野球のクロスプレイはclose-playの意味で、きわどい局面のことであるが、技術革新の真っ只中にある情報ビジネスも不安定で、いつ何時ひっくり返されるか判らないようなきわどいゲームであるといえる。なにしろ写植・製版の時代は手段・作業方法はほぼ固定していたのが、デジタルメディアでは手段・作業方法が流動的になったからだ。ライバルが良い方法を見出したら落伍してしまうことにつながる。
ここでいうクロスなプレイヤーとは、情報ビジネスに関しては、伝達手段の多様化によって情報ビジネスの条件が変わり行く中で、いくつものメディアや手段を適切にcrossさせながら編集や制作をする人をいう。従来のメディアごとの縦割りの世界とは別にデジタル情報をcrossしながらplayerすることが重要になったからだ。
どうしてそうなったのかという理由は ココ を参考にしてください。いずれにせよ1980年代からマルチメディアとかワンソース・マルチユースなどいろんなキーワードを使って語られてきたデジタルによる統合的な情報発信が、当時は予想もしなかったパソコンやインターネットによって現実のものとなったのである。しかし今はそれは「技術的には」という但し書きが必要な状態であって、これをどうやって利益の出るものにするのかがこれからのゲームである。
Webはビジネスにも日常生活にも溶け込み,メディアとして新聞やTVと肩を並べるほどになったが,ではWeb業界というものはあるのだろうか? Webメディアは市民権を得たけれども,作る方にしてみると,顧客に求められるので利益にならなくても引き受けざるを得ないところもまだある。デジタルメディアで業界が形成されているのはゲームくらいで,あとはまだ産業としては自立しておらず,どこかの仕事との兼業でビジネスしている黎明期である。
新しいジャンルが興る時はいつでも最初は「儲からない」時代があるが、作業方法も取引慣行も紆余曲折を経て練られて適正化し、それにうまく乗った専業者集団が形成されていく。電子メディアも今後は次第に秩序だっていくだろうから,その中で生き残るためには、自分で積んだ経験から、時代に合った効率的な仕事のやり方を見つけて,自社の新たな収益構造を作り出さねばならない。単に流行に乗って電子メディアを手がけても徒労が多く経営は長続きはしないだろう。
コンピュータを使うことやスキルはどこか特別な業界のものではなくなった。だから過去に学んだ技術で天狗になっているわけにはいかない。電子メディアに関するビジネスは、個別の技術の問題よりはビジネスに必要な要素をバランス良くしっかり持って、収益が読める人でないと作業設計は任せられない。それは社内の担当者であっても、受注する立場の人であっても同じである。
つまり、どっぷり現場でもなく、企画・プロデュースでもなく、システムやワークフローの設計をうまくまとめる制作側のディレクターの人材を育てないことには、印刷と電子メディアの比重がシフトしていく時代の制作ビジネスを舵取りできないであろう。それは、ただ言われた通りに作業するだけでは徒労が多く、制作方法にスマートな工夫をしなければ、情報発信者に認めてもらえず、利益もでないからだ。
大変リスクの大きい時代になったわけだが、従来の勢力地図が崩れるチャンスの時代であるともいえる。だから情報を扱う会社にとって制作ディレクタ人材は重要なだけではなく、個人的にも大きなチャレンジ目標が出現したといえよう。何か将来のために力をつけたいと考えているならば、このITとデザインの狭間、あるいはコンテンツとメディアの狭間にある制作ディレクタに着目して欲しい。
2005/06/21 00:00:00