JAGATの推計によれば、2004年度の印刷産業の出荷額は▲2.9%で、1998年以降、7年連続のマイナス成長になった。
企業グループ単位で見ると、上場企業の売上前年比は3.3%増で営業利益率も11.1%増の増収増益となった。売上高は2年連続で前年を上回っている。一方、中小印刷業の売上前年比は▲6.3%という大幅な前年割で、こちらは1998年以降7年連続のマイナス成長になった。
この両者の差は、時代の潮流に乗った新たな製品、事業分野を開拓したか否かの違いによるものである。上場企業の分野別売上の状況を見ると、例えば、証券・カード分野では、DPS(データ・プリント・サービス)やICカードの分野は大きく伸びているが、従来のBF関係はマイナス成長になっている。パッケージ分野では、従来からの紙器、軟包装一般の売上は前年を下回っているが環境対応製品は順調に伸びている。さらに、エレクトロニクス関係の好調も、2004年度の増収増益に大きく寄与している。
一方、商業印刷分野は、全体平均では前年比3.9%増であったが、売上が増加した企業と減少した企業は丁度半々で、既存市場における競争の激しさを物語っている。
JAGATの会員企業を対象にした2004年度経営力アンケート調査結果によれば、縮小均衡によって何とか収益性を維持しているのが多くの企業の現状である。売上が下がれば下がった分だけの対処をするというやり方で何とか黒字を維持はしているが、収益性が次第に低くなりジリ貧に向かっている。
そのような中で、これから10年程度は間違いなく、活力、収益性ともに維持できると思わせる会社がある。1社はとにかく人材の質に拘っている企業であり、もう1社は常に新事業へのチャレンジを続けている企業である。いずれも、経営者の強い信念を貫いてきている例であり、業績にそれなりの波はあるものの基本的には縮小均衡の方向はとらず活力を維持している。
日本の経済も、2006年当りからデフレを脱して実質成長率で1.5%程度の安定成長に戻るとの見方が一般的になりつつある。しかし、印刷業界ではプリプレスの付加価値低下と供給力過剰はまだまだ解消されないので、今後、印刷産業全体が伸びていくためには、新たな事業領域を開拓、拡大していかなければならないことはいうまでもない。
具体的には、ソフトサービス化の仕切り直しとデジタルメディアと連携した印刷産業ビジョンの実現がテーマになるが、このときに大きな課題となるのが、人材の確保・育成である。
例えば、ソフトサービス化を考えるならば、ディレクター、コーディネータ、プロデューサーと呼ばれる創造力を発揮する人材が不可欠だが、そのような人材は今までの印刷業界にはあまりいなかったタイプである。そして、そのような人材の確保,育成には、内部の人間に対する評価尺度を変えていかなければならないが、業界ではこの点についてほとんど考えられてこなかったように思われる。
従来、日本的経営の強みは組織力による企業経営であったが、ソフトサービス化は「1対多」の関係になる。それは、1人の人間が千人に勝てるということであり、1人の有能な人間がいれば数十億円のビジネスもできるということである。そして、もし、そのような人材がいれば、その人間には千人分の給料を払ってもいいわけである。それが,ソフト・サービスを評価する会社というものである。従来の工場で働いている人と同じように、時間をベースとして評価したり、課長なのに部長より多く払うわけにはいかないといっている会社では、創造力を発揮させる人材は雇うことも育てることもできない。2004年の納税額日本一は、ソフトサービス産業の典型である金融業界の企業のサラリーマン部長であった。
印刷企業におけるソフトサービス化の仕切り直し、あるいはデジタルメディアと連携した印刷産業ビジョンの実現のためには、人の尺度を見直し、制度としても契約社員制度や出来高性などの新しい雇用精度を持ち込む必要があるだろう。
JAGATの推計によれば、従来の市場の範囲内での仕事量は年率0.5%程度の伸びになると予想された。ただし、これは仕事量に関するもので価格低下が続けば印刷産業の出荷額はマイナスが続くことになり、今後とも供給力過は継続すると見なければならない。ということは、企業淘汰はさらに進むということである。
来る6月23日に開催する JAGAT大会2005 「変化を乗りきるための「人材」像」では、印刷業界の現状と上記の予測結果を報告し、その上で縮小均衡のジリ貧から脱して新たな事業領域拡大を目指す企業にとっての「人材」について考えていただく機会として企画しました。
2005/06/06 00:00:00