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クライアントをもっと深く知ろう!

「不景気=もうからない」はウソである
バブルが崩壊し,印刷業界におけるDTP化の波が本格化し始めた1994年にジュッポーワークスを設立した林嘉久氏のモットーは「仕事はデジタル,心はアナログ」,企業コンセプトは「ソリューションプロバイダー」である。景気が低迷する10年のなかで次々と会社を設立,本年2月には5つ目の会社を立ち上げるという。印刷会社を始め10数社とアライアンスを組み,オンリーワンビジネスを実現している。
同社はデータベースソフトを基本に,多様なソリューションコンテンツの提案・制作をコアとしている。当然,データベースとなるとシステム会社と競合する。クライアントの多くは,大手コンピュータ系の企業やSE系の企業へ傾倒しがちである。苦戦が予想されるなかで,あえて同氏は差別化戦略の一つとして,印刷会社での20年の経験をむしろ武器としている。システム系企業は優秀なSEを多く抱え,システム開発には強いが,ややもすれば「最終的に実現することよりも,システム構築そのものに引っ張られたり,優先することから,結果的に『高くて,時間が掛かり,使いにくい(難しい)』というデータベースになりがちである」という。そこで同社では,当然何を実現したいかを優先することと,現場で毎日使うためにはいかに分かりやすいインタフェイスが重要かを理解してもらうという。システムが定着しない理由に,使い勝手が悪いため自然に使われなくなる(拒否反応)ことが多いことをよく知っているのだ。デザイン表現や色彩をユーザビリティとして重視するのは,印刷会社時代に培われた考え方であるという。このような技術を分かりやすい表現にする考え方や能力は,システム系企業にはないと林氏は言い切る。

クライアントからどのくらいの距離でビジネスをするか
FileMaker Proという,だれもが知っているポピュラーなソフトに目を付けてソリューションのツールとした。データベースが21世紀の当たり前のキーワードであるとすれば「早くて(短期開発),安くて(割安感),使い勝手が良い(分かりやすい)」というインフラが何より大切である。その上でいかに多くのソリューションが動くかである。ソリューションは会社の数だけあるとよく言われるが,カスタマイズが前提である。つまりクライアントに近づけば近づくほどカスタマイズが要求される。それにはクライアントを深く知る必要がある。それによって問題点を分析し,課題解決と効果を提案しなければ商品価値は生まれない。それがまさにソリューションプロバイダーである。
同社の元気の源はここにありそうだ。林氏は,印刷会社時代からクライアントに比較的近い企画部門であったが,やはり軸はクライアントから遠く離れたところに置いてビジネスをしてきたという。むしろ市場が拡張期にあった時代はそのほうが効率が良かったともいえる。しかし,クライアントから離れれば離れるほど,価格のみの競争に陥りやすいことも実感していた。同氏は,これからはクライアントと一緒に考え行動する位置にいることが必要で,それこそが付加価値の高い仕事ができる源であるという。

クライアントを知らず,自社の説明もできず…これってだれの責任!?
新しい時代の新しいビジネスモデルを考える第一歩は,クライアントを徹底的に研究することである。クライアントを知らずしてビジネスはできない。ことにネットワーク時代はダイレクトに接触できるチャンスは飛躍的に多くなる。こんな時代背景があるにもかかわらず「営業攻勢はすごいが売り込み先を勉強しないで来るので,時間が全く無駄」「何ができますか,と聞くと『何でもやります。総合印刷業です』という。自社の説明をできない人が営業しているのには驚きました」と話す某大手クライアント。
林氏はクライアントに近づくにはデジタル技術を生かすためのプレゼン能力が必要であり,印刷会社には「この能力に欠ける企業が多い,せっかく良い技能,技術をもっていてもそれをビジネス提案できないのは残念でならない」という。 しかし,ビジネスは残念では済まされない。人材は個人的な資質能力もあるが,企業風土や教育・評価システム,経営者の考え方などが大きく影響を与えることは言うまでもない。ハード機器が最新であるとか先端を行っているということよりも,仕事の流れが明確で,分担の責任と前後の責任が明確に見えていることが大切である。ISO導入の良さはこの辺にある。どの部門のどの担当者も「作業情報」をさかのぼればクライアントの顔が見えることが必要である。担当の手元を離れれば,全く前後が分からないという仕事のシステムは,結局は効率が悪く,ミスを見逃してしまうことになり,営業マンをサポートする,ちょっと気の利いた提案もできない。それぞれの立場で1歩,2歩先の情報を知ることは大切なことで,経営者はそれを知らせるためのシステム作りをしなければならない。つまり個人的な資質能力を磨くと同時に,どのような仕事の仕方をするかという,企業風土,経営姿勢としての人づくりとシステム作りが必要である。

「発注する人,受注する人」という発想法をやめよう
営業マンがクライアントをより深く知ることは当たり前だが,現場にとっても同じぐらい重要である。それぞれの立場の専門家が一歩さかのぼってクライアントを知ろうとすれば,身近なところからソリューションが見つかり,提案ができるはずである。それは能力の前にクライアントの立場,目線でその仕事を見る姿勢が必要で,その姿勢がなければ何も見えないことになろう。クライアントの目線に立てば,コスト削減も本質的に何が目的かも少しずつ理解できるであろう。その上で自社の提案,新サービスの提供をどうぶつけるかを考えることである。クライアントは印刷物を減らしたい,印刷会社は減らしたくない,という既存の枠組みのみで捉えるならば,互いに次の一手が見えないまま終わってしまう。これでは突破口がない。
サービスが,データベースであれ印刷物であれ,中身は一点一点違う一品生産である。後はビジネススタンスの問題である。クライアントをいかに深く理解するか,知り尽くすか,そこから何を見いだすか,これからの重要なポイントになる。


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(『JAGAT info 2月号』より)

2003/02/18 00:00:00


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