各メーカーは1993年には特許が切れるので、事を荒立てるよりは穏便に済ませる方が得
策、というのが大半の考えであったようである。むしろタイプフェイス(書体)保護の問
題の方が大きくクローズアップされた。 アナログからデジタルへと、フォントのコンピュータ利用が進むにつれ、これに伴いフ ォントの複製行為(コピー)が容易になる、という現象が出現してきた。 他社のフォントをスキャナで読み取り、修正を加えて別なフォントとして販売するとい う行為が、これまで以上に頻発する恐れが出てきたわけである。 フォントメーカーやフォントベンダーといわれる企業は、主として活字母型メーカーや 写植メーカーである。そしてそのバックにはデザイン原字を供給するフォントデザイナー である。 和文フォントは欧文フォントとは異なり、漢字・平かな/片かな・数字・記号類・約物 など、JIS漢字だけでも約7000字以上を必要とする。したがってオリジナル書体は、膨大 なエネルギーと開発費を投じてフォント一式が制作されているわけだ。 デザイン品質を問わなければ、今では低価格なフォント制作ツールでトレースやコピー が可能である。市販のパッケージフォントを購入し、一部修正してオリジナルフォントの ごとく販売することは容易である。 アナログ時代も可能ではあったが、手間と時間がかかって簡単に素人ができるものでは なかった。それがデジタル時代になってできるようになったのである。しかしこれはモラ ルの問題である。 従来から、書体(タイプフェイス)の法的保護のあり方が不明確である。このような背 景のもとに、フォントメーカーから書体の法的保護を望む声は高まっている。
●日本では書体の著作権は認めない 原告の八木氏デザインの書体を、被告の桑山氏と柏書房が無断で書籍に掲載したとして、 訴えを起こしたものである。東京地裁と東京高裁はいずれも、書体(タイプフェイス)に 著作権を認めず、原告の訴えを退けた。 その理由として、『書体に著作権を認めることは、万人共有の文化的財産である文字など について、特定の人に排他的な権利を独占させることになる』ことを挙げている。 また「モリサワ対エヌアイシー事件」(大阪地裁1989年3月判決、大阪高裁1990年3 月和解)でも、書体(タイプフェイス)に著作権を認めないという判定が下っている。し かもこの問題について大阪地裁は「原告の書体は実用性の強いものであって、美的創作性 を持っていない。したがって著作物性を認めることはできない。」というものである。 このような裁判所の判断に対して、フォントメーカーやフォントデザイナーなどの反発 は大きなものであった。「美的創作性を持っていない」とはどういうことか。 書体デザインは創作的な表現であり、デザイナーのデザインコンセプトが反映されるも のである。文字の伝達手段という以上の価値がある、ということが判っていない。 「字体と書体(タイプフェイス)は意味が異なる。このことが理解されていない。」とい う、あまりの裁判所の無知に対してフォントメーカーやフォントデザイナーは憤りを隠せ ない状態であった(つづく)。
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■DTP玉手箱■
2003/01/11 00:00:00