前回まで築地体、秀英体など活字書体の多くを紹介してきたが、活字といえばまず思い浮かべることは「文字」ということであろう。活字は柱状の鉛合金の金属片である。しかし文字といっても、それは文字一般を指すのではなく、書体を通じて形象された文字をいう。
●活字の字体と書体
文字というものは、活字の文字であっても、手書きの文字であっても、またデジタル文字であっても、何らかの「書体」をともなわなければ、文字として表現できないということである。
では「字体」とは何か。「字体」とは、筆画の組合せによる骨格のことで抽象的な概念であり、また「書体」とは文字の点・画をレイアウトして、一定の字形にデザインしたものをいう。一般に字体と書体が混同されて使われているが、字体と書体は、明確に区別して考えるべきである。つまり、字体は「文字を形づくる骨格のこと」と限定して考えた方がすっきりする。
文字は人の体と同じように、骨格だけでは成立しえない。肉付きである書体と相まって、姿・形を表すものである。また書体は書きぶり、書風ともいわれ、書いた人の性格、気質、感情などが表現されるものである。
書風は個性的で、その表情もそれぞれ異なる。では活字書体はどうか。活字といえどもそこに書体が存在しなければ、文字を表すことができないであろう。書体は活字の顔であり生命といえる。活字の書体についての考え方は、手書きの概念と変わりはないが、活字書体はいくつかの点で特徴を異にしている。
1.印刷のメカニズムを通して表現される。 印刷における用紙、インキ、印刷様式、印刷機械などの影響を考慮する必要がある。
2.大小各種の活字が組み合わされて用いられる。 本文と編・章などの見出しや注・柱などが同一平面に並べて用いられる。
3.活字は一字単独で用いられることは少ない。 前後にいろいろな文字が連結して用いられるので、どんな文字と連結しても、書体の流れや並び線に乱れがないこと。
4.文字は不特定多数の読者によって読まれる。 したがって書体の特徴が、独善的な極端なものであってはいけない。
5.日本語の表現を前提にしている。 字体に忠実であることはもちろん日本語の特徴、日本語のリズムと融和するような書体が望まれる。
このように活字の書体設計には多様な難しい条件がある。そして漢字は、一書体がJIS第1水準、第2水準の約7000字だけでは間に合わず、外字や異体字と称する文字群を整備しないと、文字印刷の需要に応じきれないのが実情である。さらに平かな、片かな、記号類が必要である。このように考えると活字の書体設計は、いかに難しいかがわかるであろう。
明朝体と呼ばれる書体名にはいろいろな種類があり、活字時代の歴史的な固有名詞がついて呼ばれる明朝体は数多くある。代表的な名称を上げると、まず築地明朝体、秀英明朝体、岩田明朝体、モトヤ明朝体、日活明朝体などがある。
さらに写植時代に生れた代表的な明朝体といえば写植メーカーが開発したもので、写研の「石井明朝体」を筆頭に、その他には「モリサワりゅうみん」、「リョービ本明朝」などがある(つづく)。
※参考資料:「アステ」リョービイマジクス発行、「明朝活字」矢作勝美
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2004/06/12 00:00:00