動画はものを伝えるのに有効なメディアであり,それを扱うことは特別に難しいことではない。コンテンツの内容が問われている現在,動画を取り入れたリッチコンテンツのニーズは高まっている。テレビ放送のコンテンツと比べて,インターネット上の動画は,制作から配信まで驚くほど安価で簡単に作ることができる。
PAGE2005コンファレンス「ネット動画ビジネスを変える」セッションでは,「出版社のデジタル化」でできたインプレスTVカンパニープレジデント 局長/統括プロデューサー 萩原和彦氏と,メタファイルを徹底活用して,テレビ局,制作会社,あらゆるところで 活用される技術をつくりだしているアイ・ビー・イー取締役CTO 竹松昇氏を迎え,デジタルメディアジャーナリストの姉歯康氏の進行でインターネット放送の実態と,動画ビジネスの可能性についてディスカッションを行なった。
インプレスは,早くからデジタル化に取り組んできた。インターネットマガジンを創刊してから10年くらい経つが,新聞社が放送局を作ったように,出版社はインターネットを使いデジタル局を作るという構想があった。
インプレスのデジタル局で始めに行なったことは,メール新聞であり,今も10数紙発行している。ここ数年のブロードバンド化により,容量の大きいデータも送れるようになった。文字より写真があった方がいい,写真は動いた方がいいということで動画を扱うようになった経緯がある。
インプレスのインターネット放送は通信の中で動画を扱っているが,分かりやすい名称をつけている。
IBEは,PCやソフトウェアを組み合わせて,ある特定の目的のために使えるようなサービスを提供している。また,システムを使うためのソフトウェア製品やハードウェア製品を販売も行なう。
ブロードバンド化で,高速のネットワークが手に入るようになり,ビデオが手軽に扱えるようになっている。
提供する側はどうして動画を配信するのか
「簡単に言えば,動画の方が分かりやすい。出版社の立場から言うとより分かりやすく伝えられる」と萩原氏。
「雑誌の特集記事の中に,あるミュージシャンのインタビュー記事がある。雑誌ではその人の特定の表情や手振りはあるカットでしか表現できないし,ギターのフレーズを説明しても読むことしかできない。しかし動画や音声を伴う動画を使うことでそれらは実現し,よりリアルに伝えることができる」(同氏)
企業Webサイトに関する調査におけるユーザのアンケートによると,「より具体的に説明している商品は高感度があがることがある」45%,「分かりにくい説明だと商品購入の検討や選択肢から外れることがある」40%とある。結果の上位の方を見てみると,インターネットで商品購入や選択する場合は,より具体的な情報を取りたがっているということが言える。
映像で伝えて欲しい商品情報は何かという問いでは,1位「商品の特長が理解できるものである」,2位「今までの商品との違いが分かるものである」とある。
放送局のネット動画への対応
テレビ局のインターネットへの対応にはばらつきがある。インターネットを積極的に活用して次のビジネスにつなげようとするところもある一方で,まったくないというところもある。
一度放送で使ったコンテンツをピックアップしてネット用に編集することで新しい価値が生まれる。こういう視点から大阪・毎日放送のスポーツサイトではある特定の部分を切り出して配信している。
インターネット放送というと番組全体をどうやって流すかということを考える。それは配信方法のひとつとして有効であるが,番組をより深く楽しむために,ハイライトシーンなどを切り出して,ネットでフォローするという考え方がある。こういった考え方はこれからますます重要になってくる。
制作体制
インターネット放送のメリットは,コストパフォーマンスで,カメラとPCさえあればすぐにできてしまう。インプレスTVカンパニーは,スタッフ総勢12人体制である。初め雑誌の編集をしていた人間なので,動画に関しては詳しくなかったが手探りでやってきた。12人それぞれが撮影,営業,配信まですべて行なう。
映画を作るわけではないので何を訴えたいのかを表現するだけなので,専門的な知識や技術は必要ない。放送局のカメラは1台何千万円もするものだが,使用しているのは,1台30万円くらいのものである。
企画力こそが重要
「コンテンツは,何をどう見せるか,どういうふうに構成すれば見てもらえるかという編集のノウハウや企画力の方がはるかに重要でこれに尽きるのではないかと思う。むしろそれは,紙媒体のノウハウのほうが強力である」(竹松氏)
動画コンテンツの制作は,技術よりも質の方が絶対的に重要である。出版や印刷などの紙媒体におけるノウハウが有利であると,萩原氏も竹松氏も強調した。
2005/02/24 00:00:00