行していた。

制作手順としては、先ずアナログ原字をデザインしてからスキャナ入力する。そしてドラフタを使って5インチ角のアウトラインで紙に描画し、それをデザイン・チェックし修正を入れる。 それにもとづきモニタ画面上でアウトライン修正をするというプロセスである。アウトラインフォント作成システムとしては「IKARUSシステム」を使用している。

その後フォント開発と平行して仕様書作りが始まった。「仕様WG」「字形WG」「検収WG」などのWG(ワーキング・グループ)が設けられ、開発途上にいろいろな仕様書が検討され提出された。「歩きながら考える」の泥縄式にスタートしたといってよい。

各WGは開発会員の代表メンバーで組織されたが、なかでも「仕様WG」と「字形WG」は、各開発会員会社の思惑や利害関係も含まれ「船頭多くして船山に登る」の例えのごとく、仕様書作成は難航し長時間を要した。そのため制作過程で何度かやり直しの必要が生じ、納期は迫ってくるし、思うようには進まないし、というじれんまの状況が続いた。

特に字形に関しては、JIS X0208-83の例字体に沿って制作していたが、一部の字種の字形について「ハネル・ハネナイ」、「ツケル・ツケナイ」などの問題について、JIS X0208-83の矛盾点が議論され、多くの字形が修正された(つづく)。


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2002/10/19 00:00:00


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