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オーストラリアの印刷産業について

■ASIA FORUM
7th FAGAT/Malaysia 2004
Information Exchange Meeting
July 20, 2004

FAGAT 2004 in Malaysia/March 12, 2004
Printing Industries Assocaition of Australia/Gary Donnison/Chief Executive Officer


オーストラリアにとってFAGATでの発表は初めてなので、最初にオーストラリアのことについて紹介したい。
オーストラリアは世界で6番目に大きな国である。それに比べ人口は少なく2000万人強、最大の都市はシドニーで人口は400万人強。来年(2005年)の10月にFAGATがシドニーで開催される予定。歴史は古く、原住民が6万年前から住んでいる。200年前までは英国の植民地であった。文化的には多様な側面を持っており、わが国の強味である。

●これからの20年間の展望
●これからの問題を克服するために何をしたか
●21世紀の印刷産業

【文中のグラフ・図表検索】

●オーストラリア印刷産業のプロフィール

オーストラリアの印刷業の概要をご報告する。総売上は、220億豪ドル,企業数は6、000強で大半が中小企業、従業員数は12万人強である。かなり効率のいい業種であるといえる。製造業としては3番目に大きな産業である。紙及び紙製品の輸出額は7.64億ドル、内印刷物が5.86億ドル、輸入額は9.89億ドル。輸入で多いのが、書籍、次いで新聞&雑誌。

このグラフ1は、印刷物、あるいは印刷製品の内訳を示したもので、一般的な印刷、新聞、定期刊行物、書籍、記録媒体としての印刷などとなっている。

次のグラフ2は、輸出と輸入の印刷物をしめしたものである。輸出用印刷物が多いのが分かるであろう。なかでも書籍、雑誌・新聞が多い。

前述したようにオーストラリアの印刷産業は、製造業の中で規模の大きい産業である。人材面でも高度に訓練されたスキルの高い人が多い。印刷あるいは管理においても高い技術を持っている。それは従業員が高い教育を受け、会社においても印刷の専門の訓練を受けながら働いているからである。また、オーストラリアでは印刷に限ったことではないが、新しい技術を導入する体制が整っているのも大きな特徴である。新しい技術を実験的に導入するという風土があり、新技術が早く広がりやすい。海外からは実験市場としても注目されている。

オーストラリア印刷工業会の使命
オーストラリアの印刷、包装、およびグラフィックコミュニケーション産業の発展のための推進役になりたい……というのが我々のミッションである。
我々の団体は、非営利団体で40名のスタッフがいる。オーストラリアの各主要都市には事務所が置かれている。本部はシドニー。会長はMr.Chris Segaert。

オーストラリア印刷工業会の課題
オーストラリア印刷工業会には3つの大きな課題がある。
1. 収益性の改善
2. オーストラリア政府、州政府と共同で仕事を進める
3. 新技術やビジネスシステムの研究・調査。

オーストラリア印刷工業会のサービス内容
ここに列挙した多数のサービスを提供している。主のものを紹介する。
・ 印刷業界の開発プランを紹介しているのが、Print21アクションアジェンダ
・ 会員向けの雑誌Print21マガジンの発行(ビジネス&技術)
・ Print21のオンラインニューズレター
・ 海外展示会参加へのサポート
・ 海外取引のサポート
・ 政府との連絡調整役
・ マネジメントの相談・アドバイス(雇用)
・ 国立の印刷研究所とのタイアップ
・ インターネット(ポータルサイト)を通しての貿易などのサポート
・ オンラインでのベンチマーキング

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●これからの20年間の展望

これからの20年後を考えるとテレコム産業、IT産業、メディア産業の3つの流れがある。今まさにこの3つが統合されようとしている、その真っ只中にいるといえる。近い将来、新聞やTVといったメディアとタイアップしながら全体がニューテレコム産業として収束されるであろう。印刷もメディア産業の一員としてこの流れの中にあるのは確実である。

物社会から情報社会へ
これらの産業の大きな特徴は、「物・物理的な資産」をベースとした社会からナレッジ(知的資産)や専門性をベースとした活動に移っていくことである。物の社会では老朽化から逃れることはできない。これからは物や資産をベースとせず、組織、人間など相互の関係、知識や専門能力をベースにした仕事の仕方にある。知識や専門性を使いは使うほど、付加価値は高まる。つまり一言でいえば、経済成長の推進役は、知識や専門性であるといえる。

ではこのような状況の中で我々はどのようにすればよいか。オーストラリアの印刷現状をもとに描いてみた。
従来(伝統的な)の印刷体制で推移した場合、5-10年後には収益性が急激に下がると予測される(図1)。現在はまだ上昇にあったとしても社会の仕組みが変わるため必ず下降線を辿る。したがって今後は、ハイテクで、より洗練された、納期の短い製品の提供あるいはサービスの提供が求められる。それには物流サービスまで含めたトータルなシステム構築をかんがえなければならない。設備についても、設備自体に自己診断機能が付いたようなものでなければ対応ができないであろう。我々の調査結果からいえることは、従来の印刷だけをビジネスにしていたのでは将来性がない、ということである。
我々の調査(グラフ3)によると、印刷市場の2020年までの変化を予測すると、印刷物は増えていくものの、伝統的に印刷されたものの数量の割合は2020年には35%になり、残りの65%は、電子媒体(PDF、Web、CD等)による印刷配信であり情報配信になるであろう。従来の印刷+電子媒体をいかに取り入れて行くかが、広い意味の情報通信産業の中で生き残っていく道である。
このようなメディアの変化によって、ビジネスモデルがどうなるかを予測したものが図2である。2003年と2010年を比較してみた。1拠点で従来型の印刷を製造するというビジネスモデルは、2003年には70%を占めているが、2010年には25-45%に減少するであろう。 書籍においても同様の調査結果がでている。
そのためにはどういう方向を目指すか(図3) 売上が伸びても、従来(伝統的な)の印刷産業のままではライフサイクル曲線が示すように、、収益は下降線をただることになり、新しい商品とサービスの投入が必要になる。

● これらの問題を克服するために何をしたか

収益構造を変えるためにはどうするか。そのために我々は「Print21」というアクションプランを準備した。

    まず業界動向の把握
  • オーストラリアの印刷業界では中小企業のウエイトが非常に大きいことである。
  • 付加価値の下降傾向
  • 生産能力過剰
    主な弱点を整理してみると
  • 生産能力の過剰、
  • 新しい技術に対する教育訓練システムの不備(ハイテク訓練を行なう体制)
  • 管理能力不足(企業家精神に乏しい、特に従来型印刷業にベンチャ精神が薄い)
  • 顧客ニーズの把握不足(価格だけでなはいカスタマーのニーズを把握する能力に欠けている)
  • IT産業のような新たな競合(印刷とITとの融合によってインパクとのある媒体開発)
  • 印刷に対する職人的イメージ(職人芸、古い体質、といったイメージの払拭)
  • デジタル化(ワークフローの見直し)
  • 顧客の変化への対応力等(印刷だけに拘ると市場をを見失う)

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●21世紀の印刷産業

これらを克服し新たな成長曲線に乗せるためには次ぎの4つのキーワードがある。

  1. 革新的プランニング カスタマーの方向性を探り、戦略的な計画を立てる。
  2. 技術の適切な活用つまり、技術に振れまわされず、技術を使いこなすこと。
  3. 人材への投資(体質を変え、先進的企業として生き残るには人材の投資が不可欠) 例えば、収益の高い企業ほど教育訓練への投資も高い。
  4. 顧客指向、価値の流れをよく見ること。紙の流れと価値の流れは違う。

収益構造の変化
印刷されたものを通じての収益はしだいに減少し、周辺サービスと印刷行為を伴なわないサービスへと移行するであろう。グラフ4はアメリカGATF/PIAの調査であるが、2010年には印刷以外の収入が約三割近くを占めるとされている。
では具体的にどにのような付随的サービスがあるかを列挙したものが図の左側の項目である。その要求がいつごろから具体化されるかを現在、5年後、10年後で示した(表1)
例えば、5年後ではデータベースマネジメント、フィトCDサービス、e−Book、デジタルプリントライブラリー等、10年後ではマーケティングサービス、ロジスティックサービス等の事業プランが必要である。

これらの新たなサービスが求められることを考えると、人材育成がどうしても欠かせない重要な課題である。
表2はアメリカでの印刷業のベンチマーキング調査からE&T(Education&Training)の傾向を見てみよう。真中の列は、収益性の高い企業で右側は低い企業である。一目瞭然で、収益性の高い企業では給与支払い費に占める教育訓練の割合が高い。
またわが国の、教育訓練への投資効果つまり回収率を示したものである(表3)。調査企業の平均は5.8%であるが、優良企業では19.7%で、優良企業では、教育に多くの投資をしても回収効果が高くそれに見合った収益を上げていることがよく分かる。

先ほどからベンチマーキング(Benchmarking)という言葉をつかっているが、ビジネスのプロセス、商習慣、達成度を業界内、あるいは他業界と比較する科学的な方法論である。自社の内部的な問題点や改善の余地、あるいは改善の程度、カスタマーに対するニーズの把握の度合い、市場での競争力が十分か、それを高めるにはどうするか、さらに国際的に活動するにはどうしたらよいか、業界内での生き残りのための意識の向上などにもベンチマーキング比較方式は有用である。

このベンチマーキングプロジェクトでは「プリントネット」という名称のもとに、120種類の実績を計る指標を導入している。その内の最も重要な指標がこの3つである。

  1. 資産あるいは資本投入に対する回収率
  2. 財務的な強味、あるい健全性
  3. 人材活用の有効性
    それらの指標をもとに、規模によって分けてみた。
    ・ スモール
    ・ 中規模
    ・ 大規模
    ・ 超大手
また、ベンチマーキングの細かい比較では、書籍、ラベル、包装、ダグといった製品ごとに、分けて分析も行なっている。一方、製品をもとに、実際に使われている印刷方式についても分類しても調査している。リトグラフ(平版印刷)かフレキソ印刷かグラビア印刷か…といった。

ベンチマーキングをオンラインでサービス
オーストラリア印刷工業会で行なっているベンチマーキングの結果は、海外の皆さんにも見ていただくことができる。つまりオンラインでベンチマーキングの結果を提供できるというのが大きな特徴である。ですから、企業は最新の経営情報を使って、ベンチマーキング診断をうけることができる。
インターネット環境があれば皆さんのオフィスからもログインできる。対応項目をクリックすると、ご覧のような画面がでてくる(参照1)。先ほど3つのキーワードがあるといいました。つまり資本回収率、財務の健全性、人材活用である。この項目に対応して左上にウインドウが出てくるので、対応箇所をクリックするか、該当項目を入力する。その時に、業界全体と比較するのか、同じ規模の企業と比較するのか、他業種と比較したいのかといったよういに比較対象の範囲を絞りこむことができる。
先述したように比較対象項目が120種類あるので(参照2)、その箇所をスクロールすると120項目が出てくる。 後は実際に試されたい。他社のとの比較、自社内で改善が進んているか…年度毎の比較、平均との比較…等々。経営以外の設備面や器機の稼働率などについても見ることができる。もちろんこれらを業界水準と比較することができる。こういった診断システムで、経営を判断することで合理的な根拠ができる。判断基準が曖昧だと単に経営者の思惑で、労働分配率を下げなければいけないと判断してしまう。このプログラムを使うと、どこが不充分で、どこを重点的に改善すればいいのかが見えてくる。 財務に対してもこのプログラムを使うことで、設備、建物に対する利息の返済などが大きくなると不健全になる。標準的な会計の指標の一部として負債、借入れ金と資産の比率を計算できる。また、売上高に対するキャシュフュロー、資産あるいは負債の比率を計算できる。 その他、従業員の管理、例えば病欠の日数を入力して、他社に比べてどうかを判断することも可能である。従業員1人当たりの売上高、付加価値高、コストなども入力でき、すべて比較(優良企業、平均企業、自社)ができる。

オーストラリアでのベンチマーキング比較での結果から、優良企業の特徴として次ぎのようなことがいえる。

  • あり製品、あるプロセスに特化した企業が多い
  • 器機の利用度が高い(平均の2倍)
  • 教育訓練への投資は業界平均の3倍
  • 従業員の転職率は平均の4分の3(満足度が高い)
  • 給与水準は業界平均より11%高いが、売上げに占める労務費の割合は低い。
  • 優良企業の病欠率が高い(とうしてか不明である。統計的結果でる)
  • 資産の利用率、資本投下への回収率が高い

このベンチマーキングの良さは、優良企業の経営の実態が把握でき、自社と何が違うのかを分析できることである。
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2004/07/26 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会