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「制作」業務には、はかりしれないビジネスの可能性がある!!!

――それは、顧客が身動き取りにくい領域をカバーする「新市場」を生み出す――
【経営者のためのクロスメディア戦略入門】

――利益率を思うように伸ばせず、しかし設備、人材を簡単には左右できないジレンマ。
――そしてデジタル化の波がこれまでの印刷業の領域を崩し、「印刷会社にしかできない仕事」をどんどん狭めてきている。
――しかしまだ売上が大きく落ち込んできてはいないから、とそれらの事実を認識していながらも、営業努力でまかなっていける、「まだ大丈夫」と思っている今、手を打たないと間に合わなくなる。
――人、もの、金の再点検と、自分では「これしかない」と思い込んでいた経営資源を、違う立場で見直すことで、「こんなビジネスチャンスが眠っていたのか」という発見に出会えるのである。そのためには戦略的思考を身につける必要がある。


●景気に左右されないと言われていた「印刷業」はとうに過去のものである。景気の波と、デジタル化の波の両方に今、印刷業は、大きく揺さぶられている。

印刷業界は景気低迷とそれに伴う価格競争により、利益が思うようにあげられない。売上を伸ばしたとしても、利益率が伸びない。そして1990年代に入り印刷市場が縮小をしはじめ、今は供給過剰による過当競争にあえいでいるのである。
そしてデジタル化の波がこれまでの印刷業の領域を崩し、個人から顧客企業まで、これまで印刷の専門領域であった「印刷会社にしかできない仕事」をどんどん侵食してきている。


●印刷、制作の工程を一括して扱うことが、利益率の向上とビジネスチャンスを生み出す。そのチャンスがデジタル化の波により生まれた。

印刷業は装置産業であり、設備投資が必要である。そして印刷物の制作は、工程のすべてを一括して扱った方が高い利益率を得られるのだが、多くの印刷会社は分業化・専業化により、工程のある部分を自社から切り離してしまっている。
しかし、デジタル化により一旦分業化、専業化した工程間の境界が、急速に失われつつある。
この分業化、専業化を見直し、一元化による利益率の向上と、「新しい事業領域=市場確保」を可能にするチャンスが今生じているのである。それがデジタル化の波によってもたらされた。

それは一旦、チャンスが平等に開けている段階に入ったことを意味する。その中で、全く新しいビジネスを起こすのではなく、これまでの人材、ノウハウの蓄積をこれからのビジネスの資産として「再評価」をして、新しい工程の中に再生させる知恵と戦略が必要になる。
その時、「制作をめぐるきめ細かなノウハウ」が先行特権として力を発揮するのである。

●先行特権を活かした戦略は、顧客の「真の悩み」を顧客の立場に立って真剣に考えることから生まれてくる。

例えば今の出版業の悩みの一つは、印刷業と違い「書籍、雑誌という紙の在庫」を抱えているために、それを前提としたビジネスをまず発想せざるを得ないということにある。その上で、再販制崩壊の波を不可避のものと感じながらも、現状の、流通の窓口が狭まり、売上確保のために多品種生産を余儀なくされている状況の中であえいでいる。
刊行部数の多い少ないは、編集者の労働量にはほとんど影響を与えない。反して刊行点数が増えることは、そのまま労働量の増大につながる。編集者一人あたりの労働量が今や大きく膨らみ過剰になっているのである。
しかし同時に、編集者の深刻な人材不足が叫ばれている。それも、デジタルのスキルを持った編集者が圧倒的に少なく、それが出版業の足かせにもなっている。
印刷の前工程、コンテンツの企画・編集を、カバーする動きもビジネスとして可能になってきているのである。

●だから、高品質、短納期、低価格の競争とは別に、戦略的ビジネスを「今の経営資源を無駄にしない形で」準備する必要がある。


――「制作」業務は、これからのIT化の流れの中で、すべてを左右する戦略的なポジションになりうる。そのためには「受注-制作-納品」の流れのビジネスの発想と並行して、「戦略思考」を身につける必要がある。


■戦略思考を身につけるための前提 その1――「業務の実状」
制作業務はその大半が「受注-制作-納品」という形で完結するビジネスである。
言うまでもないことだが、納期があり、それに間に合わせて完成し、納めねばならない。その時、納期と品質がクリアーされれば、業務は達成し、そこで終わるというのが、これまでの大まかな「制作業務」への認識であった。
経営的視点から言えば、「制作業務」とは、営業努力により受注した段階で「売上」が出来、後は品質と納期を満たしながら、いかに原価率を抑え、収益性を高めるかの対象なのだった。よってビジネスモデルは、とてもシンプルなものですんだ。
だからこそ、競合との競争も、他の業態に比して高品質、短納期、低価格などの差異を競う形のものになりがちだった。

そして大きなポイントは、発注者である「顧客」のオーダーさえ満たせば、経営的にはクリアされてきたという点であり、そのために、「その制作物を実際に活用するエンドユーザー」をほとんど意識してこなかったし、意識する必要がなかった。
特に印刷業の場合は、データを変換して、それを紙を含めたメディアに移しかえるということが制作業務の主軸であるため、コンテンツの中身(何が表現されているのか)を意識する必要もなかった。

■戦略思考を身につけるための前提 その2――「社会と技術の動向」
さて、そういう中、制作はクロスメディア対応が必須条件となっていく。
情報のデジタル化の流れはますます加速がついてきている。携帯電話はもはや手放せなくなり、メールなしでは仕事も生活も成り立たなくなってきた。
家でも、業務でも、移動中でも、文字、音声、映像が同じ端末から受/発信できる環境がますます成熟しつつある。
そういう中で、コンテンツを配信する「発注者」は、さまざまなメディアに切り分けて配信できるコンテンツの「制作」を望むようになってきているし、それが不可欠となるのは疑いようがない。
その時、コンテンツの中身を意識するかしないかで、戦略に大きな隔たりができる。

■はかりしれない可能性とは!!
このような状況の中で、「発注者サイドの実状を読み取ることなく」そのまま安易に「受注」し続けていてよいのだろうか。
今の顧客が身動き取れない/取りにくい領域を、カバーする動きができるのである。
そのための情報収集とノウハウの蓄積を積極的に行なうべきなのだ。そして一度、顧客の立場になって考えてみる。
その上で、自社の業務が「経営資源」として、こういう活用の仕方も可能なのかということを、見出していく必要がある。
今までのノウハウを活かしながら、新しい戦略を構築できる稀有なポジションに「制作業務」があることを「発見」するべきである。
そして、戦略を実行に移す。ノウハウを溜め、本格的な事業を大きく展開するには少々時間が必要である。その「時間」を今使うチャンスなのだ、ということである。
そういったことは、やはり経営者自身の話を聞かなくては分からない事でもある。
(今後この趣旨でのセミナーを順次企画していきますので、ご期待下さい)。

2003/11/21 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会