DTPへの投資が新しい仕事を呼び込んだり、電子メディアなどの新しいビジネスに結びつくような、好循環になっているだろうか。企業はコストダウンでサバイバルするためだけにDTP化を進め、働く人は目先の食いブチのためにしかDTPを学ぼうとしないのなら、寂しい話しではないか。これではDTPも先細りしてしまうだろう。
残念なことにグラフィックアーツ業界全体は現実的なメリットを重視するあまり、将来的なビジネスの芽を見つけられない傾向がある。DTPソフトのバージョンが新しくなっても、新たに指向の異なるソフトが出ても、「笛吹けど踊らず」になりつつある。開発者が新たに機能を盛り込んだ時の想像力に比べて、使う側の想像力の減退を感じずにはいられない。
DTPがまだ未熟だった初期に取り組んでいた人にはデザイナが多いが、その人達はシステムの機能の不足分を自分のクリエイティビティで補って使っていた。書体が足りなくてもカバーするだけの想像力を持っていた。これはほんの一面で、プリプレスではDTPの生産性の低さを、外部のデータ処理によって補うとか、印刷物の設計を見なおすというような工夫も盛んだった。要するにDTPの「足りなさ」が想像力を掻き立てる要素のひとつでもあった。
そのような挑戦的な人々の中には、DTPが「満ち足りる」にしたがって、マルチメディアや3DやWEBやオンデマンド印刷など、別のフロンティアに移っていった例も多い。DTPが彼等を引き留めておけなかったのは、スタンドアロンのパッケージソフトウェアという狭い範囲では工夫の限界があったからかもしれない。しかし、今やネットワーク上でデータを飛び交わせながら制作ができる時代を迎えたのだから、DTPにからめたデッカイ仕事が可能になるのである。
DTPの普及とは、しだいに想像力のない人にまで使わせるようになったことだったのかもしれない。しかし現状に満足していない人は、自分の脳みそにこびりついた垢を落として、新鮮な目で今日の状況を見れば、きっと21世紀のビジネスモデルが思い浮かぶだろう。新たな視点という点ではサバイバルと今後の発展は別物ではない。グラフィックアーツのビジネスの発展の可能性が見つけられないのは、従来の惰性が自分の想像力を曇らせたと考えて、PAGE2000ではスケールのデッカイ発展のシナリオで blue sky を見えるようにしたい。
今まさに皆さんが行おうとしているのは、コンピュータとネットワークの活用なのだが,これにはグラフィックアーツの過去の経験とは異なる能力が求められる。だから無いものを得るための情報技術戦略(IT戦略)を自分で作ることがグラフィクスの課題である。それはイントラネット・エキストラネット,XML,データベースという技術を共通基盤として,ECを取りこんで価値あるプロセスを顧客と一緒に築くための道筋である。
アメリカで Digital Roadmap というプロジェクトが、ベンダー/ユーザ/クライアントの垣根を越えて、このための道筋作りをしているが、PAGE2000の基調講演はこのプロジェクトの Bill Davison にお願いした。実は一昨年お願いした Mills Davis に再度来てもらおうと思ったのだが、今回のテーマは同僚のBillが適任ということで、印刷物の案内状とは変わることになる。
いずれにせよ結論は同じである。グラフィックサービスがネット上で行われるようになるという方向性である。このことを日本の現状から考えるセッションが別にあり、ネットワーク戦略(D1)、電子受発注トラック(B4,B5,B6)で、印刷会社/クライアントの双方が話し合う。ホットなニュースは、新聞広告が業界単位で動き出したことである。
Billの話しは商売だけでなくCIMまでも包含するという。印刷物制作の現場側で将来に向けて整えるべき環境の最たるものはCTP/フルデジタルであり、制作の線路はPDF workflowになることが決まった。従来のスタンドアロンのDTPはこれに合わせるように再編が行われつつある。当然Adobeが先行していてInDesignなどが戦略兵器に位置付けられているが、次世代DTP(D4)はAdobe以外の力の方が重要かもしれない。自動組版(D3)も深めなければならない。そしてワークフロー管理(D6)というのが効率化のキーとなる。
2番目の整えるべき環境は、カラーのオープン化である。これには、色校正の今後(C6)、カラーマネジメント(D2)というセッションの他に、展示でもJAGATコーナーである企画をしている。3番目は必ずしも全業者が対象ではないが、従来文字物や情報出版をしていたところにとって必須な課題となったのが、SGML/XML(B1,B2,B3)という環境である。
ではこのような情報環境を整えると、将来どうなるのか? それは今まで話題にはなったが果たせなかったマルチメディア、クロスメディア(A4,A5,A6)、1to1・POD(D5)などが次第にビジネスに載り、グラフィックアーツ業界が21世紀メディア(A1,A2,A3)の担い手として今後も発展できることが狙いなのである。
PAGE99やPAGE98の情報で予習して、ぜひPAGE2000で強烈な刺激が得られるようになっていただきたい。PAGE2000特別連載記事もあります。
2000/01/15 00:00:00