凸版印刷は,VR(バーチャルリアリティ)作品の唐招提寺「鑑真と東山魁夷芸術」を開発した。唐招提寺「鑑真と東山魁夷芸術」は,「先導的アーカイブ映像制作支援事業」として選考されたタイトルである。
鑑真が759年に建立した唐招提寺は,1998年に世界文化遺産の指定をうけており,境内にある金堂は2000年から10年をかけて大改修を行う。工事が始まると全体の外観を見ることが難しくなるが,「鑑真と東山魁夷芸術」では,バーチャルリアリティで唐招提寺境内や建築物を散策することが出来る。軒下の木の組み方や屋根など通常見ることが難しい部分も,好みの位置から鑑賞できるようになっている。
境内には,同ソフトのDVDを見ることができる設備をもうけ,工事中に訪れた人でも唐招提寺を見ることができるようにする予定だという。
また,御影堂については年一回の一般公開でも一部しか見ることができない。しかし「鑑真と東山魁夷芸術」では,昭和40年代に,東山魁夷画伯が鑑真の霊を静めるために描いた,各部屋の障壁画も自由に鑑賞することができる。
凸版印刷では,21世紀のデジタル放送時代に向けて,家庭や学校で利用される電子出版のひとつとして,デジタルアーカイブの事業を展開していく予定だという。
開発の契機となった,先導的アーカイブは1998年度の補正予算による通商産業省の情報関連対策の一環として、情報処理事業振興協会(IPA)を通じて、財団法人新映像産業推進センターが受託し,推進してきた。最終的に20作品が選考され,12月10日〜26日に東京国立博物館で一般公開される。凸版印刷以外の選考作品には,次のようなタイトルがある。
タイトル/提案企業
・21世紀に伝えたい日本の美術「狩野派」400年の歴史/(株)PHP研究所
・金箔〜加賀前田藩の工芸遺産〜/(株)北陸スタッフ
・日光東照宮〜美の構造 (株)バスプラスワン
・「国宝源氏物語絵巻」高精細ディジタルアーカイブの試作/(株)日立製作所
・歴史・民族資料に基づく時代観察〜江戸時代の北国紀行〜/日本ビクター(株)
・蘇る日本の美 〜文化財修復のすべて〜/(株)電通テック
・西芳寺庭園〜築庭当初の再現と現状 名勝庭園デジタルアーカイブ/(株)電通
・東京国立博物館 法隆寺献納宝物ディジタルアーカイブ/(財)NHKエンジニアリングサービス,他
参考:「先導的コンテンツ市場環境整備事業について」
凸版印刷では、この前年にミケランジェロの天井画で有名なシスティナ礼拝堂を同じテクニックでVR作品にしている。これらはコンテンツの価値が高いだけに、高精細VRの迫力を見せつけるにはうってつけの題材であった。しかし、評価が高いこととがそのままビジネスにつながるわけにはいかない点が文化財コンテンツの難しいところである。
文化財総体の理解の一助としてデジタルメディアが市民権を得るためには相当の作品数の積み重ねが必要である。長い目で見れば重要な仕事であるので、そこに至るまでの開発費の保証を国のプロジェクトに期待できるとよいのだが、現状はそうはいきそうにない。これらクオリティの要求される作業を民間企業のボランティアや片手間仕事に任せるわけにもいかず、これらの解決には諸分野諸庁省の広範な知恵を結集する必要があるだろう。
しかし従来の紙の美術全集やビデオによる文化財紹介に比べて、VRによるそれはインタラクティブな鑑賞とか研究が可能な素材であり、従来のような作り手の予見や見識に制約されたものではないという奥行き性は、このメディアの寿命を(デジタル技術の寿命のことを無視すると)長くするのかもしれない。そうであると貴重なオリジナル故にメディアに載せる機会が少ない文化財には適ったメディアであろう。
1999/12/03 00:00:00