『適性使用サイズを限定した明朝体』
「本明朝-Book」の開発コンセプトは前号で述べたように、そのウエイト(太さ)と黒味(テクスチュア)は、「本明朝-L」と「本明朝-M」の中間に位置付けた。また「横線」をやや太めに、「ふところ」をややしぼって、ダズリング・イフェクト(幻惑効果)の発生を防止した。
「本明朝-Book」の両かなの字面は本明朝Mよりも小ぶりにして、ベタ組みでの安定感と紙面の空間の解放感を得るようにした。その主たる理由は、新印刷方式の登場と普及に起因している。すなわちオンデマンドプ印刷やCTP印刷の普及により、従来の明朝体のウエイトでは書籍や雑誌の文字組み印刷においては、細すぎることや太すぎるという傾向が見られるからだ。
●本文用明朝体の設計 そこで使用適性サイズは、本文サイズの11Q(8ポイント)から16Q(14ポイント)くらいを設定し設計した。
活字書体は、長年の間「視覚補整対応方式(optical scaling)」により設計されてきたという歴史がある。したがって活字書体(金属活字)の歴史のなかでは、書体の基本デザインを変えずに判別性と可読性の向上のために、活字サイズの大小の変化に応じて大きなサイズではカウンターを狭めたり鋭角な線質を和らげたりしてきた。
また小サイズではカウンターを広げることや、線質を明瞭な構成に切り替えるなどして、それぞれの種字父型に視覚補整を施しながら彫刻・描画してきたという歴史がある。
ところが、ベントン母型彫刻機が登場してからは、比例対応方式(linear scaling)の活字設計方法に変化した。というのは原図版下の設計は、最小限の種類の原図だけで複数の活字サイズに、一律に比例的な縮小または拡大する方式に対応するようになった。
また光学式写植機もすべてこの方式であり、一種類の文字盤からレンズにより拡大・縮小して文字画像を得るという方式である。そして現代のコンピュータによるDTPで用いられているデジタル・アウトラインフォントの方式も、一つのマスターフォントからソフトウェアにより拡大・縮小することは同様である。つまり比例対応方式(linear scaling)である。
比例対応方式の原図作成方式は長所も多いが、大きなサイズではカウンターが間延びした文字形象となったり、小サイズではカウンターが狭くなったり、細線部が不明瞭になって判別性に劣ることがある。
そこで「本明朝-Book」では、組版適性サイズを限定することで視覚補整対応方式(optical scaling=オプチカル・スケーリング)を実現させたともいえる。そして様式化されて硬質な線が際立ち、水平・垂直線の太さの差が大きく異なる強いコントラスト、つまり発生する「ダズリング・イフェクト」現象への対応を、初めて試みたものである。
そして組み方向は、標準を縦組みとして、中心軸を中心に縦の「寄り引き」を厳格に検証した。また横組みへの対応は、漢字書体の形姿は変えずに、主に「かな書体」の充実をもって対応した。すなわち「本明朝-Book」のかな書体は、「標準がな」「小がな」「新がな」そして「新小がな」の4種類(図参照)のかな書体を設計した(つづく)。 ※資料リョービイマジクス「本明朝Book」より
図 本明朝-Book
【参考】プリプレス/DTP/フォント関連トピックス年表
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2005/04/23 00:00:00