本ページでは、「標準手順計画を軸としたMISの骨格に関する試案」を掲載したが、それは価格に関するひとつの基本的問題の解消と、システムの統合化、自動化を促進するために、見積の第1次シミュレーション結果(社内基準売価)の算出および日程計画のシミュレーションまでを自動化する機能を組み込んだ仕組み作りが必要と考えたからである。
本稿では、上記の試案に肉付けをし、「標準工程手順を軸としたMIS」を構築するために必要な標準資料の作成、その他運用について具体的に考察する。すでに本ページで取り上げてきた幅広い範囲の考察結果を前提として書くので、それらを読んでいない方には言葉自体からわかりにくい点があるように思うがご容赦いただきたい。
ここでいう標準工程手順とは、印刷の例でいえば図のようなものである。図の下に書いたサイズ別、ユニット数別の印刷機の名前は1台1台の機械ということではなく、どのようなサイズ、どのようなユニット数かという基本仕様を表している。一方、菱形の中に書かいてある「サイズ」、「色数」、「数量」、「紙質」が製品仕様である。
どの会社でも、ある仕様の製品が受注されたときに、誰かがどのような工程手順で印刷物を作るかを決めているはずである。一般的には、工務の担当者が頭の中に仕舞い込んだ「標準工程手順」と個々の仕事の製品仕様とを付け合わせて決めている。今後のMISでは、その標準工程手順を「標準工程手順書」として書き表しておいて、個々の仕事の製品仕様データと付け合わせて工程手順計画を自動作成し、さらにそのデータを、ひとつは社内基準売価算出(顧客に提出する見積もりの第1次シミュレーション)に使うとともに日程計画のシミュレーションにも使うというものにしたい。社内基準売価を出すだけであれば、社内の価格表と製品仕様とを直接付け合わせて算出することもできるが、社内基準売価算出と日程計画のシミュレーションを同一のデータを使って行おうとすれば、まず、工程手順を設定してそこからふたつの方向に展開していく流れは当然である。
具体的な流れは次のようになる。
(1) ある仕事の印刷物仕様と標準工程手順書とを付け合わせて工程手順計画を作成する。ここで設定される計画の内容は「必要な工程」、「使用すべき機械の基本仕様」である。
(2) 社内仕切価格表に記載されている内容の中から、(1)で出された工程手順計画で設定された工程、機械仕様に該当する部分の単価を引き出し、印刷物仕様の内容として含まれる「量」(印刷でいえば印刷枚数)に関するデータとから「社内基準売価」を算出する。
(3) (1)で設定された工程、機械と印刷物仕様の量に関するデータとを「標準工数表」と付け合わせて、各仕事の工数を算出する。
(4)(3)では、工程手順と各工程手順での工数が設定されるので、これに「最初の作業開始日時」、「納品納期」、「機械の能力に関する標準資料」の情報を加えて、日程計画のシミュレーションをする。
ひとつ注意したいのが、ここでいう「標準」とは「業界標準」ではなく「各企業における標準」であるという点である。標準工程手順とは、ある仕様の製品を最も経済的に作るための工程手順であり、理論的には業界標準もあり得るが各社の保有設備あるいは外注先で使える設備はそれぞれに異なるから、現実に使える標準は各社の標準にならざるを得ない。
それは、どの会社でも使える標準工程手順を組み込んだソフトは、単に社内基準売価を算出するためだけに使う場合を除いてあり得ないということである。標準工数に関しても同様である。
的確な手順計画を立てる、あるいは工数を見積もるためには経験が必要だから標準工程手順書や標準工数表を作ることは難しいと言われる。しかし、細かな部分まで書き表そうとすると手間が掛かり、面倒だということはあるだろうが出来ないということはあり得ない。品質評価のような言葉に表せない内容ではないからである。
本稿で扱うのは、上記の(1)〜(3)までだが、このような構想の「標準工程手順を軸としたMIS」を具体的な形にしていくためには検討しなければならないことがいろいろある。
T。社内基準売価の算出
(1) 標準工程手順書の項目と価格表(JAGATの利益管理システムでは「社内仕切価格」)の項目とに整合性があることがひとつの条件である。整合性とは、標準工程手順に含まれる項目は、すべて社内仕切価格表に記載されているということである。逆に、社内仕切価格表に記載されていても、必ずしも標準工程手順にその項目はなくても良い。
「サイズ」という項目は両者に必ず記載される項目になる。社内仕切価格表には、例えば「厚紙」、「薄紙」、あるいは「ベタ物」といった割増料金項目がある。この場合、厚紙専用機といった使い方をする印刷機がある会社では、厚紙専用印刷機がひとつの工程として標準工程手順に登録されるが、そのようなことのない会社では標準工程手順には含まれない。
基本的には、標準工程手順書の項目は、社内仕切価格表から作ることになる
(2)社内に設備がなく外注に出さざるを得ない製品仕様の仕事の場合、日常的に外注に出しているものであれば、外注先との契約価格のような価格があるだろうから、その外注価格表に順じた内容で標準工程手順に入れておく。そのことによって、外注費を含む社内基準売価が自動的に算出できるからである。社内仕切価格表には外注先との契約価格を記載しておくので、外注の社内基準売価を算出するためには外注差益を出すための一定利率を乗ずるようにする。
決められた契約価格があっても外注先と改めて価格交渉をすることもあるだろう。また、普段外注することがない製品仕様に関しては社内仕切価格表に該当項目は記載されていないはずだから、社内基準売価の該当蘭に直接価格を入力できるようにしておくことが必要になる。
U。日程計画T(仕事毎の工程手順と工数)の設定
ある仕事について、「どの工程、機械を使って」という手順計画と標準工数とから、「具体的な機械の指定」(作業割り当て)と「いつ行い、いつ終わさせるか」を設定するのが日程計画である。
ここでの注意点は以下の2点である。
(1) 標準工数表の内容項目は社内仕切価格表と1:1で対応するものになっている。
それは当然のことで、社内仕切価格表は、部門別予算から出される部門毎の時間当たり加工高目標と標準工数表とから作られるからである。
(2)JAGATとしては、日程計画に関しては、プリプレスと印刷以降の工程は分けて考えるべきだと思っている。具体的には、印刷以降の工程では、最初に述べた機能を果たせるように考えるが、プリプレスにおいては、日程計画のシミュレーション機能は持たせないようにすることである。
印刷以降の工程の仕事は機械が中心だから、作業工程と日程計画を立てて指示を行う単位(作業割り当ての単位)は1:1の関係にある。しかし、プリプレスの場合は、人が中心になる作業であり、作業工程自体と作業指示を行う単位との関係は企業によって異なるし、負荷の関係で臨時的な人員配置をすることも多い。しかも、プリプレスの工程には、社内の負荷状況とは関わりなく顧客から指定される工程納期(例えば初校出し)がある。
あるひとつのものを作るために必要な工程手順は、組織編成如何に関わりなく同じだから、プリプレス工程に関しても標準工程手順を設定しておいて、製品仕様と付け合わせて社内基準売価を算出することは当然できる。しかし、社内の負荷状況と関わりなく工程納期を設定して作業を進めなければならないこと、そのような状況のなかで人の配置を臨機応変に変える、つまり基準能力を頻繁に変更することも必要になるので、オーソドックスな日程計画作成の手順を踏んで日程を組むことの意味がないと思われる。
したがって、プリプレス工程に関しては、標準工程手順計画を作りそれを元に社内基準売価の設定はするが、工程管理面への利用は、日程計画のシミュレーションは行わず、作業割り当てにのみにそれを活用、日程計画については、下版日時の指定とプリプレス工程内で必要となる工程納期のみを指定し、後は現場に任せるという考え方にせざるを得ないだろう。
上記について、読者の皆さんからの異論、反論、アドバイスをお願いします。
2004/07/14 00:00:00