マレーシアの印刷産業
マレーシアの印刷産業は、教育・文化・経済を支える重要な産業として発展してきた。現在はまだハードコピーとしての印刷が大半である。マレーシアの印刷企業は中小企業が大変に多いのが特徴である。企業数は3,290社、従業員数は約12万人、120億RM(リンギット)<30億USドル>で製造業としてはわが国で最も規模の大きい産業である。今後とも発展が予想されるが課題も多い。
●マレーシア印刷業の可能性と見通し
わが国は東南アジアの中で急速に発展しているが、昨年は、イラク戦争やSARSの影響があったものの、GDPは5.2%という大きな成長を遂げた。今年は6.0%の成長が予想されている。紙の需要も包装印刷やデジタル印刷の影響で伸びている。
[マレーシアの強み]
A. 地理的な立地条件が非常に良い
まず、地理的条件であるが、東南アジアの戦略的拠点として重要な位置にある。生活環境も良好で、年間を通じて温暖な気候で、洪水・地震といった自然災害がほとんどないのも特徴です。
B. 印刷産業に対する政府の支援が強い
マレーシア経済の方向は非常にハッキリしている。すなわち、「ハイテク指向」「研究開発指向」である。それに対応するように政府は様々な優遇処置を講じている。とくに海外企業の誘致に力を入れている。海外投資家の方に、マレーシアの地理的条件と豊富な労働力を最大限に活用していただきたいと思っている。
マレーシアには知的所有権の保護法が整備され、印刷業界においても特許権の保護等に力を入れている。印刷業を含めあらゆる産業分野において国際規格、例えばISO9000、14000の規格に則った認証機関SIRIM、SMIDECといった機関が認証取得に力を入れている。
これらを取得することで企業がグローバルに認められたいと考えている。
ローカル(マレーシア)ブランドの開発にも力を入れている。デザインカウンシル(Malaysian Design Council)という機関による優れたデザイナーや商品デザインに対する褒章制度が設けられている。また政府の方針として環境政策にも力を入れている。印刷産業も環境を保護する必要がある。例えば、廃棄物の管理、廃棄ガスのエミッションなど環境対策をしないと、ニューエコノミーの中では印刷も生きていけないということである。ニューエコノミーでは、環境にやさしい材料の使用なが奨励されている。例えば、大豆を原料にしたもの、有害な薬剤を排除したものが使われている。
C. 豊かな労働力、スキルの高い人材が多い
ただマレーシアではまだまだ印刷業は3Kというイメージが払拭されていない。印刷はハイテクの先進技術であることを国民に認識してもらう必要がある。このイメージチェンジがマレーシアの印刷会社の大きな課題で、そのためには多種多様な高いスキルを持った人材を確保する必要がある。マレーシアの印刷業はまだ発展途上で、人材を多く集めるだけでなく質(専門能力)の高い人材を集める必要があります。例えば、コンピュータの運用に明るい人材、高い技術ノウハウを持った人、戦略的なマネジメントが出来る人、顧客との関係作りにスキルを持った人、さらに国際貿易に長けた人材が求められている。
マレーシア印刷協会では、大学の国際貿易のコースを出た方が活躍している他国での成功事例にならって、人材確保をしたいと思う。マレーシアの印刷会社は積極的にスキルを持った人材登用に努めている。その訓練や教育の仕組みとしてハイデルベルグ・プリント・アカデミー(Heidelberg's Print Academy)やインターグラフィカプリント&パクト(Intergrafica Print&Pact(M)Sdn.Bhd)という企業の教育機関が活用されている。システムデザインを含めた高度な訓練の場が設けられている。同じような訓練の場として英国プリンティングインスティチュー(Institute of Printing United Kingdom(Malaysia Branch))からも提供されている。このような訓練プログラムは非常に重要ですが、国内市場の印刷会社にとってはそこまで手が届かないのが実情です。これを打破するにはマレーシアの印刷会社のマインドの変化が必要です。先進的な装置への投資と同時にスキルをもった能力のあるスタッフへの投資が求められている。また、今日の技術進歩は早くすぐに時代遅れになるため、継続的・生涯的教育体制が必要である。
D.これからの技術と設備
一方で、インターネットでe-コマースが導入されているが、これは従来の技術とって変わるまったく新しいアプローチである。その一環としてマレーシアでは、マルチメディアスーパーコリドー(Multimedia Super Corridor)という政府が主導するIT指向の技術奨励策が講じられている。例えば銀行・金融産業では多種多様な支払方法が導入されている。マレーシア印刷協会ではこの動向に対応した活動をしている。
●見まわしてみると、グローバリゼーションの波
われわれ印刷業界を考えて見ますと装置や人材育成の投資をする必要があること、マレーシア独自の商品、あるいはブランドを開発することで、マレーシアの印刷業界を国際的の強化する必要がある。
このような新しい試みに対しては若い人は抵抗なく果敢にチャレンジされる体質があるので、この若い人材を使ってグローバルなマーケティングあるいはマーケットへの進出をはかりたい。
前述のような新しいタイプのマーケットあるいは新しいタイプの競争相手に印刷業界は直面している。たとえば中国の印刷活動は非常に活発で価格面だけでなく、品質面での向上も目覚しいものがある。それに対応してわが国でも量的、質的の適切な価格で印刷物が提供で来るような国際競争力が求められている。コストの面を考えると関税優遇処置、資本費用の低減等の処置を通じて新しい装置や材料の手配の可能な仕組みが求められている。印刷業界もグローバルエコノミーの中で世界的な影響を受けている。例えばe-コマースが成長することで国際貿易の障害が減少してきた。それに伴って大きい企業も小さい企業もグローバルなマーケットに根を降りしやすくなってきたといえる。印刷会社はパーソナル化した、いわゆる特化したサービスを提供する必要がある。それも従来とはかなり短い時間で提供することが求められている。これは決して簡単なことではないが、われわれ印刷業界にとって非常に可能性のある分野であると思う。マレーシアの産業は全般的に教育水準の向上に恩恵をこうむっている。また市場経済の隆盛も追い風になっている。方向はすでに決まっており、マレーシアの印刷業界にとってインフラのアップグレード必要になっている。
●新しい技術
インフラの強化とならび同時にCTP、デジタル印刷の導入が不可欠になっている。このような新技術の導入が、ハード・ソフトを問わず国際的にクライアントの二−ズに合致して顧客を確保する前提条件になっている。デジタル印刷についてはさらに大きな影響がある。印刷業界は他の関連する業界に統合あるいは吸収されているという現象がある。出版と印刷の境界線をどこに引くのか。印刷業が従来の製造業の枠を越えてサービス業のひとつの形態として位置付けられている。このようなサービス産業としての印刷形態が21世紀の大きな特徴である。すでにe-コマースは全世界で大きな影響を与えている。印刷業界も例外ではない。つまりオンラインによるクライアントへのニーズの提供が求められる。
●紙のテクノロジジー
オンラインでリアルタイムにコストを削減しながら印刷のニースに適応する必要がある。
これからはこのようなサービス形態によって仕事を確保しなければならない。そのためには国際規格を取得して、国際的に認知されることが前提になる。その一方で、このような電子化が進むことで残念ながらドキュメント(文書)の改ざん、偽装が広まっている。ハイエンドのプリンターを誰でもが手に入れやすく操作できるため、文書の偽造・改ざんが進んでいる悲しい現実がある。このようなイミテーションの分野としては例えば、製薬業界、タバコ業界、紙幣・IDカードなどの金融業界、OVD(optical variable disc)、その他香水などの偽造品である。このような偽造や改ざんを防ぐためには、印刷業界としては、特殊な紙の技術を導入する必要がある。ラジオ周波数ファイバーとかUVインクを活用することでその紙をセンサーで検知することでその場で偽装・改ざんを発見するような対策である。これらが新しい技術として注目されている。
●成功への要因
- ブランドの保護
- パーソナル化した一対一のソリューションが提供できること。
- 先進技術の導入
- 生涯教育・継続教育
などがキーワードとして挙がられる。
国際舞台で活躍するためには、国際的に認められた第三者による認証を取得することが条件となるでしょう。私どもの会社はCWAという認証を世界で三番目に取得した会社である。もちろんマレーシアではわが社がはじめてである。このCWAとはセキュリティマネジメントシステムCWA14641に準拠したものである。
それぞれのソリューション
パーソナル化したソリューションが求められると申し上げたが、そのためにはカスタム化した製品、あるいはカスタム化されたサービスの提供が求められるため、そのためのワークプロセスの見直しが必要になる。
印刷業界では従来からの製品の体制があるが、将来的にはカスタム化されたデータを使って早く成果を提供できる体制が求められる。
実際の成功のシナリオ
従来、ウエルスマネジメントポートフィリオとよばれる企業では多量の文書を毎月送り届ける手法を取っている。しかしその手法ではそれを受け取ったカスタマーが投資の結果を一目で把握することは不可能だという欠点がある。しかし新しい手法を使うことでカスタマーに一目で投資に対する効果がわかるような情報の提供が可能になる。ひとつの例では、高分解能の高品質の紙あるいはメールを使うことで納期を短縮してカスタマーのニーズを提供できることが可能になっている。二ためにパーソナル化したフレッシュな情報提供、あるいは損益計算書が求められている。これがインターネット、あるいはメール等で可能になっている。
オンライン技術
一方、オンラインの技術を使うと知的所有権の保護が問題になってくる。そのため、オンラインで送信する場合に、数段階の階層に分けて、暗号化して送るセキュリティツールでが用いられている。いわゆるPPOL(Protect Priority Online)というオンラインによる知的所有権保護システムです。このPPOLという方式を使うことで、カスタマーの名前やIDパスワードを入れると機密保持を保持しながら暗号解読が可能になっている。視覚に訴えるフォーマットとしてHTML、PDFなどが普及しており、未納注文あるいは繰越注文の成り行き管理が24時間ベースで可能になっている。
オンラインの技術の特徴
*納期の短縮
*コストの削減
*効率の大幅アップ
*プリント・オン・ディマンドが可能であること
*人的ミスを最小限に留める。
セキュリティを確保した印刷
*カスタム化したソリューションに対するブランド保護
*機密保持
*文書の改ざん、不正による損失の防止
*海賊版によるブランドイメージのダウンを防ぐ
*訴訟のための、調査の時間と費用が莫大になることを防ぐ
このようなことを防止するための措置を講ずることで、積極的に教育や技術導入をはかるように力を入れている。
●まとめ
現在、政府の支援のもと経済全体をハイテク産業に育てようと研究開発や国際規格のISO(9000、14000)の取得を進めている。またデザインを強化し、優れたデザインには褒賞制度を設けている。知的財産権の整備なども進めている。環境問題もついても政府が積極的に取り組んでいる。新しい技術(ハイテク)・研究開発、自然環境保護、知財権保護、国際規格などへの取組みは、マレーシアのグローバル化へのブランド作りであると位置付けている。
これからの印刷にとって重要なことのデジタル化、オンライン化に欠かせないインフラ技術を整備し、短時間で安全に情報を送り届けることである。とくにサービスがよりカスタム化されることから、ドキュメントに対する偽造、機密保持、不法行為による損失を防ぎ、ブランドに対する保護が重要であるとしている。