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DTPレイアウトアプリケーションの動向

欧米では,新プラットフォームに対応したDTPレイアウトアプリケーションが発売されており,着実に新世代DTPへの移行が進められている。しかし,国内ではレイアウトアプリケーションに付物である日本語組版レイアウトの問題や,日本固有のワークフローの問題,またMac OS X上では,OpenTypeといったフォントに関する重大な変更をどうするかという問題もあり,欧米と一様に論ずることは出来ない。本稿では,日本でのレイアウトアプリケーションやプラットフォームの選択と動向について,再考するものである。

欧米でのDTPアプリケーションの最新動向

2003年6月,米国Quark社はMac OS Xでネイティブ動作するQuark XPress 6(英語版)を発売した。欧米でも,Mac OS Xを使いたいと考えている多くのクリエイティブプロにとって,待望の発売であった。新機能には,複数のレイアウトスペースを包含しグループワークを強化するプロジェクトファイル機能,WebレイアウトやHTMLプレビュー・書出し機能,XMLサポート機能の強化,マルチundo,高解像度プレビュー,レイヤー機能,PostScript3への出力,XPress単独でのPDF書出し,表組機能などがあるようだ。Quark XPressの日本語版は現行の4.1以降,発売されておらず,6.0の発売が待たれるところだが,英語版と同等の機能なのか,また日本語版固有の機能アップがどれだけあるかは,不明である。

一方,米国Adobe社は2003年9月にPhotoshop,Illustrator,InDesign,GoLiveの新バージョンを発表した。英語版の発表資料によると,それぞれの製品名にはバージョンを表すナンバーがなくなり,Creative Suite を意味するCSの文字が付けられている。また,従来のコレクションシリーズに相当するのがAdobe Creative Suiteで,Photoshop CS,Illustrator CS,In Design CS,の3製品,またはGoLive CSとAcrobat 6 professionalを含んだ5製品の統合パッケージも同時に発表されている。これらの統合パッケージには,アプリケーション間、あるいはユーザ間で作業を引き継ぎやすくするためのコンテンツ管理ツール「Version Cue」がバンドルされているという。

Adobe社のこれらの製品は,既にMac OS Xでネイティブ動作するものが発売されていた。従来は発売時期によって,各アプリケーション間で機能の実装の違いがあった。たとえばカラーマネジメントの設定パネルがアプリケーションごとに異なり,このことによる混乱も少なくなかった。したがって,同時発売によって同等の機能が装備され,ユーザインターフェースが統一されることは,たいへん好ましいものである。これらの製品の日本語版は未発表であるが,期待が大きく,正式な発表が待たれるところである。

現時点では,欧米でもクリエイティブ部門やプリプレス部門でのMac OS Xの導入は少なくないものの,けして多数派ではないようである。しかし,Mac OS X のキラーアプリと言われたQuark XPress 6の登場や,InDesign CSをはじめとしたAdobe Creative Suiteの発売で,クリエイティブプロのプラットフォームやアプリケーションの選択状況は,急速に変わっていくだろう。

国内アプリケーションの使用分野と動向

現行製品であるAdobe InDesign 2.0日本語版は,高度な日本語組版機能を持つことから出版印刷の分野では好意的に受け取られており,DTPによるデジタル化が進んでいない分野からの移行が多いようだ。また,商業印刷やその他の分野ではそれほど利用されてはいないようだ。多くの商業印刷物では,圧倒的な多数派が,依然としてQuark XPressを使用しているのが実状である。

国内メーカーでは,キヤノンシステムソリューションズのEDICOLOR(Mac/Windows)の最新バージョン7.0が2003年11月に発売される。WnidowsXPの他に,新たにこのバージョンからMac OS Xにネイティブ対応される。また,Mac/Windows共に,OpenTypeのダイナミックダウンロードや異体字もサポートされる。EDICOLORは,出版印刷分野や自治体広報誌の分野で定評がある。

国内では,独特の出版印刷物のスタイルとしてページ物と呼ばれる主にモノクロを中心とした雑誌・書籍がある。また,情報誌や商品カタログ,チラシなども日本独特のスタイルである。これらの出版物は,概して大量ページや大量の情報を扱い,また定期的に出版されるものも多い。それぞれ専用組版レイアウトシステムの得意とする分野でもあり,広く利用されている。言い換えると,汎用的なDTPレイアウトアプリケーションでカバー出来ていない分野だとも言える。

【ページ物】
ページ物では,生産性と比較的細かい組版設定が要求されることが多い。ページ物の中でも,大量のテキストを扱い出版サイクルの短い週刊誌では,キヤノンシステムソリューションズのEdian Wingが大手印刷会社などで多く利用されている。他にモリサワのMC-B2,リョービのEP-X,モトヤのPROX ELWINシリーズなどがあり,大手・中堅印刷会社を中心に導入されている。

【情報誌,商品カタログ】
中古車情報や旅行ガイド,住宅情報などの情報誌や商品カタログでは,データベースを前提とした大量バッチ処理が主流である。方正のFounder FITやキヤノンシステムソリューションズのEdian Wingが多く利用されている。また,シンプルプロダクツのWAVEシリーズも,情報誌や広告の自動組版レイアウト,および間取り図などのCADデータを扱うものでは定評があり,大手・中堅印刷会社で導入されているケースが多い。

【チラシ】
方正のFounder Fitはチラシ向けにも販売されており,商品データベース・画像データベースと連動したシステム構築がおこなわれている。Founder Fitは印刷制作会社の他に,発注元であるスーパーや家電量販店など小売・流通業での導入も増えている。
また,大日本スクリーンのAVANASシリーズにはページ物向け,チラシ向け,カタログ向けなど製品分野に特化した製品がそれぞれ販売されている。】

【XML文書とDTPアプリケーションの連動】
近年,専用DTPシステムの多くやDTPレイアウトアプリケーションにおいて,XML文書との連携をおこなう機能拡張が進められている。印刷物とWebパブリッシングなどクロスメディアを対象にした制作には,XMLデータを中心にしたシステム構築が不可欠であり,様々な形態でのXMLサポートがトライされている。
シンプルプロダクツは,XML Automagicと,キヤノンシステムソリューションズと共同開発したXML Automagic with EDICOLORを販売している。これらはXMLデータベースから自動組版をおこなうシステムで,WAVEまたはEDICOLORでの再編集も可能となっている。
モリサワのMDSは,XML文書からの自動組版やWebパブリッシングをおこなう各種のモジュールからなる統合ソリューションである。また,Webサーバー上で外字フォントと外字表示のための仕組みを持ち,通常のWebブラウザでも外字表示が可能な「GlyphGate」の機能と連動することも可能である。
また,大日本スクリーンのAVANAS BookStudioも,XML文書から自動組版編集をおこなう機能を装備している。これらは用語集や辞典類,法令集などのXML化で実績が多いと言う。
Adobe社からは,FrameMaker7.0が販売されている。構造化されたXML文書の編集制作と印刷の機能に優れており,海外との文書交換の多い大手メーカーのマニュアルなど,企業内出版物を対象に広く利用されている。

Adobe Acrobat 6.0の登場とその影響

  PDFを生成するツール,Acrobatの最新バージョン6.0が2003年7月より発売された。Acrobatはレイアウトアプリケーションではないが,PostScriptがDTPの重要な要素であるのと同様に,PDFもDTPの重要な要素となっている。またPDFは,DTPばかりでなくWebパブリッシングや電子取引の分野でも重要な要素となりつつある。Adobe社純正で,PDFを生成するための基本ソフトであるAcrobatは,このバージョンから一般企業向け製品のStandardと,エンジニアリング,クリエイティブ・出版印刷向け製品のProfessionalが発売されている。

Acrobat Professionalでは,新たにPDF/Xフォーマット対応,分版・透明の設定・プレビュー機能,内蔵プリフライト機能などが追加されている。PDF/Xは米国の広告業界を中心に利用が広まっているフォーマットで,データ入稿の信頼性向上と簡便性のためにPDFの機能を制限したものである。たとえば,PDF/X-1aでは,フォント埋め込みが必須で,CMYKカラーしか許されない。そのため,PDF/X-1aであればフォントの有無や色空間の違いによる入稿トラブルは起り得ない。海外では,Acrobat6.0の登場により,PDF入稿が一層増加する可能性が高い。また国内でもこれらの新機能により,PDFワークフローやリモートプルーフの実現が,より一層現実的になったと言えよう。

DTPリテラシーの向上

かつてのDTPレイアウトアプリケーションの選択は,1つのプラットフォーム,1つのアプリケーションに限定することが望ましいとする風潮があり,性能や機能テスト,コストの比較が盛んであった。ある程度の規模の制作印刷会社であっても,MacかWindowsのどちらかを選択せざるを得なかった。プラットフォーム,アプリケーション,フォントを導入するコストが大きいことが最大の要因であった。また,スキル・ノウハウの面で企業としても個人としても,得意分野が偏っており,どちらかを選択するしかなかった。そして,1人に1台のコンピュータを実現することが,デジタル化の目標と言えるようなレベルであった。

ところが,国内でもDTPが普及し始めて,10年近い年月を経た現在において,DTPやレイアウトアプリケーションを使いこなすデザイナ・オペレータの知識レベルは,飛躍的に向上した。10年前にはデザイン,写植,製版,刷版,校正刷りでさえ分業されておりトータルな知識を持つ者は非常に少なかった。しかし,デジタル化の進展と共に,コンピュータに関する知識から,DTPの知識,印刷そのものの知識まで幅広く修得することが必要とされるようになった。その結果,主要なアプリケーションの操作や機能,データの扱いに関する知識は,個人レベル,企業レベルでも蓄積された。たとえば,DTPの経験者がInDesignを新たに習得する場合,3-4日で主要な操作をマスターすることがほとんどであるという。

今では,1人で2-3台のコンピュータを使用しているケースも,珍しくない状況となっている。また,Microsoft Officeのデータを変換して,印刷することも,多くの印刷会社で日常的におこなわれている。様々なアプリケーションのデータフォーマットに関する知識,変換のノウハウ,文字コードや画像形式,カラーマネジメントに関する知識,MacとWindowsなどOS,プラットフォームに関する知識や,1人で様々なアプリケーションに関する知識を持ち使いこなすことが当然のようにおこなわれている。印刷会社としては,様々なアプリケーションやシステムに対応できるノウハウ・技術こそが競争力となっている。

Mac OS Xや,Windowsプラットフォーム上でのDTPや,Word,Excelといったビジネスソフトのデータを元にした印刷は今後も増加し,マルチアプリケーション,マルチプラットフォームといった多様化が一層,進展するだろう。むしろ出版物や,顧客の業務に応じた最適なツールを選択し,使いこなす能力こそが,印刷会社での競争力となっていくだろう。

(『プリンターズサークル12月号』より)

2003/12/04 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会