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全体最適化とは? その意味、効果、障害

全体最適のふたつの意味

これからの合理化のコンセプトは「部分最適」ではなく「全体最適」であると言われる。 「全体最適」にはふたつの意味がある。
ひとつは、印刷物作りの長いプロセスのなかで、部分的には最適化されているが、残された合理化が不十分な部分、ボトルネックを解消して全体の合理化をさらに進めていこうということである。ボトルネックとしては、製本加工工程の自動化の遅れ、印刷物生産に必要な各種情報の流通不良によるミス、ロスの発生やホワイトカラーの低生産性などがある。もっと広く見れば、例えば顧客側で作った原稿の不備あるいは出来上がった印刷物の配布といった分野を含めた合理化に目を向けて改善を図ることである。

もうひとつの全体最適の意味は、Aという部分だけを見れば確かに最適化されているが、Aを含む全体として見るとAの状況が全体の最適化を阻んでいるという場合である。一般的な例としては、古紙の利用は、森林資源保護の意味での環境負荷低減策としてバージンパルプの使用より優れているが、森林資源保護も含む地球温暖化というより大きな視点から見ると、再生紙化のエネルギーなど、別のところで環境負荷が掛かるから必ずしも優れているとは言えないといったことがある。印刷業界内でみれば、営業の見積りについて、顧客に提出する見積りの最適化のみを考えるあまり、経営管理のコンピュータシステムの統合化ができない、あるいは営業マンの見積価格に妥当性を欠いて利益の水漏れが起きるといった問題である。

非生産分野で大きいCIM実現の効果

これから印刷産業界が目指す全体最適化がCIM(Computer Integrated Manufacturing)の実現である。CIMの実現による効果は、生産工程の自動化を進めてさらなる生産性向上をもたらすが、それ以上に、営業、工務あるいは管理部門といったホワイトカラーの生産性向上に大きく寄与するものである。

CIMの実現で期待できる合理化効果の内容と試算金額として、年商15億円程度の中規模企業が約3000万円の投資(CIM化に必要なIT投資)をしたとき、5年間で得られるコスト削減額、合理化効果は最低でも2億円弱、最大で約5億円になるという数字がある。年平均4千万円〜1億円の合理化効果である。
その効果の内容を見ると、「生産性向上」による合理化効果は全体の25.8% に過ぎず、「請求、代金回収業務の削減」(2.3%)、「顧客とのコミュニケーション改善」(9.6%),「社内の連絡、確認等のコミュニケーション改善」(27.6%)といった業務処理の合理化による効果が全体の4割と大きい。さらに「顧客満足の向上」(9.9%)による効果や「在庫削減」(4.6%)、「損紙削減」(20.1%)による効果など、結局は管理業務に必要な情報がより正しく必要な時に必要なところに行き渡る生産管理の仕組みによってもたらされる効果が、全体の7割以上になっている。

このように、CIM実現の効果が生産自体の合理化以外で大きく出るのは、経営管理のコンピュータシステム(MIS:Management Information System)の機能がその成果に大きく関わるからである。
しかし、MISに関してそのような問題意識を持っている企業は非常に少ないし、CIMから離れて見ても、日々の仕事の処理に必要な情報の処理はうまくできても、経営者が意思決定をするために必要な情報が充分に得られないなど、現在の多くの印刷会社のMISには基本的な問題が多くある。

課題は管理情報のフロー

印刷業界におけるCIM実現のための標準データフォーマットとしてJDFがある。JDFに関する企画、管理をするCIP4は、現在、世界各国の生産設備、MISベンダーの製品間における情報交換の相互互換テストを精力的に行っている。
しかし、今後問題になってくるのは、データの相互互換性というより、仕事の流れに沿ってMISと生産設備との間でやりとりすべき情報の内容と流通の経路、タイミングといったことである。従来、人が介在して流していた情報を、極力、コンピュータ to コンピュータで行う仕組みは、従来のやり方をそのまま移し変えることでは出来ないからである。たとえば、全ての印刷物仕様(部数、印刷用紙など)が受注段階で決まらない状況で、印刷以降の工程への作業指示をどうするかといったことや、製版において、顧客毎に異なる嗜好を反映して行う処理ノウハウに関する情報をどのように扱うかといったことである。 とはいっても、これらの問題についてはいずれ標準的なフローが作られてくるだろう。

最大のネックとなる標準化を拒む姿勢

最も大きな障害は印刷業界側の対応にある。特に、標準化を拒む日本の印刷業界において大きな問題となる。たとえば、現在の日本の印刷会社の見積りに関する考え方では、CIP4で考えられている見積りの処理フローは使えない。それはコンピュータソフトの問題ではなく、見積り自体に「標準」という考え方を全く受け付けないからである。さらに、CIMにおいては、日程計画についてシミュレーションまでを自動化をすることで大きな効果を生むことになるが、どのような仕事の場合にはどのような機械設備を使うかという「標準手順計画」、その仕事にはどれだけの時間が掛かるかという「標準工数」が印刷会社毎に決められていなければならない。しかし、大多数の印刷会社の工程管理担当者は、そんなことはできないと言うだろうし、そもそもJDF,CIMといいながら、MISおける上記のような機能の自動化には全く思いが及んでいないのが現状である。

2004/09/12 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会