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地方自治体のDTP化動向

プラスネクスト 高橋昌平

地方自治体の職員に「DTP」と言葉を投げても,その理解度はまだまだ低い。その要因には「異動」という大きな障害にあるように思える。3年から5年で異動を繰り返す自治体の人事のシステムが,デジタル化への移行をある意味阻害しているのである。特に,人材の確保に代表されるスキルの問題が挙げられる。しかし,そのような状況の中でもDTPへ移行する団体は年々増え続けているのが現状である。果たしてトラブルなく移行できているのか心配の節もある。しかし,ここ何年か多くの自治体が導入をしていることもあり,相談相手が近隣にいるという構造が,トラブルを回避することに大きな役割を果たしているように思える。
一方,Webに代表される電子化だが,自治体の規模により格差が目立つ。更新の頻度,サービスの内容,情報の量,どれをとっても,財政的な要因と,やはり人材という部分に集約される。
こうした自治体ならではの問題を抱えつつも,全体的なデジタル化への移行は急務となっており,また合併という大きな転換期でもあり,自治体職員の課題意識はますます高くなっていくように思える。

DTP化に見られる傾向と特徴

自治体の導入の傾向を見ると,近年はっきりとした形が見えつつある。その大きな部分としてWindowsでの作業の増加が挙げられる。
もともと自治体でもMacintoshを使っての作業が中心だったが,そのほとんどは初期に導入をした団体で,選択肢がなかった時代である。しかし,ここ数年で状況は変わりつつある。その要因となるのがパソコンの普及と庁内LAN,そしてWebに代表される。
自治体の規模にもよるが,パソコンが1人1台体制になったのはこの1年2年と,ごく最近である。それまでは,課で1台というのが一般的で,これだけ一般社会がパソコンによる情報の交換を行っている時代でもこうした現状があった。その中でも,広報紙を作成する広報課でのMacによるDTPの導入は,自治体の中でのデジタル化の先駆けにもなったのである。しかし,パソコンという文化がなかったため,利用するのは広報紙製作だけ,また環境としてはスタンドアローンというもので,今の環境とは違っていたのである。つまり,Macを導入したとはいえ,自治体の中でMacを扱える人はほんのわずかにしかならなかったと言える。その中で,LANの整備,Webの進展を背景に普及したWindowsは,自治体の中での事務作業を一手に引き受け,ますますMacの行き場所がなくなったのである。Macに対する知識がなく,Windowsとは違うもの,共有できない,分からないという理由でWindowsへの移行が進んでいる。そこには,印刷という文化を優先するよりも,事務作業と並行してDTPをWindowsでもこなしたいというユーザの考えが色濃く出ている。

DTP化が抱える課題

自治体がDTPを導入するに当たり課題としては,印刷を含めた環境(ノウハウ)の問題と,自治体内の環境の問題の二面性がある。
印刷という分野はとても難しく,自治体の担当が理解しているかと言えば,理解していないと言える。印刷会社や出版社といった分野だとそれを専門に仕事をしているが,自治体は専門職ではなく,定期的な異動が付いて回るのが現状で,そのことがトラブルなく稼働させる大きな障害になる。
毎年行っている全自治体へのアンケート(全国市区町村広報広聴活動調査:社団法人日本広報協会)でも分かるが,印刷会社とのデータのやり取りへの課題が見受けられる。例えば,フォントの環境,アプリケーションの互換性,バージョンの変化など,DTPを進めるに当たっては大切なことばかりである。また,印刷の工程への理解も少なく,導入するとどのような制作工程になるのかも理解不足の点が否めない。

つまり,印刷という壁が大きくあるということなのである。逆を言えば,難しい印刷をお互いの環境を理解した上で相談できる相手を自治体は求めていると言える。
もう一つの側面として,自治体内の環境にある。そのファクターで大きいのが「異動」である。自治体の職員のITリテラシーはあまり高いものとは言えない。DTPという言葉も担当になって初めて聞くケースが多い。もちろん専門に扱っているわけではないので,当然と言えば当然である。DTPを導入した時の担当は,しっかりとした教育も受けられ,知識も付くが,次の異動で変わった担当は,前の日まで印刷とは全く関係のない部署からくる。

この2つの問題をなるべく少なくし,広報紙という自治体の顔を無事に印刷するためには,版元である自治体と印刷会社,お互いがより良いパートナーであることが望まれる。そのためには,お互いがそれぞれの環境を理解することが大切となる。また,印刷という難解な部分も分かりやすく説明することで,お互いの信頼が生まれるような気がする。例えば,出力できないという一言で済ませるのではなく,何が原因で,どうすればできるようになるかについてのアドバイスがあればと思う。

今後のDTP

今後も,自治体におけるDTP化の傾向は増えていくものと予想される。近々で言えば市町村合併が一つの転機になると思われる。導入をしているところとしていないところが合併する場合,どちらに合わせるか。今のところ廃止という話はあまり聞いてはいないが,今後人材の確保が難しくなった場合,実製作がアウトソーシングされる可能性もある。現に,某県は外部委託に移行したという例もある。
また,現場レベルで見た場合,財政的な問題から経費削減で効果を生むDTPへの移行は進むものと思われる。 毎年,「自治体デジタル広報講座(主催:社団法人日本広報協会)」を開催しているが,DTP導入に関しては前向きの団体が多い。その中で感じるのは,Windowsの環境でいかに作業ができるかが大きなポイントであり,印刷会社の受注体制が問われる。

『プリンターズサークル8月号』より(一部抜粋)

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2004/07/31 00:00:00


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