電子メディアの伸長の中にあっても近年の印刷が頑張っていられるのは、DTPで工程が短縮してコストダウンできたからである。しかし、デジタルカメラで始まってCTPに至るDTPのプロセスは、自動組版を残すと、あとはすることがほぼなくなってきた。すべての制作の仕事が自動組版にはならないのは、自動組版のために段取りをしたり、作業の決め事が必要となるからで、仕事を受けるたびに初期投資をしていたのでは受注価格に見合わないからである。
しかし段取りや決め事にコストがかかることはアナログの時代からあったことで、ただしそれは印刷見積もりの外側になっていただけである。つまり印刷発注側にすれば結局はどこかで支払っている。最悪の場合は、あまり設計を固めずに制作に入って、校正で大幅に直して時間がかかるとか品質がかえって低下する結果になる。スポットの印刷の仕事ではありがちなことだった。
例えば10万部のカタログを作るとして、発注者側からその費用を見ると、企画やクリエイティブも含めると印刷代は半分の場合もある。その印刷代の中でもDTPの比重はそれほどではない。印刷の部数が多ければ紙代がかかるが、それほど部数が多くない印刷物の場合、結局はコストの半分くらいは、メディア設計、コンテンツ管理、作業管理、大まかにいって制作に関連したさまざまな情報管理にかかっている。
情報誌のシステムというのは、単なる自動組版ではなく、情報入手から制作までの情報の流れを最適化・自動化することで人手をかけずに、高速で信頼性の高いものにしている。DTPは主にPostScriptなどが紙面の要素になる文字や図形・画像を標準化したので、素材を部品のように扱えるようになり、分散的な環境での自動組版を可能にした。ただしこういった専用のシステムは、様式の決まった印刷物には適応できても、その都度に印刷仕様が多様に変わる分野では使えなかった。
DTPのコストダウンが行き着いた先はむしろ、どういうメディアを作ってどういうふうに出していくかというメディア設計のところ、それを実際に各工程に指示する部署、例えば出版社なり商業印刷物の企画をしているところ、それから関連している各社にまたがった効率的な作業管理など、印刷会社の外側の連携を電子的なネットワークですることが目標になる。これが制作効率化の第2の革命で、印刷会社の内側の作業管理もこういった方向にあわせて行う必要がある。というか、それでないと仕事が来なくなる、くらいに考えるべきである。
普通のチラシやカタログの素材の50%内外は過去のデータを使う。それ以外は新たに写真を撮る。新たに写真を撮る理由は、過去のデータを探すよりも早いということもある。現状では過去に使ったデータの管理がうまくできていないために、もう一度情報の再入手をするほうがいいという考え方もある。しかしDTP工程は次第にネットワーク化しサーバを中心にしたものになりつつある。CMS(コンテンツマネジメントシステム)、印刷用のDAM(デジタルアセットマネジメント)などが、素材管理として二重三重にあり、あるいは幾つものデータベースの集まりがある状況になってきた。こういった電子原稿に対し、どこに何を使うかを人間が判断して手作業でしているのが現状だが、それはコストも時間もかかり、間違いを犯すリスクも高い。
またDTPを効率化するために、ワークフロー管理のサブシステムを作るとか、アセッツ管理とか素材データベースを作るようなことは、印刷物制作の売上の範囲では解決できない問題である。こういったことをバラバラに開発するのではなく、WebもDTPも含めてメディア制作全体が効率的にできるものを考えるべきだと、皆が考え始めた段階である。一度DTPにするなりWebにするなりしたものを、出力前の段階で情報を更新することがしばしばあるが、それがコンテンツ管理に戻せないと、再利用は非常に難しくなる。今までばらばらの工程を人間が間に入ってコントロールしている部分を、全部シームレスにしていくことは、JDFやAdobeXMPの動きやメタデータの利用動向から、次第に見通せるようになってきた。
これは印刷物制作にとって、PostScriptの出現に相当するくらいの非常に大きな技術のうねりがまた来ているという感じがする。1985年頃にPostScriptが世に出てきた時には、冗長な技術と考えられたが、技術の進歩で今はパソコンの中で容易に処理できるものとなった。今XMLを扱うのは重い、大変だと思われても、5年たつと随分様子が変わって、それによってもたらされる効果が現われるようになっているだろう。2/2〜2/4に開催されるPAGE2005コンファレンスでは、クロスメディア・トラック、グラフィックス・トラック、MIS/JDF トラック、それぞれに新たなコンテンツ管理、アセッツ管理、作業管理に関するセッションを用意して、これからの制作システムの設計に取り組んでいる方々の話をうかがう。
またPAGE2005基調講演では、【A1】制作の自動化にメタデータを使うにおいて、Adobe Systems XMP プロダクトマネージャのガナー・ペニキス氏と、Pound Hill Software でXMPツールを作っていたロン・ロスキウィッツ氏が、さらに 【A2】編集・制作はどこまで効率化できるかにおいて、Adobe Systems JDF Sr.Product Manager ジェス・ウォーカー氏と、富士ゼロックス プロダクションサービス事業本部 マネージャ 小原裕美氏、以上4人のこの分野のエキスパートによる、日本で初めてのセッションが行われる。プリントバイヤからクリエータから、制作、メディアビジネスに至るまで、トータルな連携によって効率化の第2の革命が起ころうとしていることを感じていただきたい。
2005/01/11 00:00:00