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オンデマンド印刷のニュービジネスをスタート

オンデマンド印刷のビジネスは,必要なときに必要なだけ提供することが基盤になっており,小ロット,短納期,ローコストが顧客の要求するものである。そして用途やコストの問題を考えてもオンデマンドに見合った印刷物があることも間違いないだろう。しかし,オンデマンドビジネスで利益を上げるとなると難しい。マーケットニーズを捉え,従来の印刷との差別化を図る必要があるだろう。
今回は,オンデマンド印刷事業に新しいビジネスチャンスを見出している伊藤忠紙パルプ(株)オンデマンドプリント事業部部長の田口兼敏氏に同社の新たな事業展開についてお話を伺った。

社内ベンチャーの形で新事業部発足

同社の前身は1953年に設立された伊藤忠商事の紙パルプ部で,紙パルプの国内販売および輸入業務を行っていた。1972年に業務を継承して,独立した。現在も主要業務は,伊藤忠商事との連携で,国産紙の販売であり,パルプ,紙製品の輸出入取引である。
取り扱い製品は多岐にわたっている。産業用紙・パッケージ本部では,ダンボール・クラフト紙・包装資材・化成品等を扱い,また用紙営業本部では新聞用紙・出版用紙や印刷情報用紙などを扱っている。最近では紙を越え,映像メディアへの進出も図り,映像出版関連事業での展開も行っている。
高度情報化社会においてメディアの多様化が進み,環境変化が著しい中で紙産業も変革しないわけにはいかない。ほかに何か付加価値があるのではないかと模索しているときにオンデマンドビジネスに出会った。そこで社内ベンチャーのような形で田口氏が提案をし,1997年に新規事業としてのオンデマンドプリント事業部が発足した。

オンデマンドは全く新しいデジタルビジネス

新規事業を起こした背景には,アンテナ事業として展開すれば,技術・市場等の動向が早くつかめるのではないかという目論見もあったそうである。デジタル印刷機を媒体にして,印刷業界の方向性も知ることができるのではないか,と思った。たしかにオンデマンドの市場調査や市場開拓を行うことは,本業である紙の流通にも役立つ。
デジタル印刷機の特色として可変印刷ができることが挙げられる。それをうまく使えば,例えば,ワン to ワンにもっていけるだろうと考えた。むしろそこが一番興味のあった部分だという。だからもちろん既存の印刷会社と同じことをするつもりはなかった。
立ち上げの際には,社員を中途採用した。ただ営業にしても制作にしても印刷会社にいた人を採用したわけではない。それはつまり従来のオフセットによる印刷を経験している人だとどうしてもクオリティにこだわるだろうし,ロットの違いにもとまどうのではないかと考えたからでもあった。今まで印刷会社が受注しなかった狭いところを狙った全く新しいデジタルビジネスとして捉えている。
それでも1年間ほどは,全くのゼロから始めたせいで試行錯誤を繰り返していた。2年目くらいから少しずつ軌道に乗り始め,今では「なんとか目鼻がたった状態」と語る。
もともと素人なので,勉強は欠かせないという。技術的な動向を調べることも不可欠であるし,さまざまな情報を収集しなければならない。
デジタル印刷機の導入に関しては,いくつかの製品も検討したそうだが,印刷のことをよく知らない人でもオペレーションできるものと考え,E-Print1000に決めたそうである。制作のほうは,現在3名で動いているが,全員がDTPオペレータ兼デザイナー兼E-Printの操作を行っている。一人でデザインから出力までをこなしていることになる。

マーケットニーズはオンデマンドを求めている

顧客ターゲットとしては,伊藤忠商事本社でありそのグループ企業,また同社で紙の販売をしている既存顧客,新規開拓,の3つである。その中でも新規開拓のところが今のところ一番感触がいいそうである。どの業界にも印刷は必要だが,いま接触している新規顧客が欲しているのが,オンデマンド印刷にマッチしているのだという。もっとも新規といっても伊藤忠商事およびグループ企業の取引先が多いので,営業としては,やりやすいほうだろう。
オンデマンドの潜在需要はあるとして,顧客サイドに立って企業ニーズを次のように分析している。@複雑さを増していく消費者のライフスタイルとニーズの多様化への対応,A消費者の知識と情報の高度化への対応,B効果的な費用対効率の3つのニーズに大別している。それらの課題をさらに突き詰めていくと,企業の生み出す製品のライフスタイルは短くなり,かつ多種多様の製品を作っていくことになる。製品を売るためにはより早い対応が要求される。コミュニケーションツールも迅速かつ的確なターゲットに必要部数作成する必要がある。マーケットニーズはまさにオンデマンドを求めており,それを印刷の分野で解決するのがオンデマンド印刷に他ならない。「逆にこちらからニーズを掘り起こして,顧客に提案していくのもわれわれの役目だと思っています」と田口氏は語る。

法人をターゲットにニーズを掘り起こす

オンデマンド市場は大きく2つ,法人相手か個人相手かに分けられる。同社の場合は,法人をターゲットにしている。
個人相手だとどうしてもコンビニエンスの形態をとらざるを得ない。いつも開店していて,場合によっては24時間サービスを行うことになるだろうし,時間による従業員のシフト制も検討しなければならないだろう。今のところ同社ではショップ展開を考えていない。直接顧客と打ち合わせをし,顧客のニーズを掘り起こしていくほうを選択した。従来の発想で,「何か刷る物がありませんか」という営業スタイルでは難しい市場であることを十分に承知している。

データベース活用を模索

「紙を売っている先とバッティングしないのか」とよく聞かれる。同社の営業品目は,あくまでも小ロット多品種であって,隙間を狙っているので,印刷会社とは棲み分けができると思っている。とはいえ,当然顧客のところに行くと小さい物だけでなく大きな仕事も入ってくる。そのときは,従来から取引のある印刷会社に外注という形で依頼している。「お互いに仲良くやっています」というわけである。
今後は単なるプリント事業では他と差別化できない。そのためにはデータベース構築をしていかなければならないだろう。幸いグループ会社には情報関連企業が多くある。そこと協力体制をとり自社でできない部分を補ってもらう。例えば顧客の購買履歴をデータ処理し,パーソナライズ印刷にも応用する。営業の情報を絡めれば強力な個別販促ツールにもなることを顧客にアピールすることもできる。
複雑化する顧客のマーケットニーズに対応すべく,データベースを活用するような新しい方法を模索中である。それを可能にするのが,デジタルであり,オンデマンド事業にはそのビジネスチャンスがあるのだろう。紙の流通商社である同社が取り組んでいる新事業はどんな躍進をするのか見ていきたい。(上野寿)

『JAGAT info』1999年11月号より

1999/11/26 00:00:00


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