創作タイプフェイス・コンテストは写研が先駆者であるが、1980年にはリヨービ印刷機 販売(現リョービイマジクス)による「第1回アジア・タイプオリンピアード」が開催さ れ、次いで1984年にはモリサワの「第1回国際タイプフェイス・コンテスト」が開催され るなど、書体メーカー(写植メーカー)は積極的に創作書体開発に意欲を見せていた。
しかしながら第2回目以降の、このようなタイプフェイス・コンテストから生まれた書 体で、ブームを起こし成功した例は「ナール」を除いてあまり見当らない。
1970年からスタートし、2年ごとに開催された写研のコンテストは、多種多様な創作書 体が応募されているが、制作者の積極的な研究開発の努力は評価されながらも、ナールや タイポスのようなヒット作品は生まれていない。
しかも残念ながら、リョービイマジクスのタイプフェイス・コンテストは2回のみで終 わり、写研、モリサワのタイプフェイス・コンテストは近年まで続けられていたが、いつ の間にか姿を消していた。
1970年代の「ナール」の出現は、古くさいといわれる丸ゴシック体を新鮮なものにして いる。1972年に文字盤として発売されて以来、「ナールL、M、D」「ナールO」などファミ リー化され、週刊誌やレジャー誌などのボディタイプから広告のキャッチフレーズなどに 幅広く使われた。
その影響を受けてか、モリサワから新しい丸ゴシックの「じゅん101」が1973年に文字 盤化され、またリョービ印刷機販売(現リヨービイマジクス)は、1979年に新丸ゴシック の「シリウス−B」の文字盤を発売した(図参照)。
図 上からナールD(写研)、じゅん101(モリサワ)、シリウスB(リョービ)
●変体少女文字「丸文字」の出現
ナールの影響であろうか、当時の若者たちが書く丸みをもった文字が目立つようになっ
た。1980年頃のことである。女子高卒の新入社員が書くレポートが、マンガチックな面白
い字体で、しかも横書きで並び線を揃えて綺麗に書かれていた。
それが読みやすいので非常に興味を惹かれたという記憶がある。そしてレポートを書い ているところを見ると、定規を使ってそれに沿って漢字・かなを書いている。しかも丸み をもった書体である。しかし年配者の管理職から見ると、必ずしも評判は良くなかった。
それに引換え男子高卒や大卒新入社員の場合は、お世辞にも綺麗で読みやすい字とはい えなかった。現在でもそうであるが、男性より女性の方が綺麗な字を書く人は多いのでは ないだろうか。
この書き文字の発生と普及について書かれた「変体少女文字の研究」山根一眞著(1985 年、講談社)がある。いわゆる「丸文字」と呼ばれる文字である。この「丸文字」は著者の造語で、 「変体少女文字」が正式な呼び方のようである(つづく)。
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2003/11/22 00:00:00