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印刷業は印刷コーディネータとしてやっていけるか?

DTP化によるデータ入稿が当たり前の時代になり,スピード・コスト等のメリットは大きいものがあるが,反面,印刷の価格だけでなく品質も下がり,事故・クレームも多発しているのが現状である。これは印刷原稿作りへの「アマチュア」の参入という原因に他ならない。アマチュアとはDTPソフトを使うことはできるが,印刷のことを何も知らない人たちをいい,印刷会社の内部にもいるかもしれないが,多くは「デザイナー」と呼ばれる人たちではないか。
かつての「デザイナー」は組版・製版,そして印刷・製本の知識も持ち合わせ刷りでの印刷障害までを見越し,それを回避した上で優れたデザイン・装丁をしていたが,いまやその部分は失われ,DTPアプリが使えるだけで,組版もRGB・CMYKも知らない人が作ったデータが現場に流れ込む。
このような現状を踏まえた上で「印刷コーディネータ」の役割はますます重要になってくる。その第1の役割は「印刷で事故を起こさないためのデータ査収およびデータ作成の指導」であり,その次に「デザイン・プリプレスと印刷・製本の融合」,さらに「校正・校閲を行き届かせ,良品を作ること」になるだろう。DTP化により印刷コーディネータの役割が変わってきたと考える。かつてのような「助言」「相談」に力点がおかれた顧客との関係よりも,社内の生産サポート(悪いデータを流さない)という比重がより高まっているといっても良い。
入稿データがアマチュア化しているからこそ,より高次元なプロとして印刷コーディネータの存在が重要であるといえる。

(東京・文祥堂印刷 吉川昭二)


デザイナーの立場から印刷を見たとき,印刷業は大きなビジネスチャンスを逃しつつあるのではないか?との思いをこのところ抱き続けてきた。他のメディアへの目配りも大事なことだが,それ以前に,印刷物の制作姿勢が従来のままなのではないか。
印刷物の品質は,色や紙やデザインによって決まるのは事実だが,そうした外面的・即物的な品質ではなく「意味的な品質」の重要性に気がついているだろうか? 果たしてどこまでわれわれは真の顧客要求に応えているだろうか? 指示された要求に応えるだけで済ませていないか? 顧客要求には無言のものもあり,顧客は気がついていない社会的要求もある。これらに応え,適切な説明をしているだろうか? さらに,こうしたお付き合いの積み重ねによる信用は築かれているだろうか?
本来このことは「その印刷物の存在理由」を明確に把握し,適切に「説明責任(アカウンタビリティ)」に応えていくという,まさに基本を実行することでたやすく可能だと思う。このことは「この情報はどのメディアでどう伝達すべきなのか」を考えるということでもある。
企業は情報を発信したいのであり,効果的に伝達されることを期待している。そして印刷業はコミュニケーション活動の「要(かなめ)」になれる位置にいる。そのことを自覚するかどうかが今後の大きな分かれ道となるであろう。コーディネータという役割を担うか,低価格の印刷発注に耐える体力をもつかの分岐点ともいえるのではないか。
(デザイナー 和田義徳)


当社の上層部に印刷コーディネータの話を出したところ,「大手と違い内には印刷コーディネータを置くゆとりはない,営業がしっかり知識を広げ対応すれば良いのだ」と,…本当にそれで良いのだろうか。受注ノルマの厳しいなかで,営業担当がテリトリーを広げ印刷コーディネータ業務をこなせるか疑問である。得意先からよく聞く話だが,製造・品質面では工場の技術者は信用できるが,営業の話はどうも信用できないと。
知人から聞いた話だが,…中堅のS印刷会社が規模の大きなキャンペーン作業を受注し,入稿に際しAデザイナーがいろいろ指示したいので,良く分かる人に来てほしいと営業に連絡,入稿当日打ち合わせに出席したのは,営業部長,課長,担当者,工場から工場長以下現業課長ら数名で,Aデザイナーは人数の多いのに驚く。意気込みは分かるが誰に指示すればよいのか,また返ってくる返事もまちまちで全くのところ疲れるよと。その後Aデザイナーはこんなことを言っていた。
「金魚うんこみたいにぞろぞろと無駄なことをしているね,大手・中堅でもしっかりしている会社は,印刷コーディネータ等が対応して信頼を得ているのだから,中小会社は大手にないデジタル対応を含めた印刷コーディネータ戦略が必要だね」と。
印刷コーディネータは裏方のはずだが,書店でいろいろな書籍を見ると,奥付けにプリンティングディレクターやコーディネータの名前が記載されている。多分印刷品質をリード・分担した証だと思う。これら上製本書籍だけでなく,顧客満足度を高めるあらゆる印刷製造に印刷コーディネータが対応しているだろう。大手が数多くの印刷コーディネータを配しているのは受注戦略に効果ありと評価しているからだと思う。
私たち印刷会社も企業戦略上,印刷コーディネータをどうとらえて人材育成と,組織上の位置付けをするか熟考する時機に来ている。
(東京NY生)


支払った価値が十分に発揮される,有効な,意味のある印刷物にするのに必要な要件を,誰が押さえているかという問題ですね。
印刷会社が,「刷ればいいんだろ」と考えているうちは,無縁な世界です。
相手を知り,自分を知る。そして両者の能力を比較して,自分が十分に印刷コーディネータの役割を果たせる領域があるなと感じることが重要だと思います。
相手の都合などお構いなしに,勝手な提案を押し付けて,うまくクライアントを言いくるめて売り上げを伸ばそうとしても,そんなことくらいすぐに見抜かれてしまいます。
自社の営業にも,クライアントにもいろんなレベルがあり,そのマッチングをうまく調整できれば,営業の各人がコーディネータとしての資質を磨けるようになるのではないでしょうか?
営業マンのレベルがクライアントよりもいくらか上であることが分かるための指標が必要です。これは単に売り上げが上がったかどうかの管理とは全く異なるもので,営業マンがクライアントの問題をどう認識しているかを社内で報告させなければなりません。
やたらに背伸びする必要はないと思います。ただ会社としてそういう志向を組織に根付かせていくつもりの教育と,日常の仕事の管理をしていけば,企業の体質は次第にコーディネータとして顧客に認識してもらえるようになるのではないでしょうか。
(匿名希望)


印刷業は,大なり小なりコーディネータ機能を果たしてきたのではないでしょうか。
一つの問題は,コーディネートしてきたことをそれとして意識していたかどうか,ということです。例えば,「今度の仕事のデザインはAさんにやってもらうことが,お客様の要望にピッタリだ」と判断してAさんにデザインを外注することも,コーディネートの一つだと思います。
しかし,このようなことであれば,お客様はコーディネートしてくれたとは意識してくれません。しかし,コーディネータ機能とは,元々そのようなことではないでしょうか。それ自体で金額的見返りを求めるのではなく,お客様の満足という形でその評価が得られるものだと思います。この辺の考え方がもう一つの問題でしょう。
(東京 匿名希望)


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2003/08/25 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会