4.これからのグローバル化の姿と可能性
(1)デジタルネットワーク化による促進
印刷物の構成要素となる文字、図形、画像の全てのデータはデジタルデータとして取り扱われるようになり、各種のデジタルデータを通信回線で交換することが当然のことになる。
この場合、顧客が満足する柔軟な生産体制を品質面から保証するためには、カラーマネージメントの運用が不可欠になる。
カラーマネージメントの基盤は印刷機がいつでも同じ色再現をするように調整されていることと、顧客、デザイナー、印刷会社など、印刷物制作に関わる企業が、できればひとつの標準を利用してそれぞれの設備の色再現の違いを調整できる仕組みを作り、その標準は既にJISにもなっている。同委員会は、今後「ASIAN COLOR」という標準を作りたいとの意向を持っているようである。
JAGAT自体は、日本のISO/TC130委員会運営の主体ではないから、その先頭に立ってアジア地域の標準化を推し進めることはできないが、FAGATという場が標準化制定に貢献する機会はいろいろあると思っている。
先に述べたように、印刷物の納期はどんどん短納期化してきており、印刷市場のグローバル化においては物流が最も大きな問題となる。しかし、印刷物の内容であるコンテンツデータは通信回線を介して自由に流通させることが可能になってきている。韓国の通信インフラは日本以上に整備され利用が進んでいるし、中国の大連にプリプレスの工場を設立した日本の中小企業の経営者は、大連における通信インフラ整備は日本以上に進んでいるし人材というインフラもすばらしいと述べている。同社は、日本の学校で使われる教科書の改訂にあたって、10万ページにのぼる学参物の入力の仕事を大連で行ったのをきっかけにデータ入力やプリプレスの仕事のみを扱う企業を設立し、日本の印刷会社や顧客からの仕事を行っている。この経営者は、プリプレス事業は、品質に関するリスクが少ないことが最大のメリットである述べている。
このような状況を反映して、文字入力や画像処理、組版といったプリプレスの業務のみを海外で処理することをPRする印刷会社の増加傾向が見られる。日本の印刷会社が仲介に入ることが安心感にもなっている。
国境をまたがる印刷ビジネスの交流は、物流を伴わないコンテンツあるいはデジタルデータの処理、加工という分野でより有望なようである。地球規模で考えると、時差の大きな地域間では、それを利用して制作期間を短縮するためのコラボレーションの例もある。
(2)国際共同出版
日本のマンガは、アジア各国で多く読まれるようになった。中国では、2003年に「クレヨンしんちゃん(蝋筆小新)」が出てヒットした。日本のマンガは、アジアだけでなく、米国、欧州でも本格的な普及の兆しが出てきている。2003年春、米国ランダムハウス(RANDOM HOUSE)と講談社が提携、2004年5月にランダムハウスの系列出版社が講談社のマンガを出すことになった。
漫画だけでなく、吉本ばなな、村上春樹といった作家は韓国、中国、そしてヨーロッパでも人気のある作家である。村上春樹の「海辺のカフカ」は2003年秋に韓国で出て以降ずっとベスト1~3位に入っており、塩野七生の「ローマ人の物語」は韓国で400万部売れている。中国でも文芸分野の5人の人気作家の1人は村上春樹だという話を聞いたことがある。
従来、日本の出版市場は輸入超過で翻訳ばかりしていたが、マンガ以外の日本のコンテンツもこれからどんどん海外に出て行く可能性が十分ある。ある韓国の出版人が、日本、韓国、中国はみんな三国志を読んでいる共通のベースがあるから、国際共同出版は十分可能ではないかと言ったという。国際共同出版は、ヨーロッパで盛んであったようにアジア圏でも当たり前になるかもしれない。
そして、例えば、日本の出版社が初版を出すときに、中国での発行部数が最も多く次が日本での発行部数というような可能性も想定される。そうなれば、当然、中国に印刷の拠点を持っていって、そこで本を作りそこから各国に本を配送することは十分に考えられることである。中国のビジネス書では発行部数が1000万部という本もあると聞くが日本の国内市場とは桁違いの部数である。日本の出版社が、飽和している日本国内市場から海外に出て行くような国際展開は、印刷業界にとっても注目に値する動きであろう。小学館は既にVIZという会社を上海に作っている。
ここ1,2年、韓国のテレビドラマが日本で高視聴率を上げることは珍しくなく、2003年は中国の「女子12樂坊」というグループのCDは大ヒットしたし、このグループはコマーシャルでも大活躍した。今後ともに、アジア各国相互の人的交流、文化交流、経済交流がますます拡大していくことは明らかであり、それにともなってアジア地域の印刷市場、印刷産業の相互関係が密接になっていくことは間違いない。
どのような場合でも交流の基盤は信頼関係であるが、既製品の大量生産ではなく、一品個別生産的な性格が強く、しかも納期、品質、価格に標準がない印刷物の取引においては、より一層強い信頼関係が重要になる。
FAGATのメンバー機関の信頼関係を各国の印刷物業界の信頼関係にまで広げていくことによって、アジア各国におけるさまざまな交流の促進に貢献できればFAGATの意義もより深いものになるだろう。