タイプデザインでは、基本的には100%の創作はありえないという説がある。平安時代の書の写植化も、デジタル化も、そして活字の復刻も基本的には同じであろう。
歴史的に見れば、手書きの文字から活字へ、活字から写植へ、そして写植からDTPへの移り変わりは、単なるメディアの変化と捉えることができる。書の仮名文字をタイプフェイスにするためには、骨格の整理だけではなくそのエレメントのリデザインが求められる。
●仮名ファミリーのデザインコンセプト(味岡伸太郎かなファミリーより)
【小町】仮名ファミリー(図参照)
女性で歌人の「小野小町」の名を書体名としたもので、筆で書かれた味をタイプフェイスに活かした 書体である。
仮名シリーズ「小町」は、和歌を組むために試作し写植文字盤化した書体である。書道の骨格と活字の骨格との中間的な性格をもつ書体デザインである。
しかしこの書体の骨格は、小野小町の書いたものではない、と作者はいう。
【良寛】仮名ファミリー(図参照)
江戸時代後期の禅僧「良寛」の墨蹟から骨格を求め、良寛の書風から捜索した書体である。自由奔放でありながらも、伝統をしっかりと学んだものでもある。 仮名シリーズのなかで最も独創的な骨格をもちながらも、字体は日本文字固有の形から離れたものではない。
【築地】仮名ファミリー(図参照)
東京築地活版製造所で造られた活字書体を「築地体」と呼ばれている。「築地体」は秀英舎の「秀英舎」の「秀英体」と並び、活版印刷時代を代表する書体である。
「築地仮名」は築地体を基にして、その骨格を生かしながら現代的にリデザインしたものである。その意味で、本来の築地体とは大きく異なっている、と作者はいう。
【行成】仮名ファミリー(図参照)
平安時代中期の能書家である「藤原行成」は、日本書道の完成者の一人で、この書の字体が日本の 一般的な仮名の字体になっている。またこの書流から多くの仮名書体が生れている。「勘亭流」もこの書流から発生したものである。
【弘道軒】仮名ファミリー(図参照)
「弘道軒清朝体」は、明治初年に生れた男性的な強さをもつ、日本の活字書体の歴史のなかでも名作の一つである。「清朝体」は、活字化以前の毛筆書体でもある。
しかし「清朝体」は時代とともに使われなくなっていた。そのため清朝体のままでは、現代に馴染ませることは難しいため骨格だけを生かし、仮名ファミリーの概念に基づき明朝体用にも、ゴシック体用にもリデザインしたものである。
以上の仮名ファミリー5書体は、リョービ書体の「本明朝ファミリー」、「ゴシックファミリー」、「ナウMファミリー」、「ナウGファミリー」などのシリーズに対して、システマチックに体系化した「リョービ仮名ファミリー」は、ユニークなタイポグラフィといえる(つづく)。
左から【良寛】【弘道軒】【行成】【小町】【築地】の本明朝ファミリー
※参考資料:「アステ」「ナウファミリー制作室」「味岡伸太郎かなファミリー」リョービイマジクス発行
【参考】プリプレス/DTP/フォント関連トピックス年表
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2004/11/06 00:00:00