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新たな顧客を生み出す印刷会社のアセッツ管理

製品カタログなどの印刷のためのデータベースパブリッシングは,主に印刷工程の効率化を目的としている。しかし,印刷物制作のためのデジタルデータは,顧客にとっても利用価値の高い重要なアセッツとなり得る。顧客志向のアセッツ管理への進化を実現した事例について,アイ企画株式会社の津乗康祐氏にお話を伺った。


アイ企画は,段ボール用の製版を業務としている。2002年より,顧客向けにe-Graphic Bankと名付けたデジタルデータの一元管理サービスを始めた。それは,3つのアプリケーションから構成される。
e-Graphic Bankインターネットゲートウェイとは,決まった相手同士でのデータ受け渡しを行うもので,WAM!NETのInternet Gatewayアプリケーションを利用している。e-Graphic Bankアセットとは,校了後の過去データを保管して,顧客が営業的に利用できるものである。さらに,e-Graphic Bank CRWEBとは,Web上で版下の校正を行う場所を提供するもので,Active Assetsというアプリケーションを使用している。

e-Graphic Bankインターネットゲートウェイ

セキュリティを確保したデータ送受信を行うため,FTPの利用も考えた。しかし,顧客によってはFTPポートを開けていないところもあり難しい。また,アイ企画の仕事はパッケージが中心であり,本来Eメールでのデータ添付は社内的に禁止事項になっている。そのため,Webサーバへhttpアクセスを元に考えた。WAM!NETのInternet Gatewayサービスによって,大容量データを安全・確実にブラウザベースで受け渡しすること,データの送受信履歴が確認することが可能になった。これを,当社でアカウントを発行して,いろいろなところに使ってもらうようにしている。

e-Graphic Bankアセット

今までも,制作部門内で使用するためのデータベースはあった。顧客から,「昨年のこのデータが欲しい」と言われると,営業が探して持って行く。その時は,営業サービスでお金にならなかった。それを,顧客にデータを公開することにより,アイ企画に出せば全部分かる,ネットを通じて自分で探せるということで取引を拡大すること,管理を商品化することを考えた。そのためには,データを安全に保管する体制の確立も必要であった。
Web公開することで,新しいサービスの提供という言い方をしており,顧客もそれに費用が掛かることを理解してくれている。
データの管理はアメリカにあるWAM!NET Data Centerにすべてファイルを保管している。ポータルサイトとして,アイ企画の中に検索用サイトがある。本来は自社のハードディスクで組めるが,顧客に対して,ここに保管しているから確実だという安心料のようなものである。
管理するデータの内容は,顧客が必要とする画像データと付加情報データベースとを一体化している。従来の制作用データベースでは, EPSやオリジナルデータを保管していた。ところが,顧客を回ってヒアリングしたところ,EPSやllustratorファイルでもらっても確認できないという要望がほとんどで,PDF形式にすることにした。データの登録と検索のためのメタデータ入力はアイ企画で行っている。
データ保管のセキュリティを確立するためのアプリケーション作成には,ファイルサーバはWAM!BASEを使い,アプリケーション部分はOracleで作ったオリジナルで検索をする。顧客から,どこにデータを保管しているか聞かれた時,WAM!BASEのこのようなエリアに保管しているから大丈夫であると言っている。

Web校正

進行中のデータを扱うWeb校正は,電子校正へ移行することで効率化を実現する。面談して打ち合わせが必要な項目と,Web校正で済む項目を,顧客と再確認した。今までは持って行くだけというものもあり,効率も悪かった。
コストダウンのためのワークフローを提案するということは,データ送受信や管理,Web校正も含めて,印刷会社だけの問題ではなく,顧客の仕事の中での流れである。校正紙も,今まで3回出していたのを1回で済ませれば,それだけコストも下がる。そのようなことも含めて,顧客と一緒にワークフローを検討し,構築した。また,顧客のなかでも,担当者は原寸大の校正紙を見なければならないが,ほかの部署では記載項目の確認だけということもある。その場合,Web校正のほうが向いているだろうということで区分けしている。
データの送受信とWeb校正については,従来の営業活動の延長線上にあるので,ここでお金をもらうことや,このようなシステムを入れているので費用が掛かるということは言えない。
データの受け渡しは,SSLを使用していることで,Webでも安心と説明している。後はだれでも理解できる操作資料を作成して,配布している。

導入による効果

今まで過去のデータ保管は当たり前という感じであった。しかし,アセッツ管理として公開するために顧客の検索項目を作るというだけで,費用を取れるようになった。顧客では,担当者以外の部署で印刷内容確認のために使用している。既に顧客社内のワークフローに組み込まれている事例がいくつもある。例えばある現場の工場では,このシステムで画像を見て最新の商品を確認するという仕組みになっている。
また,顧客の担当者やアイ企画の担当者が変わっても,引き継ぎがスムーズになった。担当が変わった時に,前のデザインなどをほかの人に頼んで見せてもらうのは面倒であるが,自分で簡単に確認できるようになっている。
Web校正については,プリントやデータの受け渡し時間が短縮された。例えば,四国のメーカーで,今までは四国から資料が来て,東京で打ち合わせをしていたが,Webでは同時校正で一挙に見ることができる。従来2日掛かっていたものが,すぐにできるようになった。
また,顧客の社内でも校正,閲覧しているので,社内の関係者にもパスワードを渡すことになった。アイ企画としては,顧客の窓口の人しか見えていなかったのが,その先の商品開発や企画担当など,いろいろな人が見えるようになった。
顧客との関係では,下請けという感覚ではなくビジネスパートナーと考えている。このようなことを行っていると,ここの校正もやりたいが,どうすればよいかなどの課題を出してもらえるようになり,パートナーという形を取れるようになった。

今後の展開

e-Graphic BankサービスをASPサービスとして展開していく予定である。ほかの印刷会社がこのシステムを使用する場合は,各印刷会社の名前で自社のアプリケーション,自社の運営サイトとして使えるような方式を目指している。ほかの印刷会社の運用アシストも行う。
Web校正についての課題は,今は校正だけで,承認のワークフローができていない。これは今後どうしていくかを課題として挙げている。
ワークフローという観点から考えると,品質と業務の合理化をワークフローとして構築することで,真のコストダウンとなっていく。見た目の値段だけではなく,中の人間が減らせることで,いかに効率化できるかということを話していきたい。

Jagat Info 2005.4号より

2005/04/19 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会