デジタルカメラで撮影した画像データによる入稿が当たり前のようになり,「RGBワークフロー」という言葉もひんぱんに耳にするようになってきた。では,デジタルカメラの画像にはどのような特徴があるのだろうか。キヤノン(株)カメラ開発センター主任研究員の杉森正巳氏にキヤノンの一眼レフデジタルカメラの画像設計の狙いを伺った。
キヤノンの製品ラインナップで言うと「Kiss Digital」はエントリーユーザ寄り,「10D」は中間で,「1Ds」「1D MarkU」は完全にプロフェッショナル向けの素材性重視の画作りとなっている。そのため「Kiss Digital」のユーザが「1Ds」の画像を見て,「眠い」「色味がない」という印象をもたれることがあるが,ターゲットによる画作りのポリシーの違いとして理解していただきたい。しかしながら,この画作りはデフォルト(標準)の設定であって,設定を調整することにより幅広いニーズに対応できる。例えば「10D」は標準設定では若干眠い画像となるが,シャープネスを掛け,色の濃さを+1,コントラストも+1とすると,質感も上がり,色合いも鮮やかになる。
1)色再現における技術
・撮影者が見たままの色を忠実に再現する
記憶色を意識してカメラ側で過度の補正をしてしまうと,CMYK変換などの後処理を行う前に情報が失われてしまう。例えば青空の表現で,色の濁りを取ってシアンを強調してしまうと微妙なトーンがなくなってベタっとした表現になってしまう。
そこでキヤノンでは,可能な限り,色の階調性を残す画像処理を行っている。デジタルカメラのセンサのもつ色空間(感度)は,人間の目と同じくらい広い。これをデジタルカメラのデフォルトの色空間であるsRGBに圧縮することになる。その際,中間調の彩度を上げてしまうとそれより上の部分の余裕がなくなり,ハイライトの階調がつぶれてしまう。いったん階調がなくなってしまうと後工程でどのような処理をしても復元することはできない。キヤノンではそれを避けるためになるべくリニアな階調を保つような色域圧縮を行っている。
しかしながら,sRGBの色空間は機器間の互換性を重視して狭めの設定になっているので,緑や青の彩度の高い色は表現できない。色空間内の階調性を保持すると色空間外の被写体の色は飽和しやすい。言い換えると色空間外の色はすべて色空間の外側の縁の部分にくっついてしまう。これを避けるためには色空間を広く設定(AdobeRGB)すればよい。AdobeRGBであれば,確実に色飽和に対して余裕ができ,階調がリニアに保たれる領域が彩度の高いほうまで伸びるので,後処理もしやすくなる。
色空間をAdobeRGBに設定した時の課題としては,AdobeRGBを表現できるデバイスがなかったことと,印刷用にCMYK変換する時にsRGBよりも広い色空間から色域圧縮することになるのでトーンカーブの設定などに,よりテクニックが求められることがある。しかし,前者については,AdobeRGB対応のディスプレイがNEC三菱電機ビジュアルシステムズから発売されているし,後者については6色インキによるヘキサクローム印刷の取り組みなども進んでいるようなので,今後AdobeRGBで保存される画像データが増えてくるだろう。
2)エッジ処理における技術
・画像の使われ方が分からない段階で安易にエッジ処理はしない
撮影時の画像処理でエッジ強調すれば,ぱっと見,奇麗な画像が得られるが,リサイズした時にエッジ強調した部分まで拡大され,黒縁や白縁の部分が太ってしまう。これに対して,リサイズしてからエッジ強調すれば,不自然にエッジが強調されることなく適正な処理ができる。特に印刷ではCMYK変換した後に大量のシャープネスを掛けるので,強くエッジ強調した上に,印刷のシャープネス処理をするとエッジがギザギザした汚い画になってしまう。画像の使われ方が分からない段階で,安易なエッジ処理は禁物である。
(テキスト&グラフィックス研究会 2004年7月20日ミーティングより)
2004/10/21 00:00:00