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活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(22)―フォント千夜一夜物語(55)

サンセリフ系の「ナウG」シリーズに続いて、開発が進められたのは特太明朝体の「ナウMU」である。「ナウG」と同じタイプデザイナーである水井正の創作である。

●「ナウM(明朝)」シリーズのデザインコンセプト
リヨービ「ナウM」シリーズは従来の明朝体の概念を超えた、横線が太い「横太明朝体」で、印象度の高い新しい書体として、安定した骨格とシンプルなエレメント構成で設計されている。これも「ナウGU」と同様に「ナウイ」書体である。

「ナウM」シリーズとして、最も線幅が太い位置付けの超特太の明朝体が「ナウMU(Ultra Bold)」で、1984年に誕生している。その後太明朝としての「ナウMB(Bold)」が開発され、そしてボディタイプの「ナウMM(Medium)」、そして「ナウMU」よりやや細い「ナウME(Extra Bold)」と続いている。

「ナウM」シリーズは、注目性、視覚性に優れた新鮮な感覚の明朝体である。従来の明朝体は横画が細く、縦画が太いのが特長とされていたが「ナウM」シリーズの横画の太さは、ナウゴシックと同じ感覚で、文字の画数の多少により、押さえの線、抜ける線を太く、細く変化・調整している。

また「ナウM」には他に類を見ない特長がある。明朝体の特徴である横線の「ウロコ」や角(かど)の「肩ウロコ」、点、ハライ、ハネなどの形状に独自の工夫が施されている。これらの特徴は、文字サイズが大きくなればなるほど顕著に現われている(図参照)。

このような独創的デザインの横太明朝体は、活字書体にも写植書体にもない斬新な印刷書体として、脚光を浴びるであろうという関係者の予想に反して、文字盤の売れ行きはかんばしくなかった。オーソドックスな明朝体の歴史のなかでは、違和感があったのであろう。

ところが新しい物好きなデザイナー達は、コマーシャルデザインの見出しに、単なる特太明朝では物足りなさを感じていた。そこに「ナウMU」が新鮮な感覚の書体として注目され、次第に使われるようになった。さらに当時週刊誌「AERA」が登場し、その中刷り広告や誌面の見出しに「ナウGU」、「ナウMU」が全面的に使われるようになったのが動機になり普及するようになった。

その後、「ナウM」シリーズに刺激されて横太明朝体と称する書体が、いくつかのフォントメーカーから販売されているが、「ナウM」ほどの完成度の高いデザインは望むべくもない。 「ナウM」シリーズも、「MU」から始まり「ME」「MB」「MM」へとファミリーが整備され、現在では見出しから本文印刷まで広範囲に使われる書体になっている。

●かなファミリー
漢字・ひらがな・カタカナの3種類の文字を使う日本語は、世界のなかでも特殊な言語大系である。さらにアルファベットも混植するという言語構造の複雑さは、タイプデザインやタイポグラフィに大きな影響を与えている。

漢字・仮名という不統一さのなかにあって、漢字・仮名混じり文が長い間日本人のなかに広く普及しているから、漢字・仮名混じり文がもつアンバランスの美、漢字と仮名の不統一、そして不均一の美など、日本語がもつ特性であろう。

しかしこの矛盾を帯びた漢字・仮名で組版された印刷物を、日本人は長い間の習慣により無意識の内に、文字組みされた印刷物として受け入れてきたのである。

漢字・仮名混じり文では、全体の60〜70%が「仮名文字」で占められいるといわれる。そのため仮名、特にひらがなの表情で文字組みの印象が変化するほどである。そこで近年多様な仮名書体が誕生するようになったわけである(つづく)。

※参考資料:「アステ」「ナウファミリー制作室」「味岡伸太郎かなファミリー」リョービイマジクス発行


【参考】プリプレス/DTP/フォント関連トピックス年表
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フォント千夜一夜物語

印刷100年の変革

DTP玉手箱

2004/10/09 00:00:00


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