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顔が見えないからこそ,コミュニケーションが重要になる

株式会社シュービ

横浜市港北区にある株式会社シュービが,Webサイトを利用した印刷物受注を開始してから既に6年目,現在では売り上げの4割をWeb経由の受注が占める。Webでの印刷物受注を始めた経緯と現状について,同社村田俊夫社長にお話を伺った。
同社は,もともとDPE店を経営していた村田社長の父である村田秀雄氏が1981年に創業した。現在,従業員数はパートなどを含めて25名,年商は約4億円である。 同社がWebを利用して受注を始めたのは1999年で,開始したきっかけは,営業担当者が既存の大手顧客専属で,それ以外に営業担当者がいなかったということがある。そのため新規開拓を含め,効率的に受注を獲得するにはWebサイトでの受注が最適なのではないかと考えた。
結果から言うと当初の期待どおりと言えるのではないだろうか。
現在,同社の受注件数の90〜95%がWebでの受注になっており,売り上げの比率では4割を占める。そのほか電話帳で調べたり,看板を見たりした後でWebから依頼してくる場合もあるので,新規受注のほとんどがWeb経由といってもよいだろう。
「当社は既存顧客への専属営業が一人いるだけなので,新規開拓を行う人間がいません。ですから,現状ではWebで新規開拓を行っていると考えています。従ってWebで獲得したお客様をどうやって,継続するお客様につなげるかがポイントになります」(村田社長)。
同社は制作部門ももっているが,現状では既存の大手得意先の仕事でほぼ手一杯になっている。そのため,制作の仕事から受注すると作業的に非常に厳しいものがある。一方,Web受注はデジタルデータでの入稿となるので,制作部門の負荷を増やすことなく受注できる。
Webで受注しているものは,少部数で低価格のものが多いが,100%デジタルデータで入稿されるので余計なコストや手間はほとんど発生しない。データ的に問題がある場合にも,修正料金が発生するので,ほとんど顧客がデータ修正して再入稿する。
顧客層は個人(SOHO)が主体で,件数では9割,金額で見ると5割程度になる。Webサイトでの受注は月に約1500〜1600万円になる。
「窓口はWebサイトですが,その後はあまりインターネットを意識せずに,リピーターを獲得できるようにフォローしていきます」(村田社長)。

入稿から中1日で印刷・発送

毎月,雑誌広告も行っているが,顧客は圧倒的に検索して同社サイトを訪れ発注するケースが多い。従ってどの検索エンジンでも上位に表示されるように工夫している。
入稿の受け付け,対応は基本的には営業時間内の対応となる。原稿はメールかFTPでの入稿が6割,残りが宅配便などである。困るのが無料のデータ送信サービスを利用しているケースだ。問題のない場合もあるが,サーバの混雑状況などにより,発注側はデータをアップしても同社側でデータを受け取ることができないことがある。特に納期的にぎりぎりの場合には対応できないので,このような無料データ送信サービスでの受け付けは行わないと語る。
仕事の種類は会社案内などの約9割がパンフレット類で,ほとんどがカラーものになる。部数は1000部から3000部ぐらいの仕事が多い。
印刷はすべてオフセット印刷で,社内にB2と菊4裁の4色機が各1台あり,製本は外注している。
Web受注は村田社長を含めて3名で担当している。完全データ入稿とはいえ,完全でない部分もあり,必ずしもそのまま印刷できるデータとは限らない。従って,3名でデータチェックを行い,顧客と電話やメールなどでコンタクトを取って進行する。
データについては新規顧客は,やはりデータの完成度が低い傾向にある。しかし,同社ではデータの不都合な部分についてアドバイスを行っているので,リピーターになるとデータ完成度は高くなると語る。
同社は当日17:00までに入ったデータは翌日に印刷して,翌々日の発送となっている。そこで,急ぎの場合,特に問題になるのがデータの完成度なので,印刷会社を初めて利用する顧客の場合は,プリフライトを含め事前のチェックは欠かせないと語る。確認後,OKデータはCTP出力されて印刷に回る。
データ入稿のアプリケーションの種類は約9割がIllustratorで,残りがWindowsのOffice系データなどになる。Office系データはWordが約7割で残りがExcel,PowerPointである。 「入稿翌日の印刷となると,どうしても入稿当日に下版というスケジュールを組みたいのです。そこで,急ぎで初めてのお客様で,なおかつ初めて印刷会社を利用するという場合には,入稿してからデータのチェックでは,データ不備があると間に合わなくなる場合があります。そういうケースでは電話で確認して,とにかく完成データでなくても良いので事前に送ってもらいます。
チェックしてみるとRGBデータのままだったり,トンボがなかったり,巻き三つ折りや観音開きなのに折りの部分を考慮せずに,均等の寸法でデザインされていたりということが多々あります。ですから,事前に送ってもらってチェックしないととても納期を守ることは困難になります」(村田社長)。

大きなトラブルはほとんどなし

入稿されるデータが不備ということがあるほかは目立ったトラブルはない。
カラーものが多いが,仕上がった印刷物に対する評価ではほとんど問題は起こらないと語る。ごくまれにプリンタの色と合わせてほしいというような要求があるようだが,ほとんどの顧客は短納期で低価格ということで色校正などもやらないと割り切っている。同社もCTPとオフセット印刷の組み合わせで一定のレベルの印刷物を仕上げており,加えてこの5年で顧客側の印刷物制作に対する認識や知識レベルも上がった。
また,Windowsで作成されたデータはMicrosoft Office系のデータがほとんどで,このような顧客はあまり色の再現などにはこだわらない。
ただ,折衝時に同社側と顧客との理解が行き違う場合がある。これは印刷に対する理解度から,お互いの認識が違ってしまうからである。
「お客様の言ったことが,印刷のプロとしては絶対に言ったり,行ったりすることではないのですが,お客様は○○のつもりで言ったのだと主張されることがあります。同じ日本語とはいえ,印刷知識の違いなどから同じ認識にならないのです。印刷物を発注する人だから印刷用語が通じるとは限らないのです。
ただ,こういった行き違いやデータのトラブルにしても,Web経由の受発注特有のものではなくて,普通にある問題だと思います」(村田社長)。
料金回収は代引きと振り込みが半々ぐらいとなっている。振り込みの場合は事前に振り込みしてもらう。代金回収でのトラブルはほとんどない。ネットは顔が見えないだけに心配だろうが,印刷物の性質がそもそも必要に迫られて制作するもので,嫌がらせで注文できるようなものではない。ネットだから顧客を信頼できないということはない。むしろネット受注では,すべて現金ですぐに決済されるのでキャッシュフローという点では有利で,従来の仕事での売り掛けや手形などのほうが余程リスクが高いと語る。(※続きは本誌にて)

『プリンターズサークル6月号』より

2005/06/18 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会