和文文字が全角(正方形)を基本に考えデザインし、組み方をすることに慣れている日本人の目には、DTP組版で過度な詰め組みをされている誌面を見ると、読みにくいという感じがする。それは詰め組みして使われている両かなが、日本語組版の文字は全角(正方形)であることを前提として設計されているからである。したがって違和感が生ずるのではないか。
江戸時代の木版印刷(整版印刷)の時代には、筆で書かれたものが原稿になっている。それらの文字は、各文字がもっている固有の形、固有の大きさで書かれている。つまり現在の詰め組みに似た状態である。
●詰め組みは是か非か
和文活字は全角基準でデザインされるのが前提であるため、両かなは無理に変形されて設計されてきたといえる。つまり四角に収めて、形の上で漢字とバランスがとれるように制作されたわけだ。このような両かなを詰め組みすれば、読みにくく感じることになるはずだ。
この現象は過去において、詰め組みに適した書体開発が論じられたことはなかったし、試みようとはしなかったことが起因している。しかし「詰め組み用仮名」が単独書体として存在することの難しさはある。日本語は縦組みと横組みがあるから縦用と横用の両かなと、それを使う組版の仕組み(アプリケーションソフト)が必要である。
いくら両かなの文字数が少ないとはいえ、フォント開発の難しさがある。また単に両かなの文字幅だけの問題ではない。そこでこれに代わる手法として生れたのが「プロポーショナルセット幅」のピッチテーブルをコンピュータ内部に設ける方法である。
ある書体のフォントに、漢字と全角両かなの他に、両かなの縦・横のプロポーショナルセット幅をもたせて、組版ソフトで使い分ける方法である。しかしアプリケーションソフトが対応していることが条件である。この方法で詰め組みができるフォントセットには、フォント名に「P」が付いているフォント、例えば「MS P明朝」「MS Pゴシック」などがある。(図参照)
この「P」はプロポーショナルの意味で、この場合の処理は詰め組みではなく、欧文と同じ「プロポーショナル組み」である。「P」付きのフォント名であってもそれは欧文フォントのみで、両かなは対象になっていないフォントパッケージが多い。フォントによっては、プロポーショナルセット幅をもたせないで、単にソフトで字詰めを行なうフォントが大半である。
この場合、漢字を含めて全体を詰めて組む「トラッキング」処理であるため、かなだけが適切な字間で組まれるとはかぎらない。漢字も一緒にトラッキングされる。そのため見にくく、読みにくい組版になるわけだ。
加えて各文字の適切なセット幅をもたず、単に正体の両かなを組版ソフトで詰め組みしているので、アウトラインフォントのマスターフォントからソフトウェアで拡大縮小すると、写植の場合と同様に字間の問題が発生する。欧文フォントについても、拡大して文字を組むと字間があいて見える現象は同じである。
よく言われることであるが、両かなを入れ替えるだけで、日本語組版の表情が変わり豊かになるといわれている。それによりエディトリアルデザインの多様化が図れるとはいえ、ユーザーの書体に対する正しい審美眼と鑑識眼により大きく変わってくる。目先の変化だけを追いかけ、両かながもつ表情と漢字の表情がマッチングしない組み合わせでは、かえって貧弱な組版の表情になるであろう(つづく)。
※参考資料:「日本のタイポグラフィの多様化の前提」味岡伸太郎著、リョービイマジクス発行
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2004/08/07 00:00:00