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なぜJDFに取り組むのですか?

・drupa2004ではオフセット輪転機の段取り替え替え時間がほとんどのメーカーで5分ほどでできるというデモンストレーションが行われていました。オフセット印刷機はここまで進歩し,印刷機としての主要機能はほぼ開発しつくされてきたこと,つまり生産技術が成熟化し単体の機械における生産性がほぼ限界に達していることはお分かりいただけるでしょう。

・印刷の生産システムや生産機器は過去20年に大きな進歩を遂げました。機械がドンドン高性能になってきたので,結果として機械の性能の半分しか使っていなくても,実運用では生産が大きく向上できたと言えるでしょう。つまり,生産性や品質はメーカーに作ってもらっていた面が大きかったのではないでしょうか?しかし,これからは単体機械としての性能が大幅に上がりませんので,機械が持っている性能を半分しか使えないか100%発揮させられるかは,印刷会社における運用能力の優劣に掛かってきます。

・しかし実際の印刷会社ではオフ輪の段取り替えが5分で完了するということは,あまり現実的ではないかもしれません。多くの印刷会社では30分〜40分ほど掛かることでしょう。メーカーでは,5分で完了するところまで開発が進んでしまったにもかかわらず,印刷会社で段取り替えに実際にこんなに時間が掛かってしまうのは,どのような理由があるのでしょうか?

・この理由は,実際には印刷会社の中で実生産する前の段取り時にさまざまな生産情報のやり取りや品質のチャックなどが必要になるからです。理由の半分は,段取り替えを始めようとしても,未だ印刷現場に版が送られてこない,あるいは印刷機のところに紙が用意されていないなどで,これでは5分で段取替えはできません。残りの理由は,刷り出しのインキ調整,色合わせに時間かかるなど,品質管理に課題があります。品質管理に関しては,例えばカラーマネージメントの高度な利用での時短が可能で,印刷現場に校正刷りは下ろさず,その代わりに全てに印刷物の咥えに入れたカラーバーで社内のLab基準値を維持して刷り出すという印刷会社もあるのです。これが実現できたのは,顧客から営業までも巻き込んで全社的に理想的な品質管理と生産管理の組み立てができたからで,このような努力によって機械の性能を発揮させるような使い方ができています。

・今後は使う印刷会社側が努力せずに,メーカーに対して段取を更に半分の2分30秒に半減できる機械を要求しても,実運用では段取り替え時間は半減できないでしょう。つまり使う側の運用方法,企業体質が問われてくるのです。

・カラーマネージメントについても,カラーバーだけで管理できる印刷品質の安定化には機械管理(ローラ巻き替えやブラン交換の定期化)から,工場環境(倉庫に至るまでの高レベルな温湿度管理など)の高度化への大きな投資が,経営者に二の足を踏ませている,つまり品質の安定化を売り切れないという営業力の面が大きいでしょう。しかし,本来はミスロス金額と品質安定化への投資金額をMISによってきちんと検討した上での経営判断が望まれます。

・今まではメーカー主導のスピード・品質であったかもしれませんが,これからは現状の印刷会社における実運用と生産機や生産システムの持つ性能とのギャップを埋め,機器の性能を100%発揮させるためには,メーカー側からユーザー(印刷会社)側に,運用の責任がバトンタッチされたとい言っても良いのです。そこで生産管理のレベルを上げて,生産の効率化を期待できるのが「印刷CIM(CIM-シム−とはComputer Integrated Manufacturingの略で,コンピュータ統合生産)」の実現にあります。印刷CIMは使う側の運用が決め手であり,印刷会社の体質・組織力・人間力の有無優劣が,これからの企業間格差の大きな要素になります(下図)。



・生産管理や品質管理のレベルをさらに向上させるためには,MISの再構築,CMSの再構築,体質改善などが必要であり,ここには「人間力と機械力」の両面が重要です。運用力/組織力/企業体質は人間力といえるもので,向上するには体質改善や社内ルールの標準化,社員教育など企業風土の刷新が求められます。運用面ではIT技術の上手な利用が必要で,生産の電子情報をやりとりする仕組みとしてJDFという標準フォーマットが利用できるのです。ドンブリ勘定から標準手順・標準工数を軸にしたスキルレスな生産計画のシミュレーションを実現できるなど, 利幅の少ないビジネスの中で,工場全体としてミスロスが無いく効率の良い生産を可能にする印刷工場のCIM化を進める上でもMIS/JDFは重要であり,この部分は営業・業務などのホワイトカラーの生産性向上を目指す活動です。

・機械(生産機械)力はメーカーが提供する生産機器や制作ツールなどで,これからはプリプレスから印刷・加工までのインライン型やワンパス型自動化システムの開発提供が求められます。これには,MIS/JDFワークフロー,DTP・CTP自動化ワークフロー,クロスメディア対応ワークフローツール,両面機(枚葉),インラインWコーター,自動化ワークフローを組み込んだPOD(オンデマンド機)などがあるでしょう。ワンパスによる生産性向上が狙いです。

・外部環境的には,フレームワークの変化,コモディティとの戦い,電子入札・EC受注などe-JAPAN/u-JAPANなどに見られるEDIへの対応も求められます。そこで顧客・営業支援としてのスピード対応,ワンストップサービス対応,コンプライアンスやIT化(フルデジタル化)への対応などが必要です。このためには,24時間365日対応力,オンデマンドビジネス対応力機,御用聞き営業の高度化,マーケティング/企画提案力,クロスメディア統合処理能力(DTP/クロスメディア),アセッツやリモート管理など,ITの力を借りなければならないもの,しかも標準化が必要なものがたくさんあります。

・印刷CIMは一律なものはなく,これらの要素を印刷会社それぞれが取捨選択して「それぞれの印刷CIM」として実現した結果が,顧客満足(CS)の最大化の達成へ大きな手段になるでしょう。そして,印刷CIMのコントロールセンターであるMISを組み立てるための重要な標準フォーマットとしてJDFがあるのです。
 (JDFフォーラムジャパン公開無料セミナー資料/プリンターズサークル2005.7月号より JAGAT相馬謙一)

2005/07/05 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会