イメージファクトリー部とは,通常の印刷会社で言うプリプレス部門で,編集組版・スキャナ・デジタル校正までをおこなっている。
編集組版設備としては,写研システム,Edian Wingが中心である。MacやWindowsのマシンやソフトも当然あるが,データ変換やデータ入稿への対応が主力であり,編集をおこなうことはほとんどない。社内で編集組版するものについては,生産性優先であるため,そのような体制となっている。
フィルム出力は,今回の移転を機に撤廃してしまい,社内はすべてCTPとなった。在版はフィルムで保存しているが,その際は協力会社で刷版を依頼することになる。
以前は,写研データからCTP出力するには,ハンドシェイクフォーマットでブリスクに持ち込み,CTP出力をおこなう方法しかなく,非常に効率が悪かった。数年前から,写研データを1Bit TIFFやPDF形式で取り出すことができるようになり,他システムへの取り込みがスムーズになり,CTP出力も効率的になった。
CTPは各工場の印刷部門に設置されている。プリプレス制作部門では,製版レベルの面付けまでしかおこなわない。各工場でソフトウェアによる大貼りの操作をおこない,CTP出力をおこなっている。
CTPの導入初期の頃には,プリプレス部門で大貼りまでおこなっており,そのデータを刷版部門に送っていた。刷版部門では,CTPに出力するだけであった。
しかし,板橋工場などは印刷機の台数が多く,印刷機変更も頻繁におこなわれる。製版部門では印刷・加工に詳しくないため,ミスも多発していた。刷版・印刷部門では,ソフトウェアを操作しての大貼りには対応できなかった。しかし,徐々にトレーニングをおこない対応できるようになった。大貼りは,専用のソフトウェアを利用している。
各工場にRIP・CTPを設置している。ただし,フォントを積んでいるRIPは,1台だけである。
書籍の面付けなどは,製本加工の都合で特殊なケースが少なくない。以前は,編集が写研・Edian・Macで,各々出力方法が違っており,面付けも,共通の方法を取ることができなかった。そのため,思わぬミスも少なくなかった。
今後は,PDFデータ出力にも対応されており,TrueFlowで一元化できるので,非常に楽になった。RIPには,常に悩まされてきた。最近でも,稀に出力できないこともあるが,ある程度回避方法もわかっており,安定してきている。
■完全データ入稿への対応
完全データ入稿を前提とした仕事が増えている。顧客からは,納期・コストをぎりぎりまで短縮・低減するよう要求があり,そのためには無駄な赤字修正をなくすこと,顧客からの完全データ入稿をおこなう方向に向かっている。
しかし,顧客にとっての完全データは,出力が完全かどうかではないことも,少なくない。そこは,営業マンと顧客との各々の関係にもよるが,中には完全データということで,データに問題があっても顧客側の責任と,明確に区分している営業マンもいる。そのような場合では,プルーフを出すならプルーフ代もいただくようになっている。
データ入稿は,PDFの場合もあるが,Word,ExcelやQuarkXPress,Illustratorの場合もある。長年,対応しているので,Word,Excelのデータであっても,ある程度安定して出力することができる。PDF/Xでのデータ入稿は,まだない。
ただ,そうは言っても,責任の範疇をどうするかが問題となってくる。結局は,営業部門で,ある程度のチェックを行なっている。プリフライトとかの手段ではなく,プリントしたものをチェックしているだけである。
会社の方向性として,完全データ入稿をある程度推奨している。コスト・納期がギリギリなので,そうせざるを得ないというのが実態である。顧客からは,少しでも安く早くしてくれ,という要望があり,そのためには無駄な赤字は直さない,赤字を入れない方向に仕向けている。
■CTP導入による検版の変化
CTPの導入初期の頃は,プレートをすべて検版していた。それ自体は問題ではなかったが,板橋工場だけでも1日に250〜300版をプレート出力している。そうなると,すべて検版することはできない。プレートをすべて検版するのは,かつて製版部門でフィルムを検版する感覚を,引き継いでおこなっていただけである。その後,検版機を検討した。プルーフとプレート,プレートとプレートを比較して検版する方式である。しかし,そのようなアナログ検版機では,生産性の面で追いつかない。
そこで,デジタルデータを検版するシステムを導入した。赤字が入った部分が間違いなく修正されているかどうかは,人間が見ても,注意しているので確認できる。間違いがあれば,プルーフや印刷の際にも気づきやすい。しかし,赤字もなく変更する必要のない部分が変更されていたりするような事故もある。その場合,目視でおこなう検版では,チェックしきれない。
仮に1000ページの内,10ページしか変更していなくても,検版は1000ページおこなう必要がある。そのような場合でも,デジタル検版機なら,変更部分がすべて明示されるので,チェックすることができる。検版コストをかけずに,品質を維持するという意味で,非常に効果が大きい。
■プルーフ
プルーフは,SpeedProof,デジタル・コンセンサスといったデジタルプルーファを使っている。
通常の仕事では,顧客からデータ入稿してもらい,デジタルプルーフを出して確認してもらう。問題がなければ,そのまま返してもらって,印刷見本として印刷現場に渡している。顧客サイドでは,最低限のチェックだけで済んでいる。
4-5年前では,考えられなかった方法,体制が普通になってきている。このようになったのは,社内で営業・プリプレス部門で頻繁にコミュニケーションし,方向性を検討した結果だろう。
三松堂印刷では,主に出版社向けに原稿入稿に適したソフトウェアを無償提供している。
それが「出版P2Pプラン」で,「出版=コンテンツ事業」「P2P=Pre-PrePress(プリプレスの前工程)」「プラン=自由な発送」を意味しており,デジタルコンテンツ作成を効率化するシステムで,多目的エディタ「SAP2」,多目的データ変換ソフト「MAGIC」,エディタ用外字「NET外字」,「入稿管理ソフト」というソフトウェアの構成となっている。
これらのソフトは,出版社等に無償で配布しており,2002年より使用されている。
編集者が簡易操作のエディタを使用して原稿を作成し,中間ファイルとして印刷会社に入稿する。ルビや縦中横,割注といった特殊な組版指定や数式入力,外字入力も可能だが,社内のプリンタで校正が可能である。
印刷会社に入稿された中間ファイル(SAP2ファイル)は,変換プログラムを通すことにより,写研用棒組データ,Edian Wing用棒組データ,その他テキストデータ,HTMLデータなどに変換することができる。写研やEdian Wingの組版データを,SAP2に逆変換することも可能である。
最近では,この中間ファイル入稿の他に,Wordデータ入稿も増えている。また,一部の出版社では,ttx(T-Timeフォーマット)などの電子書籍用のフォーマットによる入稿を検討している動きもあるようだ。電子書籍用のフォーマットを使用するのは,電子書籍を作成するためでなく,図版・絵柄・注釈など,ある程度の組版情報を保持することができる中間フォーマットとして使用することが可能なためである。電子的な写植業務を印刷会社がやるかどうか,出版社から問われている。
また,編集者がSAP2を使用することにより,Wordや他のシステムのデータを,中間ファイルとして受け取ることができる。編集者の中には,Wordでいいという人もいる。Wordデータで入稿されたものは,社内でSAP2を使い,中間フォーマットに変換する。中間フォーマットに変換することで,書体以外の組版結果は,ある程度反映される。
■研究会に対しての意見・要望
武内氏に,テキスト&グラフィックス研究会への意見を伺った。
「プリプレス部門の責任範囲が拡がっている。以前は,フィルムを正しく出力することまでがプリプレスの責任であった。今は,印刷や製本加工,印刷標準,MISや生産管理についても関わりが大きくなっている。したがって,プリプレスだけでなく,印刷関連のことも勉強していかなければならない。」
「JAGATの研究会・セミナーについて,最新動向を理解しておくために,その時々の旬のテーマはできるだけ参加し,聞くようにしている。本当は,印刷やMISについてのセミナー・研究会にも参加したいと考えているが,現場に関わる立場なので,なかなか時間が取れず,出席できない。むしろ,夜とか,土日の開催も検討してほしい。」
■PAGE2005と今後の課題
出嶋氏にPAGE2005の感想と,今後の課題をお聞きした。
「PAGE2005では,MISに注目していた。社内の基幹システムを構築したが,それを今後どのように発展させて,営業部門,生産部門,管理部門をシームレスにすることができるかという課題がある。既にベースとなる基幹システムがあるので,印刷の変更情報をどのように発信するか,現場での変更をどうフィードバックするか,変更情報をどう活用するか,など検討している段階である。その時にJDFが使えることが理想だが,そのような提案はどこのメーカーからも出てきていないようだ。現時点で,各メーカーはJDFによる生産の自動化に注力しているようだった。」
「MISによる全体最適化のためには,三松堂独自のJDF利用を作っていこうと考えている。JDFの実用化,全体最適化については,JAGATが中心になって推進してくれることを期待している。」
「三松堂印刷の今後の課題として,新しい技術を導入するのは,現場に大きな負担がかかる。立ち上げ時のトラブルは仕方がないが,その後いかにワークフローを整備するかが重要である。そういった意味では,テクノロジーの基準を作っているだけでは済まない。むしろ社員の基準を作って,レベルアップすることが重要である。技術的なトレーニングはもちろんだが,今は,社内で整理・整頓・躾など5S活動として,社員の育成・レベルアップを推進している。どこの印刷会社でも同じではないだろうか。新しいもの,新しい技術に目を向けるだけでなく,基盤である人材をどうレベルアップしていくか,社内のコミュニケーションやチームワークが最も重要である。」
2005/03/10 00:00:00