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キャリブレーション対応カラー液晶モニタ

 これまで液晶モニタの弱点とされていた色再現域を,厳密な色が求められるグラフィックス・印刷業界で必要とされるCRT同等に実現させ,画質と色再現性の大幅な向上を達成したキャリブレーション対応カラー液晶モニタ「ColorEdgeシリーズ」について,ナナオの山口省一氏に伺った。

キャリブレーションモニタへの移行

 一般的にいうと,PC用のモニタの約9割が既に液晶に変わっている。そのような中でクリエイターや印刷業界は,まだまだ液晶では色が出ないという話がありCRTに頼らざるを得ない状況にある。しかし,薄くて小さくてトレンディな液晶に移行したい,使いたいという声は強くある。 液晶モニタのメリットで一番先に出てくるのが省スペース,省電力である。また,デジタル・インタフェイスが使える。パソコンのアナログ出力は必ずしも一定ではなく,出力やRGBのバランスが悪いなどの問題が数多く存在する。ただデジタルで受けると,このあたりの不均一さというのは基本的には問題にならない。

 また,環境光の影響が少なく,完全にフラットで幾何学的な歪みがない。CRTでよく問題になるフォーカスや色ずれ,輪郭がぼやけている,白の横に少し赤が出ている,RGBの3色がずれてしまっている状態などは基本的に起きないのである。虫眼鏡で見るとRGBは3つにきれいに分かれているが,これを人間の目で見るときれいに白に見える。
 経時変化が起きる要因というのが,やはりCRTモニタに比べて液晶のほうが少ない。また,省スペース,薄い軽いということで設置の自由度が高いメリットがある。

数多く存在した液晶モニタの問題点

 これまでの液晶モニタの問題点では,カラースペースが狭いことがある。輝度を取ろうとするとカラースペースのRGBのポイントが明るい側に引っ張られる。一般的に液晶モニタを評価する時に輝度の高さというのはかなり重要な評価ポイントとなるので,カラースペースを狭くして輝度を稼いでいるというのが現状である。
 また,加法混色が成り立たないことがある。CRTモニタも加法混色が必ずしも成り立つとは限らない。ビデオの回路をきちんと作らないと加法混色が成り立たない状況に陥る。液晶は一般的にこのような問題がある。

 コントラスト・色度の視野角依存度は,一般的にはコントラストのスペックが前面に出る。「170度までコントラストが10:1」などの言い方をするが,この業界でもっと重要なのは色度が変わってしまうことである。いろいろな液晶を見て気づく場合もあると思うが,ある角度を過ぎると急に色が反転してしまったりというコントラスト以前の問題がある。
 次に,ガンマ特性が滑らかではない点がある。CRTモニタは特性上,割と素直できれいなアナログ的ガンマ特性になる。液晶はそれぞれのRGBのセルに電圧を掛けて液晶の分子をひねり,角度を変えている。従って,掛けた圧力に対してどれだけひねられて,どれだけの光を通すかというところで,必ずしも最終的な光の出力としてきれいな特性にならない。それはある程度パネル側で吸収しているのであるが,CRTのように素直な特性にはならないのである。
 最後に一番大きな問題点として,CRTに比べて価格が高い。

印刷業界やデジタルカメラ業界の実状に合わせたモニタ

 これらの問題を前提にColorEdgeという製品を開発した。色域,カラースペースはCRTモニタと同じである。視野角による色度変異が少ない。これはDual-DomainのIPS(In-Plane-Swiyching;横電界)方式のパネルを採用している。IPS方式を1画素のうちのRGBのセルをさらに2つに分けてDomainを2つに分割するという言い方をするが,これで視野角依存度を打ち消し合うように働かせる。従ってコントラストも良く,色度変化も少ない特性をもっている。これは液晶パネルの特性である。
 また,自社開発で内部10ビットの処理をしている。一度10ビットにした上で,256を1024の階調に作り直して,その中から不要なものを落として,最終的に256階調を残していく方法を採っているので,どのモニタを取ってきても,グレースケールは色飛びなしにきれいに表現できるのである。

 階調特性であるガンマ値は,工場できちんと合わせこんでいる。普通モニタにはプロファイルは付いてくる。ただし1台1台測定したプロファイルではなく,そのモニタ用の一般的なプロファイルである。よって,個体差やRGBの出力が多少ずれていることなどを吸収していないため,ズレが生じてくる。あくまでもその点を正しく行うとなると,やはり実際に発光しているモニタを測色して,プロファイルを作ることが一番正しい方法である。
 白のポイントを意味する白の色温度も80度横からのぞいてもほとんどシフトしない。工場ではガンマ値のほかに白のポイントも1台1台調整している。従ってキャリブレーションを取らなくても,経時変化でズレてくるまでは,そこそこほかの液晶モニタと比べ正確な色を再現している。 また,白の色温度が正しくなくてはならない。9300Kというのは,ほとんどのCRTモニタメーカーが出荷状態で調整するターゲットである。液晶の場合もそのようなメーカーが多いが,購入したモニタをそのまま使っていると,印刷業界やデジタルカメラのユーザにとっては間違った色で見ていることになる。
 また,斜めから見ても色度の変異が少なく,「白浮き」が少ない特色ももっている。一部のパネルメーカーは斜めから見ると「白浮き」がけっこうあるので,ガンマ値を無理に2.6など高く設定している場合もある。

ColorEdgeのキャリブレーション

 ナナオのキャリブレーションはシステム側で合わせるのではなく,測色した上でモニタを合わせるというのが特色である。ターゲットを決めたら全自動でループを掛け,モニタの中で合わせ込む方法である。従って,知識のない方でも皆同じ結果を得られるのが大きな特徴である。
 測定器は,GretagMacbeth社製のi1(eye-one)を使っている。この製品を使って測色するキャリブレーションソフトColorNavigatorは,モニタに添付されている。手順としてはソフトを立ち上げ,選択としてモニタの輝度,白,ガンマをキャリブレーションしてプロファイルを作る。あるいは前回の測定結果を表示するという2つの選択肢がある。

 最初に合わせる時は,ターゲットに対してモニタがずれていることを前提にすると,3〜5分程度掛かることがある。定期的,例えば1カ月後に同じターゲットで再度キャリブレーションを掛ける時は,1分以内で完了し速くなる。
測定した値を表示してColorSyncプロファイルとして保存する。カラーセンサとしては正確な分光タイプなどのセンサを使って,モニタの特性を正確に合わせることができる。
 各種ソフトウエアの開発により,CRTモニタを上回る高精度な制御技術を確立し,その応用で,キャリブレーション対応モニタを開発した。これらの製品は,カラーマネージメントを始めるためのベースになると考えられる。

(テキスト&グラフィックス研究会)

2003/08/03 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会