これまでの印刷ビジネスでは成しえなかった新しい可能性にチャレンジする目的で,リスクの低い投資行為としてアライアンス(提携)を追究することが今,非常に重要なことに思える。
あれほど不変と思われた終身雇用という考え方が日本企業にとってもはや大前提ではなくなっているという一事をとっても分かるように,社会,経済,経営は気づいてみたら大きく変わりはじめていたのであり,その流れは今,川上-川下の関係,あるいは競合の考え方をも大きく変動させはじめているのである。
その中で,アライアンスが大きなキーワードとなっている。
2002年9月,トヨタの持つ低公害ハイブリッド車用システムを日産に5年間で10万台分を供給することで提携したというニュースが流れた。その2年弱の後の2004年6月には日産が2006年に投入予定のハイブリッド乗用車「アルティマハイブリッド」の試作車を披露したとのニュースも流れた。
しかし,かつて誰も想像しえ得なかったこの2社の提携が,今やある種の驚きは伴なうものの決して驚愕することではなくなっている。時代は業界自体を再編させる「大型の合併」が多出し,その中ではどのようなアライアンスも当然あって不思議でないものとの認識が定着してきているのである。
アメリカの10年遅れで経営戦略が定着していると言われる日本の産業界全体でも,単独型経営からアライアンス型経営が完全に定着しているということである。
それは,今が新しい社会の段階に着地するための再編期に差しかかっていることを意味し,さまざまなチャレンジ,取り組みをするチャンスがその気になって目を凝らしてみるといたる所にころがっていることに気づくのである。
袋小路を脱け出ようとしている会社はこぞってそれを模索しており,そこでは旧来の上下関係,競合関係は壁となってはいない。
戦略経営の世界的エキスパートである松蔭大学の中村元一教授は「アライアンス」について,「複数のパートナー間での目的・目標,さらにリスク負担の共有と,相互間での実質的な対等性と,経営資源の相互交流があること」としている。
ある種のリストラを超え出てきた印刷業ではあるが,その大半は固定費の圧縮による,現状モデル維持の利益構造の改善にあった。その努力は縮小均衡に耐える企業力を一旦はもたらしたわけだが,しかし同時に,ここで努力を止めてしまったら縮小均衡以外に選択肢がなくなってしまうということは誰しも承知している。
社会が変動していく中では,縮小均衡ですら同じ形のままでは追究できなくなる可能性がある。これまで蓄積してきた経営資源が予想以上にやせ細り,あるいはバランスを取り崩してしまうというリスクを常に孕んでいるということである。
その中で選択肢を広げる戦略としてアライアンスが大きな価値を持つということである。それは,たまたま出会った「同じ悩みをもつ同じ資源を持つ仲間」と漫然とパートナーを組むということではなく,選択された「異なる悩みをお互い支えあえる違う資源をもった仲間」と組むことから,リスクを抑えながら印刷ビジネスの可能性を広げるチャレンジに着手することを意味する。それはパートナー同士に合意があれば,リスクを抑えたテストマーケティングが効率的にできるということでもある。そして,そのチャンスが増えはじめているということである。
中村氏は,自社とパートナーとの関係を,
●自社の抹消能力の負担軽減が,パートナーの中核能力の機会増大に結びつくもの(あるいはその反対),
●自社の中核能力の機会増大が,パートナーの中核能力の機会増大に結びつくもの,
とし,これらにほとんどのアライアンスは含まれると言っている。逆に言えば,これらに含まれない関係は,戦略性のない漫然とした仲間であるということである。
情に基づく一蓮托生の仲間ではなく戦略に基づくパートナーシップを理に則って追究するべきである。パートナーとの間で,この条件を満たせなくなったら「解消する」という撤退条件を組み込んで,「対等に,しかし敬意をお互い払える関係で組む」という戦略意識が必要なのである。 コストシェアリング,OEM,技術のクロスライセンシング,標準規格の構築,……そして印刷業の目下の課題である新規開拓,提案営業,これらがこのアライアンス戦略の中で問題解決の糸口を掴んでいくのではないだろうか。
繰り返しになるが,今の印刷ビジネスの形の中で収益性を高めること以上に,新しいビジネスの可能性に低いリスクでチャレンジする方法としてアライアンスを考えることが重要である。従来型の印刷ビジネスの袋小路を脱け出るために「戦略的なアライアンス=パートナーシップ」を活用するということである。
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経営層向情報サービス『TechnoFocus』No.#1360-2004/10/18より転載
2004/10/21 00:00:00