『「かな書体」のバリエーション』
先にも述べたように「本明朝-Book」は、組み方向は縦組みを標準として設計されている。これにより書籍・雑誌の文字印刷や読み物としての大量文書処理などの、本文印刷用にターゲットを絞ったデジタル活字(電子活字)を意識した開発指向になっている。
しかしながら横組みへの対応はといえば、組版ソフトウェアなどのアプリケーションソフトと連携して、漢字書体の形姿は変えずに主に「かな書体」のバリエーションにより対応している。すなわち「本明朝-Book」のかな書体は、「標準がな」「小がな」「新がな」「新小がな」の4種類を新たに設計している。
これらの「かな書体」は中心軸を重視し、「平がな」と「片かな」の大小関係を厳格に設定した「縦組み用」と、ベースライン揃えを重視した「横組み用」を用意したので、「本明朝-Book」のOpenTypeフォントには合計12種類の「かな書体」が存在することになった。
しかも各「かな」文字にプロポーショナル・ピッチ(つめ組み)情報をもたせているので、組版機能の「つめ組み」機能により自動的につめ組みができるという利点を生み出している。
「本明朝-Book」の基本骨格は、「本明朝-M」をベースとしているが、その中で一部において漢字の字面の大小を見直して、ベタ組みでの安定感と紙面の「ゆとり」を生み出している。また「かな書体」にも工夫を施して、「標準かな」であってもひらがな・カタカナともに、やや小振りの設定になっている。
●アナログ感覚を活かしたエレメント
縦線の終筆部にも大きな工夫がなされている。「本明朝-Book」の縦線の終筆は直線としてまとめてはいない。「本明朝-Book」の縦線とその終筆部は、わずかに膨らみがあり、なだらかな自然に見られる、やさしいカーブを描いている。
垂直線は空間を断ち切るように作用し、微妙なカーブの線質は優雅な調和をもたらしている。つまり柔軟な縦線は、森の木立を連想させる。そこでは魅力的な自然の囁きが交わされているわけである。
このように微細な配慮と工夫を重ねて「本明朝-Book」は開発がなされている。これらの努力は快適な読書環境を維持するために、加えて快適な読書のために、そして快適な文字組版環境の提示のためになされているわけである。
ここでの「本明朝-Book」は、すでに電子活字とかアウトラインフォントということは意識されていない。人が造り、人が組み上げ、人が読むという、こうした環境への配慮にもとづいて開発されている。
著名なユニバースの制作者アドリアン・フルティガーは、著書「活字の宇宙」のなかで、読書を穏やかに支援する本文用書体への考察を記している。その一節で、『機械や定規で垂直に描かれた線質は、文字の境界線が際立ちすぎて相互に対立した存在になる』と指摘している。このような原理は和文書体にも同様なことがいえるであろう(つづく)。
※資料リョービイマジクス「本明朝Book」より
【参考】プリプレス/DTP/フォント関連トピックス年表
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2005/05/14 00:00:00