タイの印刷業界の現状をここにまとめました。タイのGDPは4-5%伸びると予想されてい
ます。このような伸びを期待できるのは、タイの経済全体が回復基調にあるからです。そ
の中に印刷業界も含まれるわけで、生産、質が継続的に拡大しています。タイ産業省の分析
によりますと、98年から10%の成長を続けているとの報告があります。過去2年の間に23
億ドル相当の市場規模に拡大しております。輸出はあまり多くありませんが伸びています。
2000年には9100万ドルの規模でした。今年1億1630万ドルで27.8%伸びています。さ
らに輸出に力を注いでいきたいと思っております。
●マーケットの分類
タイの印刷業は非常に多様化しており、異なった製品を作っています。また、収益状況もま
ちまちです。特に売上の多いのは広告の印刷関係です。具体的には販売促進の材料とか商
品のカタログとかダイレクトメールも含まれています。2001年の全体の28%です。中でも
ダイレクトメールの市場が伸びています。テレマーケティング、ディスプレイ広告、印刷物
挿入が含まれています。その次にパッケージで18%。99年以来はじめて書籍の分野のシャ
アが落ちました。これにはリーフレットも含まれてふくます。現在では書籍・リーフレット
関係は12%です。また定期刊行物、商業印刷物、新聞は10%から12%です。有価証券とか
企業向けのビジネスフォーム関係の印刷はデジタル化、E−コマースの普及で伸び悩んでい
ます。
●背景と位置付け
輸出振興局の統計によりますとタイの印刷会社は2500社(登録)。未登録企業が1000社ほ
どあると推測されます。登録された2500社を従業員規模別に3つに分けると、50人以下が
635社(未登録企業は450社)、50-220人の会社が1,115社、200人以上が750社となって
います。
タイの印刷業は大変重要な役割をはたしています。つまり付加価値サービスを提供したり、
原材料をつかうので周辺業界への影響が高い。失業低減に貢献しています。タイの印刷業界
はタイ国内だけではなく、アジア周辺諸国へもシェアを伸ばすことができると信じています。
人件費の高い国、地価の高い国ではタイの印刷会社がまだ伸びる余地があるでしょう。
●タイの印刷業界の今後
タイはインド−中国地域のセンターとしての役割を果たせるさだろうと考えています。なぜ
なら地理的な位置からいって、タイはそのような環境にあると考えています。ラオス、ベト
ナム・ハノイなどへの輸送が非常に効率化されます。
タイはそれぞれの国とのアライアンスを組んだことは多くあります。たとえば中国、カンボ
ジアなどと共同プロジェクトを組んだこともあります。タイはこの地域でのセンターとして
の役割を果たせると思います。投資推進局の話では国内だけでなく海外の投資家もタイ国内
での印刷ビジネスの展開に関心を持っています。それにともなって輸出・輸入の規制緩和、
海外投資家の株式保有率の緩和を予定しています。海外の投資家もタイ国内のビジネスに関
心をもっているようです。そこで政府もタイの印刷業者に目を向けるようになりました。
具体的には出版物や源材料に対する減税処置を予定。
国内の労働力に対する基本的な規制、あるいは標準化を行いまして、その国内規準が印刷業界にも適応されつつあります。フィリピンの方だったと思いますが、「われわれはトレンドに合わせた、教育の必要がある」いう発表がありましたが、われわれも一般の教育機関だけでは、専門家は育成できないので、業界団体を中心に努力が必要です。具体的には標準化された試験ですとか、場合によっては国家試験などによって標準の技能を判定できる仕組みの導入を求められています。
●チャレンジ課題
タイが直面している課題は、生産能力の過剰と競争の激化です。印刷はタイにおいて最も成功した業種のひとつです。しかし投資に非常にお金が掛かることと、競争が激化したことで利益が狭まっています。余剰設備がありますとグローバルな競争には勝てません。ある統計では印刷会社の9割が生産能力を使いきっていないといわれています。このように既存の能力を使いきれていないと業界としての競争力が不十分で、最終的には不必要な価格競争に走り、価格破壊にさらされてしまう。
新しい技術や設備の導入にはそれなりのリスクが伴いますが、どうしても新しいものにチャレンジする必要があります。いくつかの例をみますと、競合他社を買収することもあります。つまりしっかりしたカスタマーや熟練工をかかえている企業を買収してしまうというアプローチです。
もうひとつの大きな課題は、専門知識、技能をもった人材の不足です。これからはデジタル知識を備えた人材が必要です。特に技術関係に詳しいマネジャーで従来の印刷手法だけではなく、技術と管理、たとえば品質管理とかビジネスに詳しいテクニカルマネジャーといった人材が必要です。
ヒューマンリソースマネジメント(人的資源の改善のための管理)、トータルプロダクティブメンテナンス(TPM)といった管理方法の導入が求められます。国際的にはISO9000、ISO14000、ISO12647,SA8000といった規格に対する認証取得の努力が必要です。もっとISOの取得企業を増やす必要があります。オフセットであれ、フレキソであれISO取得企業を増やし、海外からのカスタマーの条件に応じることが必要です。ISOの取得がなければ海外からの受注は受けられないでしょう。
製品の多様化、拡大化は重要ですが、従来の様のEconomy of Scaleだけではだめで、質的な対応が必要です。
●技術の急速な進展にへの対応
タイでは印刷業界の歴史は長いのですが、以前は国内の市場だけに限られていましたが、国際的な視野で活動できるようになったのは20年ほど前からです。まだ交際舞台では子供のような存在です。次の世代に成功してもらうためには、今の設備を近代化して、新しい技術を先取りしておかなければなりません。
しかし、現場のオペレ−タは新しい設備、新しい技術の導入に懸念をいだくような心理的抵抗を取り除きためにはそれに対する教育訓練が必要です。
デジタル技術、ITの登場によってビジネスが大きく変わってしました。80%ぐらいがデジタル技術の影響を直接受けます。たとえば写真を例にあげますと、2月前にフォトキナ展(ドイツ)を訪れるチャンスがありました。デジタル技術が花盛りでした。カメラの世界も従来のフィルムカメラからデジタルカメラにシフトしてきました。ビジネスの方法もデジタル技術に合わせて変化する必要があります。デジタルプリンターが普及しておりますが、それらをオンラインで結びことで「プリント」の部分がカットされてしまうということが写真の業界で起こっております。これらを他山の石として印刷業界を見ていく必要があります。
タイには大きな大学が4つあります。印刷の専門コースや大学院の修士課程もあります。将来的には印刷の研究分野で、ドクターのシステムが導入される日もちかいでしょう。知識集約型のマネジメントが必要です。
また新しい印刷業界が定着したとしてもそれをだれが取仕切るか、管理するか。技術マネジメント的な人が必要です。
大手の印刷会社ですらここ2−3年で倒産したところがあります。逆に、小さいきても新しい印刷業として参入した企業も多くあります。この状況でいきますと、未登録合わせて4000社と言われていますが、従来型印刷技術にだけ留まるならば滅びてしまうのではないでしょうか。
カスタマーとの関係も改善しなければなりません。とくに次世代ではオン・デンマンドが要望されます。高品質なサービスの迅速化が求められます。タイではクイックプリントショップの世界が急速に発展しています。昨日「印刷会社というより、印刷に関するソリューションプロバイダーとして生まれ変わるべきだ」という講演をされた方がいらっしゃいましたが、タイででもまったくそのとおりです。
これからのタイの印刷業が発展するキーワードを挙げてみる
- デジタルワークフロー
* クイックプリント:フランチャイズでアメリカ、イギリス、オーストラリアから参入。急成長
- 情報の統合:CIP3/CIP4
- デジタルアセットマネジメント
- 標準データフォーマット:JDF/PDF
- CT-Plate
- CT-Press
- Hi-Printing/6-7印刷/FMスクリーニング
- UV印刷
- 自動化
- 生物学的分解可能なプラスチィック
多面的な技術やビジネスに対応していくには一社だけでは難しく、アライアンスを組んで進める必要があります。おそらく5-10年の間にここに挙げたような技術や環境が実現していきでしょう。5-10年かからないものもあるでしょう。
今後はタイヘの投資はかなり伸びるものと期待しています。まだいろいろ規制がありますが、撤廃され自由度は高くなるでしょう。
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