Exif2.2規格とその応用(プリンタの対応)
デジタルカメラの標準規格としては,画像ファイルフォーマットの標準規格であるExif(Exchangeable image file format)と,メモリカード間で画像データを交換・再生するためのファイルシステム規格DCF(Design rule for Camera)とがある。
2002年2月に制定されたExif2.2は,別名ExifPrintと呼ばれるように,デジタルカメラとプリンタの連携を強化し,撮影時のカメラの設定条件や撮影シーンに関する情報をタグ情報として画像データに埋め込み,プリンタ側でこの情報を解釈し,適切な自動補正処理が行えるように考えられている。
これらの機能の主なターゲットは,デジタルカメラで撮影した画像データを自宅のプリンタから出力するという一般コンシューマー向けではあるが,露光モードや光源の種類など撮影者の意図がタグ情報として埋め込まれる点や標準のカラースペースにsRGBよりも広い再現範囲をもつsYCCを採用するなど注目すべき点は多い。
2003年5月20日のテキスト&グラフィックス研究会では,デジタルカメラ用標準画像フォーマット「Exif2.2」規格とその応用について,キヤノン(株)インクジェットシステム開発センターの坂上渉氏よりお話を伺った。
Exif2.2で追加・修正された主要なタグ
ExifとはExchangeable image file formatの略称であり,デジタルカメラ向け画像ファイルフォーマットの国際的な標準規格として1995年に第1版が策定された。国内・海外を問わず,ほとんどの主要DSCメーカーに採用されている。
データ構造は,ヘッダ部,タグ情報,サムネイル(160×120画素),主画像(圧縮データJPEG,非圧縮データTIFF)から構成される。タグの種類には画素数,圧縮の種類,撮影日時,露出時間,色空間など百数十ある。
Exif2.2は高画質なプリント出力をユーザが手軽に得るための仕組み作りが主眼になっており,撮影時のカメラの設定条件や撮影シーンに関する情報をタグ情報として記録できるようになっている。
撮影時のカメラ設定条件に関する情報として,フラッシュ・露出モード・ホワイトバランス・露出時間・撮影シーンタイプ・デジタルズーム倍率がある。
撮影シーンに関する情報として,輝度値・光源・被写体距離範囲・被写体範囲(シーンにおける主要被写体の位置)がある。
撮影時に行った処理に関する情報として,撮影コントラスト・撮影彩度・撮影シャープネス・ゲイン制御(インコントロールによる増減感の度合い)・個別画像処理(出力を考慮して何か特別な画像処理が施されているかどうか)がある。
プリンタ側のExifPrint処理例
プリンタ側でのExif Print処理のコンセプトは次の4点である。
第1はいい絵はそのままに,である。撮影者の撮影意図を反映し,マニュアル撮影などでは過度な補正を行わないようにする。その際,最適な補正を行うための判断材料が「タグ情報」となる。
第2がミスショットの救済である。撮影者が意図しなかった露出アンダー,露出オーバーや色かぶりを起こした写真はかなりあり,適正露出のものは,一般にピンボケは除いて100枚撮ったら7〜8割ぐらいしかない。この2〜3割のミスショットのうちの7〜8割ぐらいは画像処理で救いたいという意図がある。
第3がシーンに適した好ましい絵を印刷することである。風景は風景らしく夜景は夜景らしく印刷する。
第4がプリンタはカメラの機種に依存しない。Exifという標準規格を使う以上,機種に依存してはいけないというのが基本原則となる。
これらの情報を用いてプリンタ側で行う画像処理例を紹介する。
フラッシュ情報の利用例では,フラッシュ・オンの時の処理は,顔の白飛びの抑え,コントラスト改善,明るさ補正などを行う。フラッシュ・オフで暗めの画像の場合,露出アンダーと判断して一律に明るく補正するのだが,フラッシュ・オンでなおかつ暗めの場合,フラッシュ光が届かなかったと判断して,背景の暗い部分の補正はある程度抑えめにして中間濃度部分だけを重点的に補正するようなアルゴリズムが考えられる。
プリンタ側はフラッシュタグだけの情報で判断するのではなくて,本来ならば被写体距離レンジ,撮影シーンタイプ,輝度値などを用いて適正露光であったかを推定するのが理想である。被写体が近ければフラッシュ光は強く当たるし,遠ければ効かない。こうした距離情報をどのカメラも記録してもらえればプリンタ側は複合的に判断してより適切な処理ができる。
露出時間情報の利用例としては,露出時間が長い時にはノイズ発生(偽色発生)が多いものと想定し,ノイズ除去処理を行う。ゲインコントロール,シャッタースピード,輝度値,ISO感度,撮影シーンタイプなどの情報もノイズ処理には有効である。またフラッシュ・オンで長時間露光の場合にはスローシンクロとみなして夜景に近い処理を行うことが考えられる。
ノイズの原因には大きく2つある。1つは半導体特性そのもので,暗電流と呼ばれるものである。長時間露光しているとこのノイズが増えてくる。露出時間が0.5秒を超えるとこのノイズが増える傾向がある。ノイズの発生量がRGBごとにばらつくと偽色となる。
もう1つは輝度ノイズである。青空のような輝度の高い部分に出やすい。これらのノイズをプリンタ側で自動的に除去していきたい。
代表的なノイズ除去の方法にローパスフィルタの適用があるが,キヤノンの場合そのような単純処理ではなく,まずそのノイズがCCDノイズ特有かどうかをあるアルゴリズムで判断し,特有と判断された場合にのみノイズフィルタを掛けるというようなインテリジェントな処理を行っている。
またデジタルズーム倍率の情報を参照して,倍率が高い場合はジャギー除去処理を行う。
さらに応用例として,Exif2.1から規定されているGPS情報を埋め込むことができるので,地域情報を参照して,色の作り方を変えるだとか,日付情報を参照して,夏と冬とで色の作り方を変えるだとか,さまざまな応用用途が考えられる。
Exif次期バージョンではAdobeRGBをサポート
Exifでは,従来から色空間ガイドラインとしてsRGB規格を採用していたが,デジタルカメラで記録される画像データは通常YCC形式である。YCCはsRGBより広い色域をもつが,YCCの色空間からRGBの色空間に変換する際のマイナス値処理が不明確であった。Exif2.2では,sYCC色空間の規定を追加したsRGB規格を新たに参照することで,YCCとRGBの関係を明確化している。これによりsYCCに対応したアプリケーションがあれば,sRGBを超えるプリンタの色再現域を利用することができる。
また,現在JEITA(電子情報技術産業協会)で審議中のExif2.21,DCF2.0では,AdobeRGBをサポートすることになっており,動向が注目される。
JAGAT info 2003年9月号より(文責:テキスト&グラフィックス研究会)
2003/09/20 00:00:00