平版印刷の動向 : より合理的なもの作りへの流れ
重要性を増すメンテナンス
印刷機械は、まさにコンピュータ(ME:Micro Electronics)の固まりのような機械になって、刷版自動交換、CIP3対応のインキコントロール、その他各種作業のリモコン化、あるいはインキローラの温度上昇,膨張に合わせて自動的にローラーを逃がしてニップ圧を一定に保つ「インキローラーニップの追従機能」など、細部に至るまでの自動化、脱技能化が図られてきた。
ME化は、オフ輪の小ロット対応力向上の核である。最新の全判サイズのオフ輪では、刷版自動交換装置の威力で上下8版の交換を2分以内で完了させ、各種の自動化によって500枚以下でのOKシート出し、10分以内でのフルピードでの運転が可能になった。一方で、1000rpmを越える高速化と1.5倍幅の広幅オフ輪によって大ロット分野での能力を高めている。シャフトレス技術は幅広い意味でメリットをもたらすもので、これからも更に広まっていくだろう。
数値制御や自動化が進んできた印刷現場においては、工場内の温湿度管理をはじめ機械各部の日常的なメンテナンスや適正な設定がより直接的に品質、生産性を左右することになる。そのために、メンテナンスフリー化、部品交換の簡素化、明確なマニュアル化、リモートメンテナンスなど、改善、検討すべき余地はいろいろある。メンテナンスの有料化は、欧州でもユーザーの猛反発でなかなかスムースには進まないようだが今後の課題である。
現場の作業者には、機械調整技能よりも機械性能を100%引き出すための客観的・論理的思考、PDCA思考が従来以上に強く求められるようになる。
改めて注目される湿し水コントロール
このような中で改めて注目されるのが湿し水コントロールである。
平版印刷における品質安定の最大要因の一つがインキの乳化状態の安定化である。平版インキは印刷中に湿し水を取り込んで乳化していくが、インキおよび湿し水供給量と紙へのインキ転移量がバランスすることによってインキの乳化が安定し、それが印刷品質安定のベースになる。印刷機のデジタル化によって数分で準備作業が完了して本刷りが可能になると、朝一番の仕事の場合などでは刷り出し直後は乳化が少ないが本刷りが進むうちに次第に乳化が進んでタック値、流動性が変化して濃度が低下、そこでインキ供給量を増やしていくと中間からシャドウ部の調子が変化するということにもなる。
凸版印刷株式会社は、運転中の印刷機のインキ乳化状態を判断して湿し水量を自動的にコントロールする「インラインインキ/水乳化バランス管理システム」を開発している。湿し水のコントロールを詰めていくならば、水質自体の問題も従来以上に注目されるべきで、超純水生成装置を設置する工場もある。
始まった、より合理的なもの作りへの流れ
製版のみではなく印刷機械もデジタル化され、これからはそれらを通信ネットワークで繋いで格段にスピーディーで効率的な印刷物作りを目指す段階に入った。それは、デジタルデータが通信ネットワークを通じて生産設備間を縦横に流れて、必要なデジタルデータが与えられれば人間の恣意的な判断がなくても各設備が最適な条件で物の生産ができるようにすることである。
印刷物品質の評価、コントロールについては、本刷り中のクローズドループでの品質検査・自動コントロールが、枚葉印刷機では本体価格とのコストバランスの問題でまだ実用例は聞かないが、オフ輪では実用されている。CTP化でコントロールパッチが自動的に入れられるようになりより使いやすくなった。しかし、品質の問題は、技術問題というより評価基準自体あるいは商習慣に関連する要素が大きい。
いま、「人間の恣意的な判断に基づいて調整する」ことから「基準となる目標色に合わせて印刷する」ための標準化の実運用が、自動車の雑誌広告印刷で始まった。人によって判断が異なるような微妙な色の差よりもタイムリーな内容で広告を出すための制作時間短縮がより重要で、長引く経済不振のなかで客観的な根拠がないまま色校正に手間と時間、そして数十億円というお金を掛けることは止めようということである。至極当然のことがやっと始まった。
微妙な各種新方式印刷機の位置付け
印刷機械に版を内臓して機上刷版製版を行うDI(Direct Imaging)機への関心は薄れ気味である。
従来の印刷機に対する刷版内臓DI印刷機の最大の優位性は、ネットワークと直かに繋がった自動運転おいて出てくるものであろう。マンローランドのDICO Webなどの新しい画像形成技術を使ったDI印刷機も同様である。
刷版内臓DI印刷機は、さらにそのコンパクトさ、メカニカルな部分への接触機会を最小限に止どめている点が従来の小型多色印刷機に対する差別化になる。この点は、印刷会社以外に強くアピールできるところである。ただし、ネットワークと直接繋げた使い方では、バリアブル印刷機能を持つデジタル印刷システムの方が新たな展開への期待は大きい。
DICOWebは、ヨーロッパを中心に実用運転が始まっているようだが、その運用状況がよくわからないし、コストに関する基本的情報もなく何ともいえない。
KBAのGENIUS52やハマダの水なし平版専用キーレス印刷機「Eco-Grapher」等は、ウエットインキでの印刷ながら、大きな品質変動要因を最初から排除しておくという点とコンパクトさが特長である。
新しい印刷方式はいろいろ出てくるが、ユーザーの現実として、従来の印刷システムに対するなじみの強さと汎用性評価の高さは格段に違う。CTP+ME化した印刷機の運転に必要な技能的要素が軽減され準備作業時間も非常に短縮されてきて、この点に関する新システムのアピール度は弱まらざるを得ない。さらに、ネットワークでの利用など、新印刷方式の特長がよりよく活きる環境の広がりも限定的で、期待と現実のギャップが大きい。
(出典 「2003-2004 グラフィックアーツ機材インデックス」)
「グラフィックアーツ機材インデックス」の内容
2003/09/21 00:00:00