横須賀市の取り組み
電子自治体への取り組みが全国トップクラスと評される,神奈川県横須賀市役所を訪ね,企画調整部情報政策課 主査 前田幸一郎氏に,同市の電子入札システムについて話を伺った。
横須賀市が電子入札システムを導入したのは2001年9月。工事を対象とした入札案件からスタートした。翌2002年4月には,横須賀市が発注する,ほぼすべての工事入札案件を電子入札で処理するに至った。今では,このシステムが全国7自治体で共同利用されている。
横須賀市の入札制度改革
「今,あたかも電子入札の導入自体を目的とするように取り上げられているが,そうではない。何のために導入するのかという論議がきちんとなされていないのではないだろうか」と前田氏は眉をひそめる。
よく言われているのは,談合をなくし入札の正常化を図るために電子入札を導入するということだ。機能していない制度・業務を見直すことなく,単に道具を電子に変えるだけでは,現状を変えることはできないと前田氏は語る。
横須賀市の電子入札が稼働したのは2001年である。しかし,落札率(行政が発注を予定し算定した「設計金額」に対し,事業者が入札で落札した金額「落札金額」との比率)は,それ以前から低下を始めているという事実がある。具体的には,1997年には落札率が95.7%で,契約差金(「設計金額」から「落札金額」を引いた差額)が13.2億円だったのに対し,1999年には落札率は85.7%まで下がり,契約差金32.1億円となっている。横須賀市では,電子入札を導入する以前に,入札の正常化を得ていたことが分かる。
なぜ,このように落札率が下がったのであろうか。同市の財政部契約課では,1998年7月から入札制度改革(条件付き一般競争入札の導入,事業者ランクの廃止など)に取り組み,1999年4月からは指名競争入札を全廃している。また,同年7月には,郵便入札制度を全国に先駆けて導入した。これは,工事発注情報や入札結果などの入札関連情報をホームページで公開し,事業者は入札参加申請書をファックス,入札書を郵便で送付するという仕組みだ。条件付き一般競争入札の導入で入札に競争性が生じ,郵便入札により入札参加事業者の匿名性を確保することができた。この結果,1999年度以降,横須賀市に談合情報がもたらされることはなくなり,落札率も低下した。
なお,生じた契約差金の3分の2で事業者に追加工事発注を行い,残りの3分の1は次年度予算に繰り入れしている。事業者にとっては受注機会が増加し,市にとっては予算内でより多くの工事を行うことができる。同額の税金で,多くの都市基盤が整備されるため,市民にとっても,行政効果を享受することにつながるわけだ。
なぜ電子入札を導入したのか
このように,横須賀市は,高額の電子入札を導入することなく,入札の正常化を導いた。では,あえて電子入札を導入した理由は何だろうか。それは,「入札の正常化を維持しつつ,入札関連業務の効率化を図るため」である。
条件付き一般競争入札の導入により,入札に参加する事業者数は倍増した。入札業務に携わる職員は,多い時には,1入札案件で50を超える事業者の入札参加資格審査,開札作業を行うことになり,入札関連業務量は激増した。また,入札情報を公開するためのホームページ作成も新たな作業として加わった。人員増を図ることなく,これらの業務を効率的に行うための道具として,横須賀市は電子入札の導入を選択した。
システム導入に当たっては,入札関連業務の見直し(BPR:business process re-engineering)を徹底して行った。その結果,入札関連業務のプロセスは簡略化され,従来,入札担当職員が行っていた作業のほぼすべてを自動化することができた。
電子入札の稼働後,入札担当職員数は6人から4人に減員され(年間1800万円のコストダウン),年間の時間外手当も600万円超過から約100万円にまで減少した。
参考までに,工事入札の電子入札導入コストはイニシャルコストが約1億2000万円,ランニングコストは年間1600万円である。
印刷の入札は…
同市では,2003年10月,物件・委託案件の電子入札システムを稼働した。印刷についても電子入札を実施している。ただし,電子入札の対象になっているのは,価格が最優先するもののみとなっている。ポスターなどのようにデザイン要素があり人為的な判断の必要なものは入札の対象には入れていない。
横須賀市のホームページで電子入札実績を見ると,印刷物の調達についてもかなり活発に行われているようだ。案件は,封筒,納税通知書,横須賀市統計書,健康手帳,リーフレットなどである。
入札結果を見ると,落札金額が予定金額の半値以下にまでなっているものもある。入札条件としては,「横須賀市競争入札参加有資格者(物件調達)として登録されている市内業者」となっていたり,「準市内業者」「市外業者」まで含んでいるものもある。
問題の仕様書だが,ラフな構成だけを提示し,具体的な内容は印刷会社に任せているものもある。また,住民票の写しなど,セキュリティ上の問題があって,デザインをインターネット上に公表できない部分を含んでいるものは,「参加申請された後,窓口サービス課より参加申請業者に対して配達記録郵便にて見本をお送りします。窓口サービス課から見本を受領し,実物を確認してから入札を行ってください」と書いてある。これは,見本を参照にして,デザインや色,透かし位置や隠し文字を確認するようになっている。
印刷物の仕様書,予定価格算出など,課題は尽きない。印刷物の電子入札は始まったばかりだ。その動向を見守りたい。
『プリンターズ・サークル』8月号より
2004/07/30 00:00:00