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CTPの相互運用性とJDFの可能性

 グラフィックアーツのフルデジタル化はCTPで達成され,普及しているが外部との情報交換が困難になり,アナログ時代の業界の分業体制の柔軟さは発揮されなくなった。そこで,外部生産先へのCTPやデジタルプルーフデータのスムーズな電子送稿により,プロダクティビティ向上を達成するための相互運用性の高いPDF/JDFワークフローをどのように構築すべきかを伺った。

文祥堂印刷株式会社 取締役 吉川 昭二 氏(モデレータ)
株式会社ニシカワ 代表取締役社長 西川 誠一 氏
Artwork Systems プロダクトマネージャー Mr.Filip Carrein
サカタインクス株式会社 新規事業推進室 機材開発営業部 マネージャー 堀本 邦芳 氏
大日本スクリーン製造株式会社 ソフトセンター 技術部 係長 深見 威志 氏

■デジタルデータの危険性

 今回のセッションはユーザとメーカー,ベンダというそれぞれの立場からプレゼンテーションを行った。ユーザサイドからは,このような不況の印刷業界で,なるべくお金はかけたくないが,JDFは有効なのか,必要なのかということが基本となる。
 印刷会社の場合,協力会社との関係がないと自社一貫性では進まないケースが多々ある。しかし,問題点はワークフローなどを含め多々存在し,データ渡しは危険である。
 自社内ではCTPで印刷していても,外部へ印刷を依頼するときには,やはりフィルムで渡さざるを得ない。データで渡したいがデータフォーマットなどの問題があり,かなり検証を重ねないと難しい。

 条件は標準印刷とCMSということであるが,その中でオープンワークフローという問題でデータ交換に着目する。特に色の問題では,プルーフのマッチング,キャリブレーション,そして自社の印刷機,外注協力会社の印刷機などの色に合わせたプルーフで責了を支給してもらわないと同じものが刷れないという運用の問題が出てくる。
 今は変動要因があまりにも多いので、平台校正とフィルム下版という形がまだまだ一般的に行われている。

 JDFとは生産支援のツールなのか,社内合理化なのかという点で,メーカーやベンダのお話も聞いてみたい。ワークフロー上の後工程まで含めた支援ツールとして,生産の合理化,生産支援に役に立つJDFとして捉えるのか,社内の事務合理化あるいは業務合理化のためのものなのか。生産の役に立たないものには,ユーザとしてあまりお金はかけられない。
 印刷会社が持っている既存のシステムと生産側にかなり密着したJDFがどう整合するかも問題である。


■データコミュニケーションとPDFの活用

 株式会社ニシカワは全体の9割以上がチラシ印刷で占められている。現在は,WAM NETに切り替え,月々の通信費は,従来1.5Mbpsで各拠点をつないでいた頃の4分の1程度に低減された。WAM NETを選択した理由は,インターネットのゲートウェイを持っているので,ニシカワグループの環境以外とつなぐときにインターネットが使えるということである。現在,30数拠点と通信で結んでいる。
 制作拠点から印刷拠点までの非効率を解消するために,通信を前提とし直接工場に下版できるようCTPのシステムを構築した。
 それに伴い生産管理や正確な情報が必要になり,各部署の役割が大きく変わった。役割が変わったということは,求めるスキルが大きく変わり,従来の印刷会社のノウハウ,経験の一部が役に立たなくなり,新たなデジタル知識が必要になった。

 現在,顧客や遠隔地の協力印刷会社含め約30社と通信を介し,特にPDFデータや下版データを印刷会社とやり取りし,デザイン会社とはネイティブのPSデータ,テキストデータ等を含めやり取りしている。これは相手先にインターネットの接続環境さえあれば拡張できる。
 それにPDFを使用しているので,校正も含めて印刷以外の媒体へ流用が容易になった。印刷物と同時にPDFも納品するというケースも増えている。また,他のデータフォーマットと比べて送受信の開放度が高いということで,今2Mbpsで運用しているが,全くストレスはない。チラシ用のB3データであれB2データであれ,約2分程度で下版を終了でき,大きな問題はない。
 逆に,どうしても1BitTIFFでなければ困ると言われた場合は,1BitTIFFの入稿に未対応であるという問題がある。また,でき上がったPDFに対するプリフライトチェックが確立されていない。最近はCertified PDFということで,現在Certifiedの流れを自動で行うようフローを構築しているが,現状は最終確認が難しい状況である。

 印刷に適し安定したPDFを作るという面では,相当早くPDFワークフローを組んだこともあり,遠隔地とのカラーマッチングには苦労が多い。また,PDFは安定しているという認知度が大変低いということも残念ながら苦労している点でもある。
 今後は、PDFのワークフローを完成させ,JDFをうまく組み合わせながら、他社とのコラボレーションを広めていくことで,時間差,距離の差を埋めて,リアルタイムで全国にできるように考える。


■JDFの活用と有効性

 JDFはXMLベースである。アプリケーションとシステムをつなぐことができる。それによってデザインから製版,印刷,後加工までをつなぐことができる。ワークフローを統合できるという話の中で,システムに依存しない,ベンダに依存しない,そのようなオープンなワークフローができる。
 JDFは、デザインから始まったデータが,プリプレス,印刷,ポストプレスも含めすべての工程のパラメータまで含んだ状態で渡っていくということがポイントである。JDFが可能にするのは,デザイン,制作,出版の会社と印刷あるいは後加工も含め,共通のコミュニケーションを図ることである。コミュニケーションの一本化ができることによって,全体のコスト,ジョブの進捗状況の管理,追跡までが可能になる。

 例えば出版社でも広告会社でも,そこで1つの最終印刷物を考えて仕様を決める場合,この仕様を実際にJDFで決めることができたら,JDFを投げるだけで後工程は完全に自動化できる。MISや製版,印刷,後加工,そして配送まで含んでコントロールできるということになっている。
 JDFは,いずれにせよ1つの方向で,間違いなく印刷会社が選択せざるを得ない道である。その方向に業界が既に動いている。

 Odysterは,PDF1.4およびJDFを基盤とする新たな商業印刷向けワークフローである。Certified Preflight(Enfocus),トラップ処理,面付け,フラット化,色分解,印刷技術を搭載し,ジョブの制御・自動化を行い,上流のドキュメント作成から最終の印刷プレート生産までの完全なリンクを提供する。なお,JDFは1.1の仕様であるがまだ発展過程であり,必要に応じて追加を考えていく。
 重要なことは,JDFの中でプロセスを記述しているので,前に戻ることや進むことができる。JDFに書かれているプロセスを処理すれば,いつでもどこでも元に戻ったり進んだりすることができるのである。
 なお,既存の機械(例えば,レベル2あるいはレベル3RIP)は,実際にPDF1.4の透明性を完全にサポートしているRIPは非常に少ない。既存の設備を更新するのも1つの方法であるが,あいだにOdysterを入れるだけでプレフライトが可能となる。データの一貫性をチェックして,問題点があれば指摘する機能もある。


■部分最適から全体最適へ

 印刷産業を取り巻く状況について,メーカーおよびベンダは,単価が下落し小ロット・多品種化が進んでいると考えている。こうなると利益率も低下し,解決策としては,一層のコストダウンの対応が必要になってくる。しかし,各工程内での合理化は大分進んでおり,プリプレスで言うとCTP化,フィルムレスになった。
 よって,生産工程全体を全部デジタルにするというところが究極の行き着くところと考えている。情報共有で工程全体を最適化し,さらに生産性を上げようということで,よく使われる言葉だが,「部分最適から全体最適へ」ということである。

 SAIL(Seamlessly Attached Information Link)コンセプトは,印刷物の企画から受注,制作,保管,配送まで,発注者や協力企業など外部組織まで含めたワークフローのマネジメントをしようというものである。
 プリプレス,プレス,ポストプレスの3つの業界を全部合わせて管理する方向にメーカーが向かっている傾向がある。これらをすべて管理するにはJDFを使用するという方向にあるが,各メーカーとしては進んでいるが,全体的には現実的な話にならない。ただし,皆がそちらに向かって進んでいるということは確実である。

 今後JDFの展開として,製版・刷版の2サイト,デザイン・製版の工程短縮,デザイン・印刷での色品質の管理,製版・後加工の工程短縮などが考えられ,ビジネスワークフローと生産ワークフローが統合され,ますますの効率化が図られる。

2003/02/28 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会