ドットサイズの密度とプリンタの解像度だけでドットフォントデザインの質は評価でき ない。つまり原字デザインがドットフォントの品質を左右する。
一般的にアウトラインフォントは拡大・縮小・変形処理の自由度が高く、低解像度のプ リンタでも文字の曲線部分が滑らかに表現できるという。このことがアウトラインフォン トをスケーラブルフォントと呼ぶ理由である。
しかしこれは文字サイズを拡大した場合のことで、アウトラインフォントを縮小して出 力する場合には、低解像度の出力装置(プリンタやディスプレイなど)では曲線や斜線部 分にジャギー(ギザギザの階段状)が目立ち、また線幅のバラツキが生ずる。
これを量子化誤差というが、この現象を避けるために、ヒント情報と呼ばれる線幅補正 用データを付加する。これをヒンティング・テクノロジーという。このヒント情報により 文字品質を維持するわけである(図参照)。
むしろ固定サイズで処理し印字出力するのであれば、ドットフォントの方が出力速度は
速いし綺麗に見える。
●ドットフォントの高解像度化
ドットフォントも高解像度化していくと、デザイン上アナログに近づいてくる。その好
例が第3世代のデジタル写植機で「Digiset」と呼ばれた、CRT写植機に用いられたドット
フォントである。100×120ドット、200×240ドットフォントなどが用いられた。
第3世代機にはHell社(西独)のDigisetの他に、Mergenthaler Linotype社(米)の 「Linotron」、RCA社(米)の「VideoComp」などがある。
日本における第3世代機の稼動は1973年以降に始まった。まず新聞社が新聞編集システ ムの出力装置として採用し、その後大手印刷企業が導入を図ったのがDigisetである。
1997年に国産写植メーカーの写研が、第3世代機のデジタル式CRT写植機を発表した。 「サプトロン」シリーズである。これに用いられたデジタルフォントが、100×100ドット のドットフォントである。
しかしこの高解像度のドット構成でも、印刷用版下の文字品質としては18級(約12ポ イント)位までしか使えなかった。つまり本文用として使えるドットサイズでしかなかっ た。
そこで2倍の200×200ドットフォントを開発したが、それでも32級(約21ポイント) 位までで、64級(約44ポイント)位まで使えるようにするには400ドットフォントを必 要とし、そして64級以上のサイズには800ドットフォント位が必要になることになる。
したがって大見出し用には手動で貼り込み処理をせざるをえなかった。それでも100級 以上は手動写植機でも限界があり、カメラを使って印画紙を拡大し貼り込みをしていた。 DTPでの文字の拡大率はソフトしだいで無限に近いので、これらの作業改善もDTPから 得た恩恵の一つといえるであろう。
いくらデジタルフォントといっても、1文字200×200ドットで約8000字も用意するこ とは膨大な記憶容量を必要とする。したがって当時としてはこれ以上の高解像度ドットフ ォントを用意することには限界があった。
デジタル化する場合単純に0と1で行なうと、1文字100分割では10,000ビット=1.25KB になり、1書体約8000字としてデータ量は約10MBになる。当時の磁気ディスクは高価で あったため、読み出し速度からもいかにデータ量を少なくし、いかに速く復元するかが重 要課題であった。
そこでデジタル化の手法として、実際には0と1ではなく、黒の長さと白の長さに変換 して記憶するデータ圧縮方法が採用された。これは「ランレングス方式」と呼ばれ、高密 度ビットマップ記録方式に用いられた。
このような背景からアウトラインフォントへの研究開発が始まったわけであるが、当時 のCRT写植機でもショートベクトル近似による、アウトライン形式のデジタル文字も利用 されていた(つづく)。
■DTP玉手箱■
2003/05/17 00:00:00