いままで述べたように、1980年代末からのWindowsのWIFEやTrueType、Macintoshの
TrueTypeなどの、アウトラインフォントのビジネスが緒につき始めた頃に、エレクトロニ
クス・メーカーやフォントベンダーに警告書が舞い込んできた。
●権利主張される基本特許とは 日本電気オフィスシステムは、アウトラインフォントの基本特許をもっていることを主 張したもので、特許権の権利行使をはじめたわけである。 DTPのシステムメーカーをはじめ,プリンターメーカー、ワープロメーカーなど、アウト ラインフォント技術を利用しているメーカーを対象に権利を主張している。 日本電気オフィスシステムは2件の基本特許を保有しているが、1件は「文字等発生方 式(1993年5月26日まで有効)」、もう1件は「高品質文字等の発生方式(1993年10月 31日まで有効)」である。 当時機器メーカーが避けがたい特許と見たのは、前者の「文字等発生方式」(449特許) である。この「449特許の請求範囲」の概略を述べてみよう。 ──索引コード信号を与えて、記憶装置よりコード化された文字等のディジタル電気信 号を取り出して、ブラウン管等の出力装置に当該文字等を表示せしめるものにおいて、前 記記憶装置にストローク表示方式の手法でコード化した文字等の情報を貯蔵し、この記憶 装置からの出力信号を変換回路によりドット表示式信号に変換してランダム・アクセス・ メモリに貯蔵した後、ドット表示方式のブラウン管等の出力装置に与えてブラウン管面上 等に文字等を発生させることを特徴とする文字発生方式── この文面の中では「アウトラインフォント」という言葉は見あたらない。したがって関 係者の中には、どの程度までアウトラインフォント技術を意識したかは疑問である、とい う意見もあった。 しかしながら、アウトラインフォントのラスタライザは、「記憶装置からの出力信号を変 換回路によりドット表示式信号に変換してランダム・アクセス・メモリ(RAM)に貯蔵する わけだ。そしてディスプレイに出力する場合は勿論、プリンタに出力する場合にもこの方 式を使うわけである。 したがって日本電気オフィスシステムからの警告書は、アウトラインフォントを扱う情 報機器メーカーの多くに発せられた。しかしながら、この特許にもいくつかの弱点や疑問 の余地があるので、プリンタやイメージセッタなどは免れる可能性があるという見解をも つメーカーもあった。 現実問題としては、特許抵触の回避は難しいという意見が大半を占めていた。しかしな がら有力なエレクトロニクス・メーカーは、日本電気オフィスシステムの警告に対して、 他の製品に関する特許侵害のお返しを匂わせて黙認させ、紛争を起こさないという方法を とっていた、という話もあった。 この特許が出願された1973年頃は、アウトラインフォントに対するアイデアが生まれた ばかりである。競合エレクトロニクス機器メーカーは、この特許をつぶすためにいろいろ な調査や工作をした。 似たようなアイデアを提唱した米国の文献はいくつかあった、という技術者の話もある が、詳しく実施例を説明したものはなかったようである。いずれにしろ技術的論点を主張 して、表立って日本電気オフィスシステムと争ったメーカーはない(つづく)。
|
■DTP玉手箱■
2002/12/21 00:00:00